「なあ、フェリクス」
「なんだ」
大きな戦の後は、決まってどちらかの寮部屋で時間を過ごすことになっていた。それは互いに生きていたことを願う、小さな祝賀会のようなもの。もちろん他の皆との祝賀会もあるのだが、それを終えて一段落したあとの二人きりの時間。俺たちは五年前から付き合っていた。
俺がフェリクスに声をかける。鎧も脱いで楽な格好だったからか、フェリクスの髪は緩んでいた。手を伸ばして、そっと触れる。髪を痛めないように髪留めを外して、重力に沿わせた。ぱさり。鬱陶しがっているもののあまり抵抗はしてないのが、なんとなくかわいく思える。
「髪、なんで切ったんだよ」
彼の髪は長いが、元々は頭の上で団子にできるくらいだった。それが今は、精々きゅっと結えるほどの長さだ。降ろした時が顕著で、肩までしかない黒の窓掛けが新鮮だったのをよく覚えている。前の方が好き、といった未練がましいことではないが、彼の綺麗な髪を気に入っていたのは事実だ。疑問を持っても良いところだろう。
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