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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太。指輪の話。

    ##文スト

    契り交わすに指輪は要らぬ 太宰と付き合い始めて早数年。敦はそろそろ貯金で指輪を買おうか悩んでいた。
     何故悩むのかと云えば、太宰の指には指輪が似合わないような気がしているからだ。あのしなやかで白くすらりと長い指。それには、指輪なんてつける方が趣が無い気がしてならない。
     きっと今の自分が指輪を渡せば、喜んで嵌めてくれるだろうという自信があった。でも、だからこそ敦は困っているのである。
     彼の人に似合わない指輪なんて贈っても仕方ないだろう。それは只の自惚れだろうと、心の声が止まない。
     赤茶けた夕陽の射し込む太宰の部屋。二人、万年床に寝転がりながら敦は隣の太宰の左手を取る。何時も通りの少し低い体温が感じられた。その手の甲を目の前に持ってきて薬指の付け根にそっと唇で触れた。少し擽ったそうに太宰が笑う。その様子に敦は思うのだ。
     ――ああ、やっぱり指輪なんて無い方がこの指は素敵だ。
     愛し合うにしたって金属の冷たい感触なんか邪魔なだけだ。そう思いながら敦は太宰の手に自分の指を絡める。
    「ねえ敦君。君ならそろそろくれるかなって思ってたんだけど、それは私の勘違いかな」
     その薄く笑みを含んだ言葉に敦はどきりとする。
    「もしかして――指輪ですか」
    「うん」
     目を合わせると、太宰は空いた方の手で敦の頬を撫ぜた。敦は正直に云う。
    「太宰さんには指輪が似合わない気がしてならないんです」
    「へえ……じゃあ、こうしようか」
     云うと太宰は敦の手から絡められた左手を解く。そうして敦の唇にその薬指で触れた。察した敦はそっと口を開く。太宰の左手の薬指が口の中に入ってきた。「噛んで。一寸強めにね」その言葉通りにその薬指の根本を噛んだ。太宰が善いと云うまで、じわじわと顎に力を入れる。鉄錆の味がしたと思ったら太宰の眉が顰められる。「もう善いよ」と云われた瞬間、敦は口を開ける。唾液の糸を引いて薬指が出ていく。
    「……消えたら、また付けてね?」
     そう微笑む太宰の薬指の根本には、敦の噛み跡が赤く残っている。浮いた血の珠が紅玉の如く夕陽に輝いていた。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。嫉妬するチェズ。■わたしの一番星


     二人の住むセーフハウスにはグランドピアノが置かれた部屋がある。今日もチェズレイが一曲弾き終わって、黙って傍の椅子でそれを聴いていたモクマは拍手をした。応えるように立ち上がって軽く一礼する。
    「ところでモクマさん。あなたも弾いてみませんか?」
    「えっ、俺?」
     驚いたように自分を指差すモクマを、ピアノ前の椅子に座るよう促す。困ったな、なんて言いながら満更でもなさそうだ。そんな様子に少し期待してしまう。
     モクマは確かめるように、両手の指を鍵盤にそっと乗せる。そうして指先で鍵盤をゆっくり押し下げて弾き始めた。
     ――きらきら星だ。
     多少調子外れながらも、鍵盤を間違えずに一分弱の曲を弾いてみせた。
    「――はい。おじさんのピアノの十八番でした」
     仕向けておいてなんだが、チェズレイは正直驚いていた。きっと片手を使って弾くのがやっとだろうと思っていたから。それと同時に、興味が湧いた。
    「どこで、覚えたんですか」
    「あーね。おじさん二十年くらいあちこち放浪してたでしょ? いつだったかバーで雑用の仕事してる時に、そこでピアノ弾いてたお姉さんに教えてもらったの」
     若い頃のモ 871

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。眠れない夜もある。■インソムニア


     同じベッドの中、モクマはチェズレイの隣で寝返りをうつ。
    「眠れないんですか?」
    「なんか寝付きが悪くてな。……寝酒でもするか」
     起き上がろうとしたモクマの肩を押し止める。薄暗がりの中でプラチナブロンドが揺らめいた。
    「寝酒は体によくありません。それだったら私が催眠をかけて差し上げます」
    「えっ」
     モクマは少しぎょっとする。これまで見てきたチェズレイの催眠といえば、空恐ろしいものばかりだったのだから。するとそれを見透かしたようにアメジストの瞳が瞬いて眉尻が下がる。今にも涙がこぼれ落ちてきそうだ。――モクマはこの顔にたいそう弱かった。
    「モクマさん……私があなたに害のある催眠をかけるとでも?」
    「い、いやそんなこと思っちゃおらんけど……」
     言われてみれば確かにそうだ。この男が自分にそんなことをするはずがない。
     しなやかな手によって再びベッドに背を預け、モクマは隣に横たわるチェズレイと目を合わせた。
    「目を閉じて、ゆっくり呼吸してください。体の力を抜いて」
     穏やかな声に、言われるとおりにモクマは従う。
    「想像してください。あなたは果てのない広い草原にいます。そ 854