Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    higuyogu

    @higuyogu

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 76

    higuyogu

    ☆quiet follow

    エフエルオ。せいセル。ベッさんジークさんまじめんご。ぷらいべったーから

    オレは釣り人だ。ログハウスで、もう一人神の使いというやつと二人で住んでいる。だけどいつも一人で寝ている。ベットがひとつしかない。同居人はたまに顔を出すだけで、あまり帰ってこない。
    以前は1人用の家を与えられていたが、いつの日だか2人用の家に移らないかとあいつは言ってきた。ひとりよりはふたり っつうだろ?あと敷地面積の節約になるんだよ。だと。まあ別におれもこいつと同じ屋根の下で過ごすことに抵抗はなかったから、そのときは二つ返事で承諾した。

    今日も1人で起きた。部屋に置かれた唯一のベットは1人用なので、1人で寝るには申し分ない狭さだ。のそりと起き上がり、今日のことを考える。どこへ釣りに行こうか、それとも新しい場所を探しに行くか、道具のメンテナンスもしなくては、など。寝巻きから着替えて、顔だとか歯だとかを洗い、簡単なおかずをこさえてパンをかじる。


    1人でいることは苦ではない。むしろ1人で行動することのほうが多い。だからこの家が名目上のみ2人の家になっていることに困ってはいなかった。それに自分自身も家にいるより外で活動している方が性に合っているので、この場所は、雨風をしのいで快適に寝るくらいにしか使っていない。思い入れもこれといって特にない。
    だけどたまに、なぜいつもこの家でひとりで寝起きしているのかと、考えてしまうことはあった。

    久しぶりにあいつと一緒に出かけた。オレのほかにオランドさんとロッタナも連れて、大きな浜辺で素材を集めている。今日はなるべく早く回収を済ませてしまいたかったらしい。あいつはお前がいると釣るのも早くすんで良いよ、と笑っていた。

    いつも一緒の人、今日は連れてこなくてよかったのか?

    "いつものメンツ"でいくなら、オレじゃなくてジークさんが入る。だから今日はイレギュラーな日だ。
    ジークさんはあの村に集められたやつらの中で一番強くて、どんな時もこいつはその人を連れて歩いていた。
    でも今日はその人のかわりにオレが入っている。それがすごく妙で、訳でも聞けば座りが良くなるかと思った。それにしてもまあまあ棘のある言い方になってしまった。

    今回はモンスターを狩りにきたわけじゃないからな、

    にへっと笑いながら返してきた。


    あまり海で釣りをしたことはない。絶えない波が新鮮だ。湖にも波はあるが、高さがまるで違う。さらに強く吹き付ける風もあって、なかなか集中力を保つのが難しい。しかしそれはそれで楽しいのだ。
    錨の形をした桟橋から糸を垂らす。

    ここってよく鯛が釣れんだよ、あの赤い魚。

    釣りを開始してから最初に釣り上げた魚だ。今は黒い鯉みたいなものが良く釣れる。

    名前は聞いたことあったけど、あれがタイなのか。たしかに赤い。にしてもここらの魚、なかなか手強いじゃねえか。ずっと一人で釣ってたのかよ

    あはは、誘おうとは思ってたぞ

    まったく、抜け駆けしやがって

    だってパーティは四人までしか組めねえじゃん。それにオレ、釣りはそこそこ得意なんだ、誰かさんにつけてもらったおかげでさ!

    けっ、よく言うぜ!

    分かってはいる。適材適所なんだ。鉱石も木材も採取に時間と労力がかかるし、モンスター討伐も強い奴がいないと話にならない。釣りは楽しいし1人でもできてしまうから後に後にまわってしまうんだ。仕方ないだろ

    夜、仮眠も含めた長めの休みをとっている。起こした焚き火で魚を焼いた。2人づつ交代制で番をする。あいつは今寝ている。何気に初めて見た顔だったかもしれない。

    なんだよこいつ、寝れたのかよ

    オレを除く2人はここのところこの海岸に連れ出されている。だからこいつの寝ているところなんか見慣れたもんなのだろう。
    別に寝顔が見たいわけじゃない。野郎の無防備な姿に興奮はしない。ただまた昼のように腹が立った。なぜだ、本当は寂しかった?そんな訳はない。じゃあなぜだ

    もしかしてヤキモチ?

