クリスマス永斎 食堂ではテーブルに溢れんばかりの豪勢な料理が並べられ、子供たち用の甘いジュースから大人のためのアルコール類まであらゆる飲み物が用意されている。
集まったサーヴァントたちはそれぞれ、生前から関わりのある者や、この場所でひょんな縁を持った者同士で賑わっていたが、中にはどんな因果か成り行きか一度も話したことがない相手と杯を傾ける者もいた。
いつにも増してサーヴァントがごった返す中を縫うようにして動き回り、それぞれの集いに顔を出すマスターを見つけて感心していたところ、じっくりと見過ぎたのか人懐っこい丸い瞳と目が合った。
「永倉さんは五稜郭のみんなで集まるんだっけ」
「元々はそういう予定だったが……おまえさん、よく覚えてるなぁ」
まさかサーヴァント全員の予定を把握しているのかと疑う永倉を、いやいやとマスターは笑って否定するが、どうにも謙遜にしか見えない。
「元々は……ってことは、予定が変わったんですか?」
「ちょっとな、急な予定が入っちまった……みたいなもんだ」
こうしてサーヴァントが食堂に集まりクリスマスを楽しめているのは、マスターがクリスマス間近に発見された特異点での事件を無事に解決したからである。ということは少し前まで当該特異点にレイシフト可能なサーヴァントと共に奔走していたわけだ。
永倉としては仕事上がりの若者を自分の都合……というのも語弊があるが……に巻き込むのは気が引けた。それで曖昧にぼかしたのだが、これは悪手であったかもしれない。
(マスター相手に煙に巻くような言い方は逆効果だったか)
果たしてマスターはどう思ったか。胸中では苦虫を噛み潰したような心地の永倉を数秒ほど黙り込んで見澄まして、納得したように頷いた。
「厨房のみんながね、自分の部屋で過ごす人や、リクリエーションルームで集まる人たちのためにお持ち帰り用のご馳走も用意してくれてるから」
唐突にそのようなことを口にしたと思えば「永倉さんも楽しんでね、ハッピーメリークリスマス!」と元気良くこの日のお決まりの言葉を口にして、颯爽とごった返すサーヴァントたちの中に消えていった。
あの僅かな会話と些細な時間の間になにをどこまで察したのかはわからないが、少なくとも永倉は今すぐに対処が必要な問題を抱えているわけではないと判断されたようだ。
(大層な問題を抱えてるって思われてたら、どこまでも引っ付いて事情を探りに来るんだろうな)
千里眼や直感といった英雄的な能力は持っていない。だからだろう、なりふりは構っていられないとばかりに思い切りが良いのだ。
一先ず若者の折角の楽しみを潰さずに済んだことに永倉は胸を撫で下ろした。
(もし、どうしてもマスターが首を突っ込んでくるようだったら……マスターに事情を説明するには部屋に連れて帰らなきゃならねぇだろうが、そうしたらアイツはなんて文句を言うか。まったく、儂じゃなくてテメェの問題だってのによぉ)
頭を掻きながら厨房へと視線を向ける。マスターはあのように言ったが、部屋で待っている男は普段の食い意地が嘘のように食欲なんて失せてしまったらしく、食堂の豪勢な料理にも関心を示さない。そんな男を前にしてひとりでご馳走をがっつく気にもならず、悩んだ末に一升瓶だけを手に部屋へと戻ることにした。
「戻ったぞ」
マスターから見ても近未来的であるらしい艦内の廊下。それが扉一枚隔てた向こうには畳敷きの和室が続いているとは……そのように希望したのは自分なのだが、中々慣れない光景だ。
部屋の真ん中を陣取る炬燵には永倉が元々の約束を土壇場で断念することになった原因の男が呑気に湯呑みで茶を啜っている。視線だけで永倉を見ると、微かに頭を下げた。
「おかえり」
「なんだ、この頃は何度注意しても目を離すと炬燵で横になっていたくせに、今日は正座なんてして畏まって」
