clap back 重厚な木製のカウンター越しに、バーテンダーがシェイカーを振る音が響いている。暖色の仄暗い照明で薄っすら照らされた店内には片手で数え切れる程度の客しかいなくて、颯太が言っていた『一見さんお断りの穴場』という言葉の意味をひしひしと理解した。
静流に連れ出される以外では外で酒を飲む機会なんてないし、行ったとしてももっと騒がしいクラブか居酒屋ばかりだ。慣れないバーの空気に自分のズボンを片手で握りしめる。
「ここ良い店だよね〜!ウィズダムのお客さんに紹介してもらっただけあるな〜」
良い店…と言われても比較対象が出てこない。苦し紛れに手元の酒を煽る。長ったらしい名前でよく聞き取れなかったが、シャンパンとコーヒーを混ぜたものらしい。味は確かに悪くないが、颯太が言ってる『良い店』の意味とは違うだろう。
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