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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    今回は飯P比重が高めかな

    客🍚とマスター💅のバーテンダーぴ取り合い。ネイP描写多めで書きますがラストは飯P予定。

    #腐女子向け
    #飯P
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #ネイP
    nayP

    【飯PネイP】煙るバーカウンターにて/13スカイダイビング 「……それ、綺麗な色ですね。何のお酒ですか?」
     ネイルさんが静かに注いでいるのは、真っ青なリキュールだ。土曜の夜、『Veil』は週末の割にはゆったりとした雰囲気だった。十一月も後半に差し掛かり、外はすいぶん寒さが深まった。ピッコロさんは、デンデに引きずられてキッチンへ引っ込んでいる。
     「ブルーキュラソーです。オレンジの皮だけを使ったリキュールで、元は無色……グリーン、レッドなんかもありますね」
    「僕にもそれで、何か作ってもらえますか?」
     ネイルさんは頷き、シェイカーへ次々に材料を注ぐ。ここへ初めて来た時は分からなかったラムの瓶も、ラベルを読まなくても分かるようになった。ネイルさんがシェイカーを振る。一分の隙もない正確さで、銀色のシェイカーの上を照明が行き来する。専門外の僕から見ても、その技術がどれほど高いか感じられる繊細な美しさだ。
     グラスに注がれたカクテルは眩しいほど青く、盛夏の蒼天のように澄んでいた。ブルームーンの、紫がかった静かな青とはまた違う、力強さを感じる青だ。
     「どうぞ。スカイダイビングです」
    「すごく綺麗! こんな晴天でスカイダイビングするの、気持いいだろうなぁ」
     グラスを受け取ると、デンデとピッコロさんがトレイを持ってキッチンから出てきた。テーブル席を一回りして、カウンターへ戻ってくる。
     「はい、悟飯さんにも! クリームチーズとフルーツのカナッペです。温室で採れたフルーツですよ!」
    「ありがとう、デンデが育てたの?」
    「あの温室はすっかり任されてて……あっ、スカイダイビングですね。僕それ大好きです、広い空の自由な色!」
     植物園のことを話してくれる時だけでなく、デンデの笑顔にはいつも屈託がない。このカクテルの色、空の色を「自由」と表現するのも、素直でまっすぐな性格ゆえだろう。
     「明日、お二人に僕が品種改良した花を見せる約束してるんです。悟飯さんも一緒に来ませんか? ハーブティーご馳走しますよ!」
    「行っていいの?」
    「来ると良い、デンデもこう言っているのだから」
    「悟飯さんにも見せたいんですよ、デンデは」
     デンデはカナッペをもう一つ小皿にのせてくれながら、大きく頷いて笑った。


