触れる 小平太は長次の流れるような髪が好きだ。柔らかくて指が滑る髪に触れて、梳いて、それから毛先に唇を落とす。
何度もしているその行為に長次は毎回恥ずかしそうに頬を染める。一見して変化がないようにも見えるが、小平太には違いが分かっていた。
「……小平太」
「ん?」
「ここは、図書室だ……」
今日も小平太が長次の隣に逆向きに腰を下ろし、寄りかかりながら一つにまとめられた髪に指を通していると、長次から不満の混じった声で注意された。図書室だから何だというのだろう。
「静かにしているではないか」
「そうじゃない」
「じゃあなんだ?」
「…………」
傍目にはもそとしか聞こえない声も小平太にはしっかり伝わる。しかし意図までは伝わらなかったようだ。
1983