「いいなぁ」
やってしまった。無意識だった。
冷たくなる身体の奥、心臓だけが動く感覚。
あぁ、もうほんとに最悪だ。
「なにがですか?」
真意を問うように犬飼が言葉を落とす。視線が刺さって目をそらす。
ただ羨ましかった。その目が、肌が、髪が、体質が。犬飼いの持つ普通の全てが。そしてそれが溢れ落とした。
たまに思う。犬飼も凌牙もシバケンも、俺のそれに触れようとしない。気を遣ってくれているのかもしれないし、目をそらしてくれているのかもしれない。
そうだろうと問えば否定するだろうが、残念ながら本心なんてものは本人だってわからないから。
普通じゃないを意識し続けていたら、そんなの知ってるって開き直れるんだよ。誰かに傷をつけられる前に、誰より深く自分を抉るんだ。
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