ブルーハワイ「今日もブルーハワイのかき氷食べてんのか?」
「あぁ、この味が好きなんでな。お前も食うか?」
「お気遣いなく…気温はもう熊が冬眠するぐらいだってのに、よく食えるもんだ」
報告書出しに行ってくる、じゃあな、と同僚のいつもの文句もそこそこに。俺はブルーハワイのシロップを真夏の海ぐらい真っ青に氷を染め上げた。
♢
俄然、俺はかき氷に夢中だった。
いつからなんて些細な事は気にしちゃあいない。ザクザクと冷たい氷が削られていく。最近の機械は凄いもんで。人の手を使わずとも氷が一瞬で削れて、しかも粉雪のようにふわふわな仕上がり。女子供も好んで食べる人が多いらしい。
それは初雪のようだった。
ザクザク。
自分の記憶では小さい頃、氷の粒が主流のかき氷が多かった。そんでもって手動で削ってたからか、溶けるのが早かったり粒が荒かったりで食べるのによく頭をキーンとさせた。
その中でも俺は何故かシロップだけは拘りがあった。よく色や匂いが違うだけ、味は全部一緒だ、なんて科学的に証明した奴らはわんさかいる。同僚にも何回言われたか。
だが、いちごやメロンの代表的なシロップを無視してまでも俺は、ブルーハワイには目が無かった。
色が気に入ったのか味が気に入ったのかは分からない。きっと意味なんてないのだろう。
ザクザク。
「———警部補、私は×××。サイバーライフから派遣されました」
「サイバーライフぅ?」
「はい、ある事件のことで貴方に捜査のご協力を願いたく参りました」
署に伺ったところ、近所の屋台でかき氷を食べているだろう、と言われたので。
そう目の前の堅苦しい言葉を使うアンドロイドは言った。
「ヤダね。なんで俺が行かなきゃならないんだ? 他の部署にも人はいるだろうに」
「警部補、これは貴方の仕事です。私ではなく、署長に仰るのが筋かと」
「はいはい、お前に言ったのは間違いですね〜。ったく、何が楽しくて、」
「ではこうしましょう」
アンドロイドはせっかちなのか、俺のお決まり文句は言わせてくれないらしい。
ヤツのこめかみに青く光るリングが点滅する。
「そのかき氷を一つ奢ります。
味は…ブルーハワイを」
♢
「おい! お前なに舐めてんだ!?」
「あぁ、舐めると分析出来るんです。先に言っておくべきでしたね」
「そうか…気持ち悪いったらありゃしないな」
いつの間にかヤツが隣にいる。
雛みたいに着いてくるようになった今日この頃。俺は変異体に襲われたとの通報を受け、現場に張り込みをしていた。年配の女性がアンドロイドと生活をしていたある日、逃げてきた変異体に襲われた、らしい。
救急隊と共に現場に入ると、そこはもう酷い有様だった。辺りに散らばったガラスの破片、荒らされたであろう椅子や机、何度も殴られたであろう年配の女性の肌に残る青あざ。
極め付けはアンドロイドが血を……いやブルーブラッドをちらほら傷から見える程、刺されたようで。主人を守る為だろうか、アンドロイドの表情は緊迫感を抱いたまま動かない。
こめかみのリングを黄色、赤、黄色、赤と交互に点滅させている。
それを視界に入れないよう、調べにきた刑事に話を聞いて持ち場についた。
破裂音が鳴り響く。
「警部補‼︎」
同時に腹を蹴られたような痛みに片目から涙がこぼれ落ちる。
「いっ……おい、なんだどうし、た……」
目を開くと、そこは真っ青な視界だった。
正確には銃で撃たれたであろう、ヤツの腹あたりの視界だろう。下敷きになった俺はヤツの肌の柔らかい感触を感じる前に、何かサラッとしているような、どろっとしている液体が顔に伝る。アンドロイドに痛覚はありません、そう言ったヤツの言葉は思い出せなかった。
どうやら、変異体に打たれたらしい。
俺を庇おうとヤツは覆い被さり、身を挺した英雄、との事で。周りの喧騒に耳が接続を切ったのかのように、ヤツと自分の呼吸音しか聞こえなかった。
元から感じない体温が更に低くなっていくのを感じる。だらだらとブルーブラッドがヤツの白い肌を染めていく。
まるでかき氷みたいに。その瞬間、心臓が鼓膜に移動したかのように耳が熱くなる。
これは確認、そう、これは確認だ。
おそるおそるヤツの腹に舌を伸ばす。
「……はっ、」
ザクザク。
「聞いていますか、警部補」
「聞いてる聞いてる」
「摂食機能が付いたから沢山食べている訳ではありません。私はプロトタイプなので、色々テストする必要があるのです。決して僕が甘いものばかりを食べているわけでは、」
「はいはい。そんなことよりドーナツ食べるか?」
「いただきます」
あれから流れるように事が進んだ。
被害者の女性とアンドロイドは医療機関、サイバーライフへと回収手続きが完了したこと。
変異体は資料部屋へと保管できたこと。報告書が山積みであったこと。
そしてヤツはぎりぎり記憶まで、所謂データは壊れていなかったこと。……と言っても有難いことにヤツはその時、強制シャットダウンの手前で最後らへんのデータは無いらしい。
「よう、今日はかき氷食べないのか?」
久しぶりの同僚に顔をあげる。
「食べてるだろ、ほら」
「あーいや、訊き方が悪かったな。
いつものブルーハワイはどこに行ったって話だ」
「なんだそういうことか。今は———」
ブルーブラッドで出来たドーナツを食べているヤツを横目で見ながら、ザクザクとスプーンで氷をピンク色に染め上げる。ほんのりといちごの甘い匂いが俺の周りを包んだ気がした。
「ははっ、マイブームはいちごになったんだ」