甘酸っぱいの隠し味 自室で新曲の作詞をしているティターニアが椅子から立ち上がる。
煮詰まった頭をすっきりさせるために、コーヒーブレイクを挟むことにした。買ったばかりのコーヒーミルにお気に入りの豆を入れて手動で砕く時間も、気分転換の一環だ。
甘い外見に似合わず苦いものを好むティターニアは、部屋に漂った香ばしいコーヒーの香りを吸い込み、少しだけ口端を上げる。
行儀悪く歩きながら慎重に熱々のコーヒーを啜り、元いた席に戻ってきた。
「はー、美味しい……。やっぱりコーヒーはブラックに限るわ」
砂糖やミルクなんて邪道ね、邪道、と自分しかいない空間で呟く。
体が内からじんわり温まっていくのを感じながら、先ほどまで苦戦していた作詞ノートを見やった。ペンが転がっているノートには一文字も書かれておらず、進捗どうですかと聞かれたら自信をもって進捗駄目ですと言い切れてしまうほどの驚きの白さだ。
8012