Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 👏 💚 🎉 💯
    POIPOI 93

    summeralley

    ☆quiet follow

    前回の「研究棟に幽霊がいる」噂の続き。ネイPの先輩方に読んでいただけて本当に嬉しいです、ありがとうございます😍
    💅さんはポストボーイじゃないので運転技術は中の上です。上の上でも良いけど、職場から徒歩で行けるほど近い良い部屋に住んでてほしい。車で移動する必要がない。

    #ネイP
    nayP
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl

    【ネイP】解剖台で夢を見た/06.十分間 時計の針は、既に日付をまたごうとしていた。仮眠室の狭いベッドで向き合って横たわり、ネイルはピッコロの背に手を置いていた。
     「明日から何日かは、雨が続くらしい」
    「……ここにいたら、関係ないな」
     ネイルの肩に額を預け、ピッコロは冗談めかして呟く。ネイルはしばし逡巡し、口を開きかけては閉じ、ピッコロの背中にある手にわずかに力を入れた。身体と身体は密着してこそいないが、身じろぐたびに動く背骨のかたさと、眠気によって少し高まった体温が、ネイルの手のひらに感じられる。抑えた声で、ピッコロ、と呼びかけると、顔が上がった。
     「ここはもう、危ないかもしれない」
     ネイルが声を潜めて告げても、返事はない。ただ無造作に下ろされていた手で、シーツをぐっと握る気配がした。
     「この仮眠室へ下りる前は、必ずフロア全体を確認していた。警備の巡回も、月と曜日ごとに変わる時間を把握していた。それでも……誰かが忘れ物を取りに深夜に戻るとか、警備員が落とした物を探しに来るとか……そういう小さなイレギュラーを、気取れなかった私のミスだ」
     空調の音だけが、沈黙の中に漂っている。これまで気にしたことなどなかったのに、やけに大きく、乾いて響いた。
     「……そんなの、分かるわけがない」
    「分からなくてはならなかった。いないはずの誰かを、ここに匿っている以上は」
    「……」
     ピッコロは思うところあるのか、再びネイルの肩に額を埋めた。呼吸は変わらず静かだが、シーツを握っていた手が、ネイルの腰に回る。引き寄せるでも、縋るでもなく、ただ体温を感じ、そこにいることを確かめるかのように。
     「これ以上は誤魔化せないかもしれない……だから、お前を連れて逃げようと思っている。きちんと辞職の手続きをとって、追われないように出る」
     沈黙が落ちる。やがてピッコロは顔を上げぬまま、わずかに掠れた声で、呟くように言った。
     「……おれだけ出ればいいだろう……お前が何もかも捨てる必要はない」
    「ピッコロ」
     ネイルは、肩に伏せられていたピッコロの額に頬を寄せる。背中に回していた腕に力を込め、向き合っているだけだった身体を引き寄せた。
     「お前が目を覚まして、それを報告せずここに連れ込んだ時点で、私はもう引き返せない道へ踏み出しているんだ。置いていくなどと、言わないでくれ」
     ネイルの声に迷いはなく、微笑すら滲んでいた。
     「準備が要る。五日……四日間、もし持ち出したいものがあるなら、まとめておけ」
     ピッコロは、何も答えなかった。ただネイルの腰へ置いていた手を、背中にまで引き上げる。抱きしめる腕に、標本ケースから出たばかりの頃の弱々しさは、既になかった。


     窓のない地下の仮眠室。天井の照明は一つしかなく、決して快適な空間とは言いがたい。しかしこの数ヵ月、ピッコロにとっては、この仮眠室とネイルの存在が、世界の全てだった。
     向き合うか、背中合わせで眠らない時は、無理に折り重なってどちらかがどちらかの肩に顎をのせるような姿勢になる。今夜は、ピッコロが上だった。普段は寝付きのいい方だったが、今夜ばかりは目を閉じても落ち着かず、ネイルの胸にそっと手を置いていた。ネイルは目を閉じていたが、その呼吸の浅さから、まだ眠っていないことが分かる。
     「……明日、何時に出る?」
     沈黙が不安に追い討ちをかけるようで、抑えた声でピッコロが訊ねる。ネイルは目を開くことなく、ピッコロの喉から頬にかけてを指先で辿った。皮膚の薄い喉元も、頬の柔らかい肌も、心を許していなければ決して触られたくない場所だ。
     「このフロアだけでなく、研究棟全体が静かになる頃……22時を過ぎてから」
    「どうやって、出るんだ?」
    「その階段を上がれば一階、廊下を横切って職員通用口から出るだけだ。ナメックの職員は私だけではないから、標本だったお前を見た者にさえ気を付ければ、何と言うこともない。警備も、入る者には厳しいが、出る者にはそう気を遣わない。ああ、その術後着は駄目だからな。仕立てた服があってよかった」
    「外へ出たら、どうする?」
    「駐車場から車を動かしておく。裏の林を抜けて、車に着けば、成功だ」
    「……失敗したら?」
    「……」
     ネイルは言葉を切って、ゆっくりと目を開いた。常夜灯しか灯しておらず、薄暗かったが、顔を向ければ鼻が擦れるほど近くにあるピッコロの面差しはよく見えた。緊張と興奮がないまぜになったような、ひどく不安気な瞳だ。
     「……全力で逃げた方がいい、また解剖台に載せられたくないのならば」
    「おれのことじゃない、お前だ。失敗したら、お前はどうなる?」
     語気を強めたピッコロに、ネイルは驚く。胸に置かれていたピッコロの手に、自分の手を静かに重ねた。
     「言っただろう、私はとうに引き返せないと。失敗しても、成功しても、同じことだ。自分の心配をしてくれ」
    「……おれのせいで、お前の築いたものが、何もかも終わってしまう」
    「違う。お前が始まりなんだ。研究所で解剖医をやるだけが、生きるってことじゃない」
     未だ不安な目をしたピッコロの額に唇を落とし、ネイルはその背中をゆっくりと撫でた。宥めるように、不安が少しでも和らぐように。
     「……薬と、消毒液の匂いがする」
     ピッコロの独り言のような囁きが、空調の唸りにかき消される。
     きっと今夜は、どちらも深くは眠れないだろう。それでも、互いの体温を、拍動を、呼吸を感じながら、ゆっくりと沈んでいく。生まれ変わる前の小さな死のような、祈りに満ちた眠りの中へ。