「そういう気分なんだよ」
「膝しか暖まらんだろう」
永倉は炬燵には入らず、部屋の隅に備え付けられている簡易な台所に向かった。数える程度の物しかない中から薬缶を取り出す。
「そんなことよりさ、本当に行かなかったんだ」
「あ? 今日のことか?」
蛇口を捻り、薬缶に水を注ぎながら尋ねる。
「それしかないでしょ……こっちは僕が行かなかったところでまぁまぁ大所帯だけど、そっちはそうでもないし、蛍ちゃんが寂しがるんじゃないの?」
「それをおまえさんが言うか、斎藤」
元々はこの男も邪馬台国の面々で集まる予定であった……斎藤が山南と共に邪馬台国組という括りにいる経緯は沖田から事情を説明され、携帯端末で記録映像を見せられた後でも違和感があるのだが、そこは永倉だって土方を差し置いて五稜郭組に振り分けられている。しかも同じ括りにいるのは高名な戦国時代の武将や傭兵集団の頭領であるのだから、人のことは言えまい……それが思わぬ珍事に見舞われ、集まりを辞退することとなったのだ。永倉も放っておけずに同じく集まりを辞退したのだが、斎藤は気難しい気質であるから、そんなことは頼んでいないと不機嫌になるだろう。そう予想したのだが、
「そうだね、ありがとう」
意外なことに斎藤は、眉を顰めたり声を荒らげたりといった素振りを一切見せず、更にはお礼の言葉さえ口にした。
「お、おぉ……」
意外な反応に面食らい、水でいっぱいになった薬缶を取り落としそうになる。
「そのだな、食堂から酒を貰ってきたぞ。燗でいいよな」
誤魔化すように敢えて声を張上げながらストーブへ向かう永倉へ、今度こそ斎藤は斎藤らしい言葉を口にした。
「僕はお湯割りが良い」
殊勝な面を見せたと思った途端にこれか。
別に構いやしないのだが。
(こうやって細々とした我儘を聞いちまうから、こいつも図に乗るんだろうな)
ダイヤルを回すとチッチッチと鳴り、間もなくボッと火が点る音がした。
台所にも焜炉はあるのだが、少し湯を沸かす程度なら永倉は焜炉よりもストーブを使う方が気に入っている。
「それで、体調の方は?」
「問題なし、ただでさえ特異点から戻ったマスターちゃんやサーヴァントの検診明けだったネモナースちゃん達にゃ申し訳なかったがね」
「後で詫び入れとけよ」
中の燃焼筒が橙色に染まっていくのを確認して永倉も炬燵に入る。
「言われずとも……ま、明日までに治るんなら聖夜の奇跡ってことで片付けちゃっていいと思いますよーってさ」
「なんだぁ、そりゃ」
それにしても、身体に異常がないのであれば斎藤も少しくらいは動いてくれて良かったのではないか。事を大きくしたくないから食堂などの人が多い中に行かないのは良いとして、
「なにもねぇなら、コイツを点けて部屋を暖めておくくらいはしてくれて良かったんじゃねぇか?」
今し方稼働し始めたばかりのストーブを指さして言えば、はてと斎藤が首を傾げた。
「別に……ここってそこまで本格的に暖を取る必要がある場所でもないでしょ」
その言葉は確かで、カルデアは一年を通して活動に支障がない気温が保たれている。節電のため完全に一定の温度が保たれているとまでは行かず、多少は外の影響を受けるようだが、その寒暖差は最も暑いときと寒いときを比較しても極めて緩やかなものだろう。当然だが、異聞帯の中での活動時などイレギュラーな場合を除く。
そういうわけで、斎藤は確かに間違ったことは言っていない。だが永倉としてはこれは非常に聞き捨てならない話であった。
「ほぉ、そうか」
自分でもびっくりするほど低い声が出たものだから、炬燵で寛いでいた斎藤もなにやら機嫌を損ねる言葉を口にしたと気づいたらしい。褪せた色の髪を揺らして俄にたじろぐ様子を見せたが、そんなものでは永倉の溜飲は下がらない。