    っげーよ、そうじゃねえ。だって、なんか居心地悪いだろ、2人で住んでる家だってのに。

    ああー、それは確かに。

    これでさ、朝とかに帰ってきて昼寝てる、とかなら分かるんだ。でもあいつは昼も帰ってこない。夜もいない。これなら外で寝る方がまだマシってんだよ。

    そうかあ、それは確かに、なんで一緒に住んでるか分からなくなっちゃうかも

    なんであいつはオレをあの家にぶち込んだんだろう…1人で家に住むんでも全然平気だし、むしろ家なんかなくても生きてけるんだ。

    もちろん家をもらったこと自体は嬉しかったさ。だから今でも村にいるなら毎晩あの家に帰る。…でもやっぱり、もう1人いるべきはずのヤツがいないってのは、なんか落ち着かない。

    その話は、本人にしてみたの?

    いや、まだ、できてない

    うん、そうよね。私もそんな話題切り出せるか分からない。
    でもね、一緒の家に住んでるのよね、それならお互いが満足できるところをちゃんと探したほうがいいんじゃないかな。そうしないと、どちらかがいつか限界になっちゃう。それってお互いに困っちゃうでしょ

    そうか、自分だけじゃなく相手のためにもってことか。
    一方的なわがままってわけじゃない…

    うん、そうだよ

    彼女はオレのくだらない話にうんうんと仕切りに相槌を打ち、かなり真剣に付き合ってくれた。


    朝日が昇る頃にまた採取を再開した。昼頃にはあらかた周りきったので帰路に着いた。
    村についてあれやこれやと採ってきた資材を整理し終え、一息つけるようになったのであいつを探した。昨日ロッタナに打ち明けたことで、少し自分の中で整理がついたのだ。だから今ならガツンと言ってやれる気がした。
    しかしいくら探せどあいつは見つからなかった。見かけたというやつから話を聞くと、どうも相棒となんかの討伐に行ったらしい。結局その日もあいつは家に帰ってこなかった。

    あれから何日たってもあいつには会えなかった。これもいつものことだ。それでも何かを変えたくて村中を歩き回りあいつが帰ってきてないか探した。



    お気に入りのポイントで釣ってきた帰り、釣果はまあまあだ。気分が重い。体を引きずるようにあの家までたどり着く。家を前にしてさらに気が沈む。まただ。また今日もここを1人で使う。

    呼び止められた。冴えた水色に品のある鎧を着て、腰には自身の肩書きでもある細身の剣を引っさげている。件の王国兵士だ。この村に一番最初に招かれたやつだ。

    もし時間があるなら、少し話に付き合っていただけないだろうか

    今までの探索のみならず、どんな時もどんな所にもずっと引き抜かれ続けてた奴が、いったいオレにどんな話をするつもりなのだろうか。くすぶっていた感情に油が注がれたようで、うまく言葉が出てこない

    おまえ…ジークさんが一体、オレに何の用ですか

    あの人だ、その家のもう1人の家主のことで話がしたい。

    正直今一番聞きたくない話だ。なんでこの人はこんなに間が悪いんだろう。

    ジークさんの方があいつのことよく知ってるのは分かってます。オレに話すことなんかないですよ

    そんな風に、上から、馬鹿にしてんのか

    違う、あの人にとっては私よりあなたの方が大事なんだ。だからこそ話したいことがある

    聞き捨てならない嘘だ。そんなことはない。ありえない。もしそうだとしたら多分オレはもっと外で、モンスターにも果敢に立ち向かって、自分の時間も確保できないくらい連れまわされているはずだ。あんたみたいに

    …なんですか、丸め込みに来たんですか。あいつのこと許してやれって、聞きたくねえよ!

    そうじゃないんだ、頼む、話を聞いてほしい!

    うるせえ!

    勢いに任せて扉をこじ開ける。なるべく大きな音がなるように締めたものの、まだむしゃくしゃして、手に持っていた全てのものを床にぶちまけた。もっと派手な音が出た。
    対して心が軽くなるわけでもなく、腹の中はいまだドロリとしたもので支配されている。少し虚しくなって床を見た。
    飛び散った魚、そっぽを向いた釣竿
    しばらくそれらを眺めていた。
    そしていくぶんか正気に戻った頃、目の前の光景のおぞましさに頭が真っ白になって、それから全身が徐々に言うことを聞かなくなっていく。

    こんなの完全な八つ当たりだ。あの人は本当はオレに助け船を出そうとしてくれていたんだ。なのにあろうことか、それを無下にしてしまった。魚だって生きていた。なのにこっちの都合で陸に引きずり出された挙句、ただの癇癪で床に投げ捨てられた。道具だって、これがないとオレは何にもできない。なのに壊れてもおかしくないことをした。全部叩きつけてしまった。こんなことは許されない
    ぐちゃぐちゃになった感情は簡単には治らない。立て直すにも罪悪感と苛立ちと劣等感はいよいよ全身を鉛に変え、身動きを封じる。気づいたら崩れ落ちていた。必死で嗚咽を抑えた。
    今は泣いてる場合ではないことは分かっている。今少なくともできることは、魚を捌いていくらか保存しやすくすることだ。びっくりするくらいゆっくりとしか動けなかった。情け無いことに脚もフラフラだった。なんとか立ち上がり、ごめんと言って魚を拾い上げた。捌いている間も涙は止まらなかった。