     翌日訪れた植物園で、デンデは実にたくさんの花を見せてくれた。温室の片隅に鉢が並ぶ、この一角がデンデの品種改良の成果だそうだ。ガーデンテーブルに運ばれた花は、以前、店で見た水色の花より紫が増していた。花弁も大きくなっているように見える。
     「こっちが、一番新しいやつです。成長が早いので、変化が分かりやすいんですよ」
    「すごいな、デンデ! あの花によく似た色でとても懐かしい……こんなにすごいことをしているとは知らなかったよ、本当に見事だ」
    「以前のものより、更に鮮やかになっているな」
     二人に讃えられ、デンデは心からの笑顔を見せていた。ピッコロさんも勿論だが、ネイルさんがこんなにも感情を露にしているのは珍しい気がする。嬉しそうな三人を見ていると、僕まで気持が高揚するのを感じた。
     外はすっかり冬の様相だったが、温室の中はやわらかい光に満たされていた。色とりどりの花々が咲き乱れ、何種もの蝶がその間に遊んでいる。いつ来ても、綺麗なだけでなく、不思議な空間だ。
     「少しは形になってから二人に見せたくって、内緒でやってたんです。驚かせたくて」
    「驚いたとも。なぁ、ピッコロ」
     ネイルさんの笑顔に、ピッコロさんも深く頷く。小さな白い蝶が飛んできて、デンデの花にそっととまった。それを眺めるデンデの目線は、無邪気なだけでなく、とても優しい。
     「もう少し、花を大きくしたいんです。故郷の花と全く同じ花は作れませんけど……あれは木に咲く花でしたし」
     僕はふと、ピッコロさんの部屋にあった鉢植えを思い出した。暗くて色は分からなかったが、確かにあの小さな木には、つぼみがついていた……ネイルさんは、本当はもっと大きく育つ木だと言っていたが……。デンデは、あの鉢植えのことを知っているだろうか? いや、きっと知らないだろう。人を招く部屋には見えなかったし、ネイルさん以外、あの部屋には入ったことがないと想像された。ピッコロさんにとって、あの花木はどんな意味のあるものなのだろう……。
     蝶が軽やかに飛び立つ。全員がそれを目で追う。見えなくなってしまうまで見送ってから、デンデが自分の育てている花に目を戻した。慈しむように微笑んで、鉢にそっと手を添える。
     「昔好きだったあの花と同じじゃなくても、僕が大好きって思えるものを、新しく作っていきたいなって、思ってるんです」
    「……すごいな、デンデは」
    ピッコロさんが感じ入るように呟き、ネイルさんも思うところあるのか、押し黙ってデンデを見つめていた。
     学術に限らず、物事に行き詰まる時は過去得たものに縋りたくなる。過去を大切にしながらも前向きなデンデの姿勢は、僕から見てもとても眩しかった。
     「デンデ、他にも育てた花があるのか? 見せてほしいな。品種改良の話ももっと聞きたい」
    「もちろんです! 品種改良、すごく面白いですよ、自由に挑戦できて……じゃあ、あっちに他の花があるから見に行って、ついでにお茶を淹れてきましょう。ピッコロさんと悟飯さんは待っててください、ネイルさんに手伝ってもらいますから」
     賑やかに話しながら、二人は温室の奥へ行ってしまう。僕はそれを見送ったが、ピッコロさんはテーブルに置かれた花をじっと眺めていた。静かに青い花の佇まいは、辺りの空気を澄ませるようだ。
     「本当に似てますね、ブルームーンの色と……ピッコロさんの故郷の花も、こんな感じ?」
    「ああ……でもこれは、故郷の花に似ているからではなく、デンデが新しく作ったからこそ価値があるし、より美しく感じられる」
     ピッコロさんは顔を上げて、温室の壁沿いに植えられた花木に歩み寄った。ヒメフヨウ、と添え書きがある。冬場とは思えないほど濃い赤色の花が、すべて天を向いて咲いていた。
     「……悟飯、お前は、自由に挑戦できているか?」
     急な問いかけに少し驚いたが、自信を持って答える。
     「はい、いつも自分で選んできたつもりです」
     迷うことがあっても、気が萎えそうになることがあっても、最後の最後でこれだけは譲らないようにしてきた。
     そうか、と呟いて、ピッコロさんはヒメフヨウの花を見上げた。どんな気持でいるのか、僕はその横顔に探そうとする。
     きっとネイルさんならば、ピッコロさんの考えていることが分かるのだろう。僕には、何か思い悩んでいるということしか分からなかった。どう声をかけるのが正解なのかも……ただ、心だけは寄り添っていたくて、一歩分だけ近付く。
     手を伸ばせば、指先が、ピッコロさんの指先に辿り着いた。なめらかに見える指先は、いつも氷やライムに触れているせいか、触れるとわずかにかさついていた。
     あの夏風邪に浮かされた夜とは違う。はじめてこんなに落ち着いて、しっかりと触れた。ゆるやかに指先を絡めると、すぐ隣にある肩が戸惑いに揺れるのが分かる。吐息が耳に届くほどの距離で、二人とも無言だった。口を開いても、本当に伝えたいことは言葉にならない気がした。
     ヒメフヨウの花弁の赤は、燃え上がる炎のように激しい。言葉よりよほど、僕の心を映し出してくれるようだ。僕が一方的に絡めていた指に、ほんの一瞬、ピッコロさんの方からも力をこめてくれた気がした。けれど僕が見上げると、ピッコロさんはきまり悪そうにゆっくりと手を引いた。目線だけが、静かに交わる。ピッコロさんの目にも、ヒメフヨウの赤が映り込んでいたが、風を受ける泉のように波立っていた。
     笑い声と足音に、僕らはほとんど同時に振り向いた。ネイルさんと、トレイにティーセットをのせたデンデが歩いてくる。
     「二人とも、お茶にしましょう! 新しくブレンドしたんです、あったまりますよ……あれ、カップが一つ足りない!」
     テーブルにトレイを置いたデンデが、取って返すように戻っていく。僕ら三人はそれを見送り、慌ただしいデンデの様子に笑ってしまう。
     「落ち着かないやつだな」
    「でも、すごいぞデンデは。色々と見せてもらってきたが……大事に育てられている植物も、新しい色に咲くどの花も、美しかった。品種改良もとても興味深い。来てよかった」
     ブルームーンの花を囲むように、四つのソーサーと三つのティーカップを並べながら、ネイルさんは笑っていた。本当に、デンデの花と品種改良に心打たれたのだろう。いつもの落ち着いた微笑とは違う清々しい笑顔は、子供のようですらあった。
     僕らに座るよう促したネイルさんが、確信に満ちて、けれど静かに言った。
     「……誰もが、きっと、自由な生き方を選べるはずだ」
     その場の誰もが、ネイルさんの言葉を瞬時に理解した。それが、誰に向けて発せられたものなのかも。
     冬の日差しは鋭く、それでも温室の中に満ちて空間をあたためている。僕は胸のしめつけられる思いで、ブルームーンの花越しに視線を交わす二人を、ただ見つめていた。
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    summeralley

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    ゆ 28b Summer alley

    新刊『廃墟の灯』
    A5サイズ10章68ページ成人向け。

    廃墟となった無人の街に暮らす飯Pのお話の試し読みです。
    03章を途中まで載せます。NAVIOの方には別の章を載せてますので、興味があって見れる方はそちらもどうぞ~
    【飯P】廃墟の灯/試し読み03.廃墟の街

     砂の散ったアスファルトに、錆びた鉄骨とひしゃげた鉄パイプが転がっている。
     山々のように聳える工場群は今やその役割を終え、徐々に朽ち果てつつあるのが、この距離から振り仰いでも明らかだった。
     ひび割れた舗道には雑草が繁り、道の両端に並ぶ建物の外壁にも蔦が這いまわっている。ガラスはどれも汚れており、庇はことごとく破れて垂れ下がっていた。看板やシャッターの文字はほとんど消え失せ、赤茶けた錆だけが無闇と存在を主張している。
     ピッコロが姿を眩ませたのは、両刃の剣を二人で見た直後だった。
     はじめ数日は、悟飯もデンデたちも、どこかで修業に打ち込んでいるのだろう、と考えた。しかし一週間経ち、十日経ち……それでも戻る様子がない。流石に、こんなに長い期間を留守にするのに一言も告げていないのはおかしい。気が全く感じられず、意図的に身を隠していることは明らかだった。
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