片想い 自販機の近くで他の隊員と楽しそうに談笑している水上の姿が見えた。隠岐が一方的に見ているだけで向こうが気付く気配はない。普段なら隠岐が傍に来るだけで気付いてくれるが、今隠岐がいるのは自販機からかなり離れた場所だ。
「視力が良いって言うのも便利なんかわからんなぁ」
狙撃手として遠くを見ることに慣れてしまったからなのか、近くよりも遠くにいる人を見つける癖がついてしまった。特に水上に関してはつい目で追ってしまう傾向にある。その理由を嫌と言う程自覚しているので難儀な体質だと呆れるしかない。
自分の気持ちに気付いたのはどれくらい前だっただろうか。これ以上の関係を望むことはハイリスク過ぎるが、この気持ちをなかったことにもできずに、ただ隠すことを選んだ。ひたすら隠して隠して、そうしてたどり着いたのは、結局好きという気持ちを捨てられない現状だけだった。どうにもできないなら、この気持ちと上手くやっていく他に術はない。時々遠くから水上を見つめては、気づかれる前にその場を去る、それが隠岐の日常だった。
時間にしてほんの数秒、隠岐にしてみれば一瞬とも言える短い時間で踵を返したはずなのに……。
「隠岐!」
「……はいはい~。どうしました、水上先輩?」
ほんの一瞬だけ出遅れたのは仕方がない。むしろ一瞬の間を置いてすぐ笑顔を作れた自分を褒めて良いだろう。〝いつもの隠岐〟を張り付けた笑顔は意識しなくてもできる標準装備だった。
「おまえ、さっきこっち見てたやろ? なんで声かけへんねん」
「いや~、楽しそうに喋ってるなあ思て気ぃ利かせただけですわ」
もっともらしいことを並べる隠岐の言葉に怪訝な顔を向けてくるが、隠岐も折れるつもりはない。これ以上は踏み込ませないと決めていたから。
「ほな、おれ行きますわ~」
普段の隠岐なら絶対にしないであろう水上への対応に、何か言おうとした水上が口を閉じる。その事実だけを確認して、隠岐は今度こそその場を後にした。