お題:秘密 たった一つ、隠岐が持っていた秘密。誰にも知られることのなかったその秘密に気付いたのは水上だけだった。生駒隊を除隊するまで誰にも気づかれずに貫き通した秘密を、水上もまた誰にも言わなかった。
生駒隊の最終日、みんなは盛大に祝ってくれた。今までありがとうと感謝の言葉もたくさん貰った。仲の良かった他の隊員も会いに来てくれてみんなと一緒に騒いで過ごした。そんな時間が楽しくて寂しくて、隊室をそっと後にした。
「隠岐」
誰にも気づかれずに出たと思っていたが、水上はそんな隠岐の考えもお見通しらしい。肝心なところは見逃してくれなかった。どうせなら最後まで気づかないフリをしてくれたら良かったのに。
「水上先輩、ほんまにお世話になりました」
「その割には何も言わんと帰るんか」
「しんみりするんは性に合わんのです~」
だから見逃してくれと、その含みを汲み取ってほしくて笑顔でその横を通り過ぎた。もう関わることはなくなるのだと自分に言い聞かせながら、最後まで笑顔で去ろうとする隠岐の強がりを、水上は許さなかった。
「俺は諦めへんで」
何を、とは言わない。言われなくてもわかっていた。水上から向けられる気持ちが何のなのか、気づかないフリをしていたのは隠岐の方だったから。それでもその言葉を受け取るわけにはいかなかった。
「諦めるとか諦めへんとか、そういう問題ちゃいますよ。先輩は気付いてはったんでしょ?」
――おれの右目が見えてへんことに。
だからボーダーを辞めるのだ。それが隠岐が最後まで隠し通した秘密。水上だけがそれに気づいていた。
その原因が水上だったから。
みたいな話を書きたい