「本格的に暖を取る必要はない……まったくだな。それで、炬燵がないと嫌だってごねたのは誰だったか」
「…………誰でしょうね」
濁った朽葉色の瞳がそぉっと逸らされた。
同居の話自体は永倉から持ち掛けたのだった。それで良い機会だからと和室へ変えようとしたところ、先ほど斎藤が述べた通りの理由で、他の日本出身のサーヴァントであれば暖を取る以外にも用途のある囲炉裏や火鉢を置く者も多いという案内に、炬燵が良いと強く主張したのが斎藤だ。
ちなみに江戸時代に使われていたようなものではなく、マスターたちの時代に愛されている極々一般的な電気炬燵である。ノーチラス号は節電に気を使っていると重々承知のくせに、炬燵程度の電力なら余程馬鹿げた使い方をしなければ負担にならないという言葉に斎藤は全力で甘えたのだった。
「おまえさんときたら、なんだ? 僕は宵っ張りで酒が呑めそうな集まりがあったらそっち行っちゃうから部屋なんてあっても帰らないと思うって言っておいて、部屋の設備は口出しするし、結局ほとんど毎日戻ってきてるじゃねぇか」
ちなみにストーブは永倉が持ち込んだ。
斎藤の炬燵推しに押し切られてしまったが、やはり囲炉裏や火鉢の方が勝手が良かったのでは……と思い悩んでいたところ、通り掛かった室町時代の刀工が余分に持っていたストーブを融通してくれた。なんで刀工がストーブを持ってるんだとか、ストーブを余分に持ってるってどんな状況だとか疑問は尽きないが、 悪い噂は聞いたことがないサーヴァントだったため有難く使わせてもらっている。
あちらこちらへと視線を泳がせた末、最後にそのストーブを見た斎藤は誤魔化すように笑った。
「あーらら、薬缶が沸騰してるみたぁい」
「そんなすぐに沸くもんかよ」
まぁまぁと無意味に両手を振りながら立ち上がり、斎藤はいそいそと猪口を手に取りストーブへと近寄る。
「湯で割るっても、熱湯を注ぐわけにもいかんでしょ。僕が淹れたげるから」
「ここまで準備したのは儂だが」
「お爺さん、そうカッカしないで、ね」
「テメェも爺だろうが」
このやり取りが行われたのが今日でなければ、危うく拳を振り上げるなり杖で小突くなりしていたかもしれない。それも、薬缶をストーブから下ろすために伸ばされた、着物の裾から覗く白い腕を見れば手を上げる気も失せる。一升瓶を持ち上げたときなんて、それは永倉がここまで持ってきたときよりも大きく見えた。
「はい、どーぞ」
猪口を差し出されてもしばらく無言でいると、それをどう受けとったのか、斎藤は滅多に見せることのない愛想笑いで触れるか触れないかのぎりぎりまで肩を寄せてくる。
「ね、機嫌直してよ」
あけすけなご機嫌取りをしてくる男に、それが満更でもない永倉だって負けず劣らず現金だ。猪口を受け取りつつ、さりげなく肩に手を回してしまったが、斎藤はその手を跳ね除けることもなく擽ったそうに笑いを零した。
「爺呼ばわりした相手にこれはどうなの?」
「美人な爺さんがいたもんだと思ってな」
「はは、僕もお湯割り呑みたいから手を離してくださぁい」
「つれねぇの」
掌に残った硬く尖った感触。それを繰り返し反芻しながら、永倉はおやと眉を寄せた。
「斎藤、それ殆ど湯じゃねぇか」
「これは僕のだから良いんでぇす。ま、休肝日ってやつだ」
「なら湯で割っても駄目だろ」
「そんなこと言っちゃって、ひとりで呑む酒は味気ないって性質だろ」
さらりと告げられた言葉は、永倉が酒しか持って帰らなかった理由すら見抜いているようであった。
「はぁー、ありがとよ」
「うっわ、最初のデカイ溜息がなけりゃ、お触り延長させてあげたんだけどな」
「そりゃ損したぜ」
鼻で笑いつつ受け取った猪口に口をつける。
斎藤も自分で用意した白湯同然の酒をチロチロと舐めるように呑んでいた。
