…あ？　起きた？
　
　じゃないし。ていうか超眠い。全然働かない頭にこれ以上の負荷をかけるのをやめて、私は目の前の白い男に尋ねる。私なんでこんなところで寝てるの？　って。
　男は事もなげに言う。そんなに飲んだのは君だし帰りたくないって言ったのも私だって。あとホテル行きたいって言ったのも。マジか。言った気がするけど正直あんまり覚えてない。マジか。っていうかなんか盛られた？　私が飲むって言った気もする。やばいマジなんにも覚えてない。
　で、だ。まだ時間あるし一緒に楽しもうなんて言う。まあこんなとこ来てやることなんて一つしかないしそうなるよね。顔タイプだし声エロいし、なんとなく怪しさはあるけどまあいいか、どうせワンナイトだし。せめて上手いといいんだけど。
　そんな少しの、いや多大なる警戒心、思いっきり顔に出てたみたいで男はビビらなくていいとか気持ちいいことだけだから、なんて言って笑う。妖しいって表現が合うと思う。怪しいじゃなくて妖しいの方。いや怪しいも合ってたわ。ともかく。俺上手いからなんて言う男が上手かった試しないし、気持ちいいことだけだから、なんてセリフもその手の類のやつでしょ。やってみないとわかんない。
　眠気は少しずつ覚めてきたきがするけど、なんだかまだ頭はっきりしない。ふわふわしてるような、ダルいような。わかんないけど悪い感覚じゃないかも。というかよくわかんない。考えるのダルい。
　私がぼんやりとしている間にもそいつはなにやら一人で喋ってる、というか多分私に話しかけてるんだけど、あんまり頭に入ってこなくて聞き流してた。はず、だったんだけど。
　三人でヤるとかなんかすごいこと言い出して、えーこの人そういう趣味なの？　っていうかキレたら怖い真面目な年上ってなにそれ。あと喧嘩っ早くて素直な子？　だっけ？　もしかしてこの人ドＭなのかな？　てかこれって男女比どうなってんの？　さっきの二人ってどっちも女の子？　…じゃなさそう？　真面目な年上が女の子かな？　いるよね真面目ぶってるのに蓋開けてみたら超淫乱～みたいなさ。そういう子っぽい。多分。
　とかか考えてたら急にこっちに話を振られた。そう言うの構わないって言ってなかったっけ？　って。え、なにが。私で試すってなにを。あーそういうこと。マジか。
　流石に嫌な予感しすぎて、軽くかるーく遠慮した。だってこういうとこで変に抵抗して逆上されたら怖いじゃん。いま力入らないし逃げ切る自信ない。だから、遠回しに、やんわり、それとなく。普通のが良いなって言ってみた。
　結論としてそれは全くとして功を奏さず受け流された。こいつもしかしてこういう事慣れてる？　って警戒度上げたら、だから気持ちいいことしかしないよって言いながらなにやらごちゃごちゃと取り出してきて私の目の前に広げた。
　えー……やばー……えげつなー……。知り合いに頼んで買ってもらったとか言ってるけどこんなの買ってくる知り合いってなに、やばい人？　私の若干引き気味の顔なんてどうでもいいとばかりに始まった説明を、目の前のブツと照らし合わせながら聞く。ソレって多分コレのことだよね？　後ろ？　アナルってこと？　搾乳系？　ってこれかな。わーすっごい。多趣味っすねー。えげつな。
　ゴムもいろんなのあってこれは正直面白かった。好奇心が勝った。使ってみたいと思っちゃったしあとサイズの話にはちょっと食いついちゃった。へーおっきいのかな。このやばいやつ着けてるとこ早く見てみたいかも。前の子はどでも反応良かったって言ってたのも気になるし。
　っていうか合間合間で三Ｐの話挟んでくるけど、結局前の子？　や私は実験台ってことなのかな別にいいけど、うちら実験台とは違ってその子達のことはすごく大事にしてるような雰囲気感じてちょっと妬けた。いやいやワンナイトで妬くもなにもないでしょって話なんだけど、こいつがその子達の話するとき、なんだか大好きなものの話をするこどもみたいな顔するんだもん。
　さてさて、さっきからずっとあった身体の違和感はどんどん増していってる。ちょうどそんなタイミングで、そろそろ効き目強くなるから。って言われたけど、もうとっくに、十分キマってると思う。ここからもっと強くなるんだったらやばい、マジで。一時間で切れるらしいそれを、せっかくだから有意義に使ってやろう、楽しまなきゃ損。
　って思った瞬間だった。目が覚めたときから薄暗かった部屋に慣れ始めていた私の目が、頭の中にある一つの記憶と接続された。あれ？　この人どこかで見たことある。たしか……Ｌ…ｃｋ……ｓ…ｏｋ……？　えっと……真面目そうな、キレたら怖い……あれ？　喧嘩っ早いって……？　まさか、まさか～。いくら頭おかしくなってるからってそんな連想あまりにもひどい。ウケるー！　けど聞きたくて仕方ない、何言ってんのって爆笑してくれたら私も爆笑してあとは気持ちよくなることに集中すればいい。気になることを片隅にでも残しておいたら真っ白になれないじゃん。眼の前のこの男みたいに。真っ白に。だから私は聞いた。思ったことそのまま聞いた。でもそいつはなにも答えずに、やっぱり妖しく笑ってこう言った。
　
　じゃ、はじめよっか。