     22時15分。ピッコロは階段へ足をかけ、最後に仮眠室を振り返る。狭いベッドと、小さな書き物机……。誰かが「暮らしていた」痕跡を残してはいけないと、ネイルが持ち込んだ本は、既に片付けてある。ピッコロが気に入っていた植物図鑑と、海と波の詩集も。
     22時16分。地下から一階のフロアへ出たピッコロは、思わず目を細めた。眩しい、と反射的に出かかった言葉を飲み込む。廊下は静かで、人の気配はなかった。警備の定時巡回は既に済み、職員はみな帰宅している。
     ネイルは通常通り、今出たばかりの扉へ鍵をかける。慣れた足取りで歩き始めると、半歩後ろに、フードを被った影がひとつ着いて来る。二人分の足音がやけに大きく聞こえるのは、緊張しているからだろう。最短距離、最小限の光……予定通りだ。
     22時18分。振り向かずに、ネイルが小声で囁く。
     「あの角を曲がると警備室、そのすぐ先が通用口だ。フードを外せ。大丈夫、警備員はお前の顔を知らない」
     顔を見られることより、不自然に思われる方が問題だ。標本を知る研究員と出くわさなかったから、もうフードは必要ない。ピッコロは頷きながら、ネイルの背中を見つめていた。
     角を曲がると、警備室の窓が見えた。入る時は、社員証の確認をされるが、帰りは、窓の向こうに座っている警備員がちらと顔を上げるだけだ。
     警備室が近付き、目の合った警備員に軽く会釈をする。その数メートル先には、通用口。まさか今、またしても忘れ物をした誰かが入ってくるような、ピッコロの顔を知る者と鉢合わせるようなことは、ないと思うが……それはただの確率論で、何の根拠もない希望だ。研究員たちの話を思い出して、ネイルは歩きながらも通用口のレバーハンドルを見つめてしまう。あれがもし動いたら……入ってきた誰かが、『石室の標本』の顔を知っていたら……?
     「先生、ちょっと」
     意識の外から声をかけられ、ネイルは足を止めた。後ろだ。警備室から、警棒を腰に提げた、制服の青年が出てくる。ピッコロは振り向かず硬直しているが、ネイルも両手を握りしめ返事ができない。
     今すぐ走り出すべきか一瞬の躊躇の内に、青年は人懐こく笑って、一冊の手帳を広げて見せた。
     「この落とし物の手帳……ここに名前が。先生のとこの研究員さんですよね、警備室にあるって、伝えて下さい」
    「……ああ……わかった、ありがとう」
    「遅くまでお疲れ様です」
     走り出したい気持を抑え、扉を開ける。22時20分。あとは、明るい駐車場へは向かわず、小さな林を抜けるだけだ。
     「……心臓が止まるかと思った」
    「私もだ。揃って心臓麻痺を起こしたら、解剖台に並ぶところだったな」
     からからに渇いた喉で、冗談も絡まりそうだった。
     林に踏み込むと、二人とも徐々に落ち着きを取り戻す。針葉樹林の地面は落ち葉と苔に覆われて、一歩ごとに葉擦れの音がした。ピッコロの足取りは思いの外しっかりしており、足場の悪い林の中でも、ネイルは特段ゆっくり歩く必要もなかった。
     「風が湿っている……地面がやわらかいし、草の匂いだ」
    「雨が続いたからだろうな。春の終わりも近い」
     やがて見えてきた、暗がりにひっそりと停められた車が、雪原にぽつんと建つ一軒家のように思われた。自然と足が早まると同時に、握り合った手がどちらもひどく冷たいことに気付いて、視線が交わると笑ってしまう。
     運転席と、助手席に、辺りを見回してから注意深く乗り込む。
     22時24分。ほんの十分間が、何時間にも感じられた。
     「これでもう、標本じゃないんだな……」
    「勿論だ。これからもずっと」
    「ネイル……」
     ピッコロは口を開いたが、伝えたい言葉は、ありがとうとも、よかったとも、少し違う気がした。ネイルは「わかっている」とでも言うように目を和らげて、エンジンをかける。
     静かに走り出した車は、小さな林を後にして道路へ出る。夜遅く引っ掛かりのない道路は、軽やかに二人を運んでいく。研究所を、地下の仮眠室を、標本ケースを、遠く置き去りにして。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯🙏🙏🙏🙏🙏👮💓💓👏👏👏🚗👏👏👏👏💚💚💚💚💚💚💚💚😍💗💗💞😭😭😭👏👏👏😭💚💚💚💯💯💯😭😭😭🙏🙏😭😭💚💚💚💞💞💯💯🙏🙏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works