(そんな初心な呑み方をする奴じゃなかったはずだが)
永倉の不躾な視線を受けて、斎藤は据わりの悪い顔をして見せた。
「そんなにジロジロと見るなよ」
ほとんど減った様子のない猪口を置いて、肩を竦める。
「晩年は胃潰瘍だったんでね、酒の量だって減るさ。新八も虫歯には気を付けな」
「……おまえ、知ってたのか」
訃報は届いているかと思ったが……目を大きく開き驚きを顕にする永倉へ、しかし斎藤は首を横に振った。
「いや、普通に調べただけだから」
「調べた?」
「ここ、情報の保管量えぐいよ? 極東のマイナーな人斬りでも労せず資料が手に入るの」
なるほどと納得するのと同時に、それはそれで驚くべきことだとも思う。
「他人の個人情報を調べられるから調べたなんて大っぴらに言うもんじゃねぇぜ、新政府側についたら倫理観と道徳が抜け落ちるのか?」
「耄碌したこと抜かすなよ、新政府側につく前から僕はこうだったが?」
「 確かに今の発言は耄碌してたな、それから儂もおまえさんのこと調べるからな」
それで漸くどっこいどっこいというやつだ。
「ご自由に、でも僕が優秀な公務員だったからってキレて暴れるなよ」
「おまえが権力に媚びへつらってるような話があったら暴れるかもな」
「あれまぁ」
身に覚えがあるのか、或いは単におちょくっているのか。曖昧な声はどちらとも判断がつかない。
自分も調べてやるぞなんて言ったが、永倉たちの世界ではまさか女であった織田信長が、マスターたちの世界では歴史に語られる通り男であるらしいのだ。それを思えば、得られる情報を全てそのまま鵜呑みにはできないだろう。
「わざわざ裏でこそこそ調べるより、胸襟を開いて話し合うのが一番なんだがな」
「晩年は寡黙な男でやってたんで、そういうのは若い姿のときにでも」
「自分が饒舌のくせに意固地が過ぎる性格してる自覚はあるか」
「年の功と老獪さで宥め賺して聞き出してよ」
「儂がそんな器用な真似ができるように見えるかよ」
返事の代わりに斎藤は肩を震わせた。くつくつと喉奥から殺し切れなかった笑い声が聞こえるのが面白くない。
「笑うなよ」
文句を言いながら猪口に残った酒を呑みほす。
「二杯目どうする?」
「頼む」
笑ったお詫びとでも言うのか。進んで二杯目の用意をする斎藤を手持ち無沙汰に眺めながら、ふと思い立った疑問を口にした。
「はこいべ、ってのはなんだ?」
「はぁ?」
「マスターは特異点の修復に勤しんでたんだよな? しかも地球の軸がズレてとんでもねぇことが起きかねなかった規模の」
しかし、その合間に薬でもキメたような目で箱イベという言葉を口走っていたのが気になる。
「……んー、クリスマスでも頑張るマスターちゃんへのご褒美、みたいな? マスターちゃんの喜ぶ物だけ入った福袋っていうか、掴み取りセールっていうか」
「クリスマス商戦なんざしてるのは儂らのとこだけかと思ってたが」
「さてね、マスターちゃんも日本人だし、東京育ちって聞いたし……」
クリスマスなるものが海を越えて日本に訪れたのは明治時代だった。目が回るほどの忙しなさで、あらゆるものが異国から持ち込まれた。
文明開化の象徴とされる真っ赤な薔薇、愛玩の末に迫害された真っ白な兎、永倉が好む活動写真。そしてこの部屋を暖めているストーブ。
「新八は蝦夷に行ったり東京に戻ってきたり落ち着きなかったね」
「おまえはずっと東京か?」
「後で調べてごらんよ。藤田五郎、サンタクロース村へ至る……みたいな新聞記事が見つかるかもよ」
「マジかよ、調べねぇと……とはならんだろ」
あんな白湯みたいな酒をちびちび啜っただけで、よくまぁ酔っ払いの譫言みたいな話ができるものだ。
「そうだねぇ……僕は蝦夷にも行かなかったし、海の向こうへ渡るってことはなかったよ」