    魚の形の帽子をはずし、ベットに置いた。釣竿は幸い折れていなかったが、後でちゃんと点検すべきだろう。
    今日は疲れた。床に座って壁にもたれかかる。部屋の中で魚を捌き、今も部屋の窓辺に置いてあるので、もしかしたらとても生臭いのかもしれない。水で血を流さなかったので食べても臭いかもしれない。あのベッドで寝るという考えは微塵も無かった。今日は0点、いやマイナスだな。ひどい態度、ひどい行動、八つ当たり、から回る中身のない反省を反芻しているうちに眠ってしまった。


    おい、おい!生きてんだろ、目を開けろ!

    んあ、なんだよ…人が寝てるとこ…

    ああ、よかっ、…は⁈なんだよ、寝てただけかよ…
    はー、まじビビった

    強くどつかれさらに大声で叫ばれ目が覚めた。何事かと思えばあいつが目の前にいた。ここはあの家の中であるはずだ。なんで

    入ってみりゃ部屋中血なまぐさいし、お前は血まみれで倒れてるし、ほんとに早まったんじゃないかって焦ったよ…

    なんでオレが早まる必要があるんだ?

    え、ああ…その、ジークにさ、言われたんだよ。自分が何をしてきたのか今すぐ見に行けって。めっちゃ怖かった

    それで、何をしにきたんだよ

    ええとあの、説明を、
    その、お前が訴えようとしていたのはなんでオレが全く家に帰らなかったか、ってことだよな?
    率直に言えば、気づかなかったんだ、家があることに。えと、実のところなんで家が必要なのか分かんなくて…
    でも夜になればお前がこの家で寝ているから、そのことを考えるとオレは頑張ろうと思えたんだ。だから今では家って必要なんだと思っている。

    自分の価値観にそぐわない物を他人に贈る神経もどうかしてやがるが、今の話だとおれがまるでペットじゃねえか

    そうかもしれない。

    そうって、

    今さら殴りかかる気力はなかった。この村に来たことも、今までの積み重ねも、なにもかもが最初から無駄だったような気がしてくる。
    重たい空気が充満している。でもそれをどうにかするのはおれじゃない。アクションを起こすなら早くしてくれ。しないなら早く出て行け。もう今日は寝てしまいたいんだ。

    違う

    …は?

    ちげーよ、お前のことペットだとか思ったこと一度もない!

    ペットじゃなかったら…

    あの、友達…よりもっと大事な人

    やっすいな

    安いかもしんないけど、でもそうじゃなかったら2人で住もうだなんて言わねえよ

    …今さらか、それで許されると思ってるのか?
    いいよなおまえはさ。おれさあ、さっきジークさんに酷いこと言っちまったんだぞ?釣った魚もぶちまけて、お前からもらった道具も傷つけて、…
    なあおい、どうするんだよ!オレ、クズじゃねえかっ それで、またここで、オレがやっちまったこと全部おまえのせいにしたら、そしたら、オレ、ほんとにっ

    散り散りになりそうな言葉をなんとか集めるのに必死になっていたら、頬に手を当てられた。当然はたき落とす。それでもあいつはおれを触りたいのか手を伸ばしてきた。何様だ、お前はそんなことができる立場にいるのか。
    近づいてくるこいつを押しのけようとした。そしたら押し出した腕を掴み上げられ、そのまま覆うように抱きとめられてしまった。
    背中に回された手ががっちりと動かない。もう片方の手は頭をゆるく撫でている。抜け出したいのになぜかできなかった。
    酷い屈辱だ。さんざん振り回されて、挙句にその手で慰められている。もうこいつの肩に顔を埋めて泣くしかなくなったオレの顔の横で、ずっとごめん、ごめん、ごめん、と言っている。反抗の意を表すために拳をこいつの腕に叩きつけ、だまれ、だまれ、だまれ、と返した。
    それでも背中を撫でる手は、悔しいことにオレを落ち着かせるのに十分だったらしい。いや疲れていただけだ。だから悪態をつき続けるのがめんどくさくなっただけだ。だんだん瞼が重くなってそのまま眠った。



    この間はすみませんでした!

