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    あすと

    @aaast

    成人向け🔞NSFW / 全員受けで全員攻め

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    あすと

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     爪の根元、細くひらひらと主張する半端に剥けた皮膚は、俺の視界で僅かに存在感を増していく。
     あぁ、あれに似てる。ささやかですが……なんて控えめなんだか押し付けなんだかよくわかんねえ態度のあいつ。正直自分でもよくわかんねーたとえだとは思うが、いつも俺の中に強引に押し入ってきて妙に苛つくところはやっぱり似てる。
     あーもうめんどくせー、犬飼はささくれ。ささくれは雑魚看守。それでいい、だから気にすんな。どうせそのうち居なくなる。ほらな、やっぱり同じじゃねーか。
     「爪、どうかした?」
     背後から覗き込んできたのは紫音だった。まあ足音で気づいてたけどいちいち面倒くさくて、たった今気づいたような顔を作ってみた。紫音を相手に誤魔化せないこともわかってたが。
    「別に。」
    「なんでもないのに爪見つめてたってこと?やばくない?」
    「うるせーな、ささくれ見てただけだっつの!」
    見せつけるように爪側を向けた手を紫音の前にかざす。
     ささくれぇ?なんだそんな事、とでも言いたげな顔のままの紫音は、ぐっと顔を近づけて俺の指を見た。
    「これどうかなぁ、どっちにする?」
    「なにが」
    「こういう時って基本的に二択じゃん」
    「だから何がだよはっきり言えよだりーわ」
     紫音の言う二択がなんのことかはさっぱりわからない。こいつのこういう回りくどくてめんどくせー物言いには大概慣れた。でも慣れたのと理解可能であるかどうかは別の話だ。まあめんどくさいことには変わりない。
     隠す気もない俺のイライラに気づいたのか紫音はちいさく息を吐くようにして笑って、それから俺の小指を人差し指と親指で摘んだ。PCケースの中に落としたネジを、再び落とさないように慎重に摘み上げるときみたいに。もしくは。
    「汚えもんみてーに摘むんじゃねえよ」
    「そんなんじゃないよ。シバケンの手、結構きれいだよ。」
    「うっざ。もう離せよ!」
     いい加減手を上げてるのに疲れて振りほどこうとしたら、ぐっと力を入れたらしい指がそれを阻んだ。紫音の黒い爪がPCの発する光を反射して同じように光る。
     俺の指は近づく、紫音の顔に。なんとなく居心地が悪くてPCに目を移した俺のことなんてどうでも良かったのか話は一応進んでいた。
    「待ってよ。どっちが正解だと思う?ちょっと微妙だよね。」
    「はぁ?」
    「あのさ、これ……剥く?剥かない?」
     紫音は目を細めてゆるく笑った。と、思ったら摘んでいた指を一旦離して手首を持って、そのまま俺に向けてぐるりと返してほら、と俺に見せつけた。
    「は?意味分かんねー」
    「だってこれ気にならない?だからさ、剥いちゃったほうがいいかなって思うんだけど。ほんとは小さいハサミでもあればそれで切っちゃう方がいいんだけど。ここにはないからね。」
    「何言ってんだ余計なお世話だっつの、ほっとけよ」
    「かなり気にしてるように見えたけどね。けどココ、ささくれだけうまく剥けるか失敗して血が出るか微妙なとこだと思わない?」
    「はぁ……そうだな。」
    「俺は成功に賭ける。ヤろ?ゲームみたいなもんだよ。」
    「怪我してたまるか、俺も成功に賭ける」
     ささくれが気になるのは事実だったし、紫音とこれ以上どうでもいいやり取りをするのもいい加減だるいし、ささくれが気になるのは事実だしで適当に流されてやった。つーかどっちも同じじゃ賭けになってねーけど。とはいえ失敗したところで損失らしい損失はない。いてーだけで。
    「ほらしばけん、剥いてみて。あれ?俺にシて欲しいの?痛い思いさせちゃうかもよ?」
    「自分でやるに決まってんだろ、触んな」
     出しかけた手を残念そうに引っ込めた紫音は俺の指先を凝視した。
     ささくれを剥くのにこんなに緊張したことはない、今後もない。絶対に。
    「いくぞ。」
    「うん、イイよ。」
     いくつかあるささくれのうち一番軽症に見えた一つを摘んでかるく深呼吸。何やってんだ俺って気持ちはささくれ憎しに変換して、慎重に慎重に下に向かって摘んだ指を引き下ろす。
    「ん……イけそう……。」
    「よし……もうちょい……あ」
     最悪だ。予定外の皮膚が剥がれた。じわっと血が滲むのを見たら急に痛みを感じた気がした。いやガチで地味にいてえ。
    「お前のせいで怪我したんだが?」
    「ヤッたのはシバケンだけど?」
    「てめえ……。」
    「俺がけしかけたようなものだしね。今度俺のささくれ剥いていいよ。ま、俺の指にささくれなんてないけど。」
     申し訳ないと思ってるようにはまったく見えない顔を晒しながらひらひらと手を振る。手入れの行き届いた紫音の指は本当に、へし折りたくなるくらい綺麗だった。
    「二、三日痛いだろうけどすぐ治るじゃん?あ、でも血はちゃんと止めたほうがいいかも」
    「他人事かよ……。」
    「ほんとはだめなんだけど、俺がシたいからヤッちゃうね」
    そう言ったかと思えば何か企んでいるような顔を見せて、俺の手を掴むと自分の方に引き寄せた。
     まさか他の指にもやりやがるんじゃと身構えたけど違った。むしろそっちのほうが良かった。あーあ、そうだよこいつはのこういうやつだった。気づくのが遅れた俺がクソっぷり呆れる。
     でも気づくのが遅れただけで想定通りだ。俺はわかってたからな。ちっせー痛みに気を取られてたまたま避けそこねただけだっつの。俺は悪くねー。
    「何しやがんだ離せ!」
    「んー?」
     流れるように俺の指を自分の顔の前に持っていった紫音は、そのまま躊躇いなく口の中につっこんで、俺を流し見て、軽く吸ったと思ったら馬鹿みたいなわざとらしさを演出しながら傷口を舌先でつついた。
     皮膚剥がれたてで敏感な傷口がざらざらした舌で刺激されて、無駄にヒリヒリしてくる感触がクソ程リアルで熱くて叫びたくなった。
    違う、ビビってねえ。悲鳴って意味じゃねえし!
    「血、止めただけだから。あとでちゃんと消毒しときなよ。」
    「てめーの存在ごと消毒してやりてえわ!」
     聞こえていたはずだが振り返らずに、紫音は煙草を持って出て行った。
     気づけば一度は止まったように見えた血がまた滲み出していた。つい、咄嗟に、咥えようとして寸前で思い止まる。
     間接キス?んなことはどうでもいいんだよ。問題なのはその血の色で、紫音の目を連想したことの方だ。
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