それから、
「でも、異国から輸入された作物も花も蝦夷の前に東京で育てられたんだ。気候に合うことを確認してから蝦夷に届けられた。僕は一度も海を越えたことがないのに、遠い国からやってきた幾らかのものはおまえより先に見ることがあったと思うよ」
不思議なもんだよねぇ……と、永倉の前に二杯目の注がれた猪口を置いてから、掌を上に向け人差し指と親指をくっつけて見せた。
「実際に手に入れられたとは言えないのが世知辛いとこだがね」
「薔薇も兎も公務員に手の届く値じゃなかったからなぁ」
兎一匹が六百円、薔薇の苗木一本が百円。
これは米一合が五円から六円の時代の話である。
「薔薇なんて昔から日本にあったじゃん、花弁は少ないけど……兎だって元からいたじゃん、白くないけど……」
わなわなと震えたと思えば斎藤は「箱イベと言やぁ」と話を戻した。
「ローマの皇帝様が直々に開催してくれるときもあるんだが、そこかしこに真っ赤な薔薇が溢れていて」
「壮観だな」
「マスターちゃんがあれを腕いっぱいに抱えてまだ足りないって呻いてるわけよ」
「…………壮観だな……」
「でもマスターちゃんが赤い薔薇を掻き集めて花束作ってマシュちゃんにプレゼントしてるのを見たときはほっこりしました」
「おー、いいねぇ。儂もひとつおまえさんに贈ってやろうか」
「寝言は寝て言ってください、杉村さん」
「急に距離開けてくるじゃねえか、はじめ」
「開けた分の距離を詰めてきたな」
「それともこう呼ぶべきか……一馬」
「誰だよ」
ぺしりと肩を叩かれたが、酒精の勢いもあり寧ろその手を取ってズリズリと畳の上を滑り、斎藤へ身を寄せる。
抱き寄せた腰は力を込めれば容易く折れそうなほどに細い。肩に手を回したときだって、骨張った感触に驚いたものだ。
「えぇ、本当にこんなお爺さん相手に迫っちゃうの? 流石に節操がないんじゃないの?」
「馬鹿言え、どう見ても今が一番別嬪だろ」
「別嬪って」
晩年は寡黙というが、意外と笑い上戸だったのだろうか。斎藤はまた堪え切れぬように笑いを零した。
「ふふ……あは、じゃあ新八はその姿が一番男前なんだ」
「馬鹿言え、儂はいつでも男前だ」
「なぁに、それ。狡くない?」
言った者勝ちというやつだろう。さすがに京で浮名を流した土方のいるところでは言えないが。
「でも、すまんね。別嬪さんな五郎ちゃんはここいらでお別れ」
「はっ、今からだろ?」
言葉の真意を測りかねているうち、扉の向こうから鈴を転がすような愛らしい声。
「永倉さん、可愛い沖田さんが遊びに来ましたよ!」
時計を見れば日付が丁度変わった頃だった。
「なんだ、こんな時間に」
「……こんな時間だからでしょ、マスターちゃん達とのクリスマス会が終わったからこっち来たんだよ。僕らが酒盛りしてるのを見越して」
言葉と共に肩を押される。永倉が身を引くと、斎藤は素早い身のこなしでコートを翻し扉へと向かった。
「マスターたちはもう寝るそうですから、こっちに合流しちゃいます! ……あ、斎藤さんもいたんですね! マスターが言ってた通りです!」
「マスターちゃんが? なにそれ、詳しく聞きたいんだけど」
騒がしい若者たちの声に耳を澄ませながら、永倉はただの湯も同然の、いやそれすらすっかり冷めきった猪口を一息に呑み干す。
「新八、マスターちゃんになにか言ったの?」
文句ありげに振り返る斎藤の黒いコート。
翻る度に見える緋褪色が浮かれた夢から醒めろと訴えてくるようで、永倉は聖夜の奇跡が去ったことを知った。
「一等熟れてる頃を見せるだけ見せて食わせてくれねぇのか」
◆藤田さん
聖夜の奇跡でおじいちゃんになった一ちゃん。
気持ち9割デレ。
逸話的に躾に厳しい人だったぽいけど、今回は歳取って丸くなった一ちゃんイメージ。