    釣った魚を渡して詫びた。緑の魚ではなく食べて美味しいうなぎを渡した。

    あ、頭を上げてくれ!私の方こそ、申し訳なかった。非はこちらにある、だからこのようなものはいただくことはできない!

    オレの気がすまないんです!

    いや、しかし… ああ、う、そ、そういうことなら頂戴する。ありがとう。立派なうなぎだ

    ジークさんはそう言ってオレが釣ったうなぎを受け取ってくれた。それから近くのベンチに二人で腰をかけた。


    あの人はあなたと釣りをするようになってから変わったような気がする

    オレと、ですか?

    それまでは何かに取り憑かれたかのように、目の前に積み上げられた課題をひたすら消化していたんだ。そうするために作られた機械のようだった。

    あのめんどくさがりからは想像しが違った。半分生業と化している海岸めぐりも趣味の一環なんじゃなかったのか

    私は当時、これが神の使いというものだと思っていた。でもどうやら違ったらしいことに気づいたのは、あの人の隣に君が来てからだった。
    私はそれまで彼の笑い声を聞いたことがなかった。初めて聞いたのは、彼が自分の手で魚をやっと釣り上げたときだ。君に誘われて初めて釣りをしたときのことだよ。

    ああ、そういえば懐かしい。ブラックギルが必要だから釣ってほしいと頼まれてパーティで一緒に滝の洞窟に行くようになった頃だ。ずっと表情を変えずに張り付いた笑顔のままでいるあいつが気味が悪く、だから自分が一番楽しいと思える釣りを勧めたんだ。慣れない手つきで不器用に竿を操って、長い奮闘の末にようやく釣り上げたギルを手にして笑った。それからオレはあいつと親睦を深めたから、そこまで笑っていなかったのは初めて知った。

    今はずいぶんといろんな表情を見せるようになって少し安心しているのだ。人の生き方に憂いたり喜んだりするのは失礼だと承知はしているのだがな…
    それだけに、彼が君に対して、恩を忘れたかのようにないがしろな扱いをしているのが許せなかった。いや、見ていられなかったのだ。大切に思ってくれている人が離れて、知らぬ間に孤立してしまうあの人を見たくなかった。

    オレは別に、多分ジークさんほどあいつのこと大事だとか思ってないですよ…

    でも良き友なのだろう?

    まあ、釣り仲間ってかんじですけど

    フフッ。それは十分、私にはできないことだ。
    …無理強いをしたいつもりではないが、どうかこれからもあの人の友であってくれ。もちろん今回みたいに振り回されることもあるだろう。あの人は幼い。耐えられなくなったら縁を切ってしまってもいい。でも、それまでは側にいてやってほしいのだ。

    …そうですね。

    少しうつむいて手元に視線を落としていた。
    オレがいない間、ジークさんが見てきたあいつの姿はどんなものなのかオレには分からない。ただこの人は真面目な人だし、あいつのことを見ていても何となく察することはある。
    気分を変えるため、上を見上げて思いっきり空気を吸い込んではいた。視線を前に戻すと不審にこちらをうかがう人影があった。あいつだ。

    おーい、何してんだ?来るなら来いよ!

    手を振って呼んでみると、おどおどしたそぶりてやってきた。いつも調子よさそうにしているこいつが警戒してる猫みたいになっているのはなんだかおかしかった。

    ジーク、昨日はごめん、なさい

    オレには謝らねえのか?

    あ、謝っただろ!ごめんっていっぱい…

    そうだな。被害者は私ではなくこの方のほうだ。ちゃんとしっかり謝りなさい。

    う、……べ、ベッセル、ごめんなさい…

    ジークさんに諭され、小さく縮こまったこいつに、二人で笑ってしまった。いい気味というのもあるが、それ以上に庇護されるべき子供のようだったからだ。あいつは耳まで赤くして涙目になっている。

    まったく、しかたねえな。許すよ。

    ああ、ちゃんと謝れて偉いぞ。
    さて、それでは私はそろそろ見回りに行こうと思う。ベッセル殿、鰻をありがとう。美味しくいただかせてもらおう。主人公、これからもちゃんと誠意を持って人と関わるのだ。
    それではまた。

    そう言って立ち去った。ジークさんを見送って、二人になったオレらは少し無言になった。しばらくして、あいつがなさけない面で絞り出すような声でまた ごめん と言った。


    んー、じゃあ釣りに付き合ってくれよ。この前大きな魚影を見たんだ。

    カジキ?

    海じゃなくて洞窟でだよ。多分あれクリスタルバスだ。付き合ってくれるよな?

    あ、おう!もちろん!


    それから大急ぎで出かける準備をした。すっかりこいつも笑顔に戻っている。なんだか久しぶりにワクワクした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works