【歩幅が違う】 貴方が作ってくれた長袖の白いワンピースの肌触りも、顔を隠す為のヴェールを留める紫水晶と銀の髪飾りの美しさも、静かな夜に響く波の音も、踏みしめたさらやかな砂の感触を、まだはっきりと憶えている。
月光を反射して煌めく海面に、遠く浮かぶび手招く無数の黒い影。まるであたしを呼んでいるようだったことも、まるでつい最近の出来事かのように、憶えている。
「おい、足元に気を付けろ」
貴方は不安そうな声音で「波に攫われたらどうするんだ」と言葉を続けた。語尾に微かな濁りのある、夜の漣のように落ち着いた声音は心地良く、少しだけ意地悪をしたくなる。
「大丈夫よ。だって、あたしは――」
立ち止まり海を見た。昼間と違い、深い深い暗闇が遠く遠く、どこまでも果てしなく続いている。その水面はさながら満天の星空だ。
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