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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太800字。完全自殺読本。

    ##文スト
    #BSD
    #敦太
    dunta

    読書の秋「いや〜、すっかり秋になったなぁ。こう涼しいと読書が捗るね」
     太宰はそう云いながら部屋の布団の上で寝そべりつつ、本の頁をめくっている。
    「読書はいいですけど、太宰さんってそれ以外の本読まないんですか?」
     敦が指差すのは、真っ赤な表紙に白で棺桶と十字架のデザインが目を引く『完全自殺読本』だ。太宰は暇さえあればこれを開いて読みふけっている。付箋がびっしり貼られた彼の愛読書。それは聞いた話によると彼の生まれる前に出版されて一躍話題になったものの、有害図書認定されて絶版になった稀覯本らしい。
    「何を云ってるんだい敦君。これより素晴らしい本なんてこの世にないよ?」
     太宰が熱弁する。敦は本能で「あ、変なスイッチ押した」と思ったが後の祭り。
    「これには当時に可能だったあらゆる自殺方法が書かれているんだよ。首吊り、服毒、凍死、入水などなど。
     実際この本は、これに書いてある方法で自殺した人間の部屋から見つかっていることも多いんだ」
     それを聞いて敦はぞっとする。部屋で首吊り死体で、服毒自殺で、一酸化炭素中毒死で見つかる人々。その傍らにはその本が置いてあって――。
    「太宰さん。その本、手放す気は……」
    「あるわけないじゃないか!」
     きっぱりと言い切られてしまって敦はがっくり肩を落とす。
    「内容は全部暗記してるけど、いい本は何度読んでもいいなぁ。
     これを有害図書だと云う人間の気が知れないね。この本はこの生き辛い世から逃げ出したい者たちへの助言を書いた聖書なのに」
     そう云いつつ嬉しそうにぺらぺらