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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    客🍚とマスター💅のバーテンダーぴ取り合い。取り合いと書いてますがギスギス激しい対立はしません。ネイP描写多めで書きますがラストは飯P予定。

    #飯P
    #ネイP
    nayP
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl

    【飯PネイP】煙るバーカウンターにて/08カフェ・ロワイヤル 盛夏を過ぎ、夜風が吹くとかすかに涼しさも感じるようになってきた。仕事帰りによく寄っていたのに、あの日以来なんとなく気まずくて、僕の足はバー『Veil』から遠のいていた。
     ネイルさんが「部屋を訪ねたのは悟飯」と告げたあの時も、ピッコロさんに何か言われたわけではなかった。高熱に浮かされて、かなり朦朧としていたから、詳しく覚えていないのかもしれない。
     自分に言い聞かせながら、僕は半屋外のビルの階段を上がっていた。向かいのビルの色とりどりのネオンが、低く垂れ込める晩夏の夜空を彩っている。手のひらが汗ばむように感じるのも、やけに喉が渇くのも、風のない夜だからだろう。
     「いらっしゃいませ……ああ、悟飯さん」 
    「こんばんは、お久し振りです!」
     まずネイルさんが、続いてデンデが、微笑んで迎えてくれる。ピッコロさんはちょうどシェイカーを振っており、目線だけ僕に寄越した。ほんの少し、氷がシェイカーを打つリズムが乱れた気もするが、それだけだった。
     いつも座っていたカウンターの席には、既に違う客が掛けていた。別のカウンター席が一つ空いていたが……そこへ座る決心がつかず、テーブル席に掛ける。すぐにデンデが、ハーブの入ったクッキーを持ってきてくれる。きっとまた、デンデの手作りだろう。
     「また会えて嬉しいです。何にされますか?」
     屈託ないデンデの笑顔に、緊張していた気分が少し解れる。
     「この前、ストレートで飲めるハーブのリキュール、って赤いのを出してもらったんだけど、分かる?」
    「ハーブのリキュール、沢山ありますからね……カンパリかなぁ?」
    「確か、ラベルに鹿みたいな絵がついてた……」
    「イエーガーマイスターですね! ストレートで?」
     デンデは破顔して、カウンターへ戻っていく。カクテルは作れないと言っても、デンデもちゃんとバーの店員なのだなと感心した。
     テーブル席から眺めるカウンターは、実際の距離より遠く感じた。店内全体が夜明けのごとく薄明るいが、カウンターの上にはスポットライトのような照明が設置されており、客の手元と、カクテルを作る指先を照らしている。花瓶にはコスモスの花束が賑やかに飾られて、水煙草は手織りのカーテンに覆われて沈黙していた。
     ネイルさんはいつも通り、盛んに話しかける客たちに笑顔で応じながらも手を止めることはない。ピッコロさんの方はグラスやシェイカーに集中しているようで、それでも時おり客と目を合わせたり、軽く頷いたりすることで「決して無視しているわけではない」と伝わってきて絶妙だった。
     デンデが運んでくれたイエーガーマイスターは、前回と同じく甘い薬のような味がした。バーに来なければ、一生味わうことはなかったかもしれない。
     カクテルを作るネイルさんもピッコロさんも、一枚の絵画であるかのように様になっている。二人の澄んだ鮮緑の膚、堂々たる長身になだらかに締まった腰つき。きらきらと照明を踊らせるシェイカー、レモンを搾る指先、マドラーのように長いスプーンでグラスを混ぜる細い手首、カクテルを差し出す手の、黒真珠を嵌めたような爪。
     時おり手が空くと、ネイルさんが手早くヴァージンモヒートを作ってピッコロさんへ渡したり、逆にピッコロさんがミネラルウォーターへライムの切れ端を入れてネイルさんとデンデへ渡したりしていた。
     言葉なくとも互いが互いに必要としているグラスやリキュールを取り出して渡すので、狭いカウンターの中でせわしなくすれ違う必要がない。話したい客の相手は愛想の良いネイルさんが担当し、静かに飲みたい客の前にはピッコロさんが立つ。ピッコロさんは笑顔こそ見せないが、話しかけられた時は穏やかに返しており、客からは小さく笑い声が上がることもある。ライムが必要ならばライムが、クロスが必要ならばクロスが、自然と手渡されている二人の様子は、まさに完璧な連携だった。
     「息がぴったりですよね、二人とも……ピッコロさんがお店に入ってから、ずっと二人だけだったから」
     新しくカクテルと、チョコレートを運んできてくれたデンデが言う。
     「デンデはずっとお店にいるわけじゃないの?」
    「この街には、村がなくなるより前に出てきてたんですけど、お店に入りはじめてからはまだ半年くらいです。本当に二人とも仲がよくて、ずっとお互いを必要としてて……ただ」
     デンデは一瞬カウンターを振り返って、二人を見遣った。しかし言葉はそこで途切れ、デンデは僕の前の、空のグラスを持ち上げる。
     「トニックウォーター、持ってきますね。ピッコロさんが注いでたのに、カウンターへ置いてきちゃった。ちょっと待っててください」


     やがて最後の客も退店し、僕と、ネイルさんと、ピッコロさんの三人だけになった。デンデは明日、植物園の仕事があるそうで、日付が変わる前に帰っている。
     ソーサーに載せたコーヒーカップを持ったピッコロさんが、テーブルまで来てくれた。
     「飲まれませんか?」
     コーヒーカップにはティースプーンが渡され、角砂糖がひとつ載っている。少し茶色く、何かに浸されているようだ。ブランデーだろうか。
     「久し振りなのに、話せませんでしたので……これはおれから、ご馳走させてください」
     ピッコロさんがソファの隣に座る。思いのほか距離が近くて、触れた腕をさりげなく離すべきかどうか迷った。
     ピッコロさんがマッチに火をともし、角砂糖へ近付けた。角砂糖から、アルコールの青い炎が、ゆらゆらと静かに立ち上がる。忍び見れば、ピッコロさんの瞳の中にも、密やかな青い火が宿っていた。揺れる炎を二人黙して見つめていると、店へ入る前の不安はすっかり消え失せ、静穏な気分で胸が満たされた。
     空気へ溶けるように炎の消えた角砂糖を、ピッコロさんがコーヒーへ入れてゆっくりと混ぜる。僕へ差し出してくれるのは、いつもと同じく穏やかな手付きだ。
     「カフェ・ロワイヤルです」
    「ありがとうございます……青い火、綺麗ですね」
     ピッコロさんはわずかに目を撓ませて微笑む。いとけないほどに弱々しく見えたあの夜とは全く違う、完璧なバーテンダーの顔だ。
     「お忙しいんですか?」
    「ちょっと、研究が順調に進みはじめて、あちこち行っていて……なかなか来れませんでした」
     嘘ではなかった。だが、忙しくて来れなかったというより、来ないために忙しくしていたという方がより正しいだろう。
     じっと覗き込んでくるピッコロさんのまなざしから逃れるように、僕はカップに口をつけた。香ばしいコーヒーの苦味の奥に、甘やかなブランデーの風味がある。
     顔を上げると、カウンターの向こうでグラスを磨いているネイルさんと目が合った。何か言いかけて口を閉ざし、それからいつものように笑いかけてくれる。
     「……悟飯さん、お帰りなさい」
     ネイルさんの微笑は、これまでとどこか違うようにも見える。気になったが、今はその正体を考えることはやめた。カフェ・ロワイヤルのあたたかさ、そして何より、すぐ隣にいるピッコロさんの体温を、吐息を、感じていたかった。
     閉店間際の店内に、ネイルさんがグラスを磨くかすかな音だけが、溶け出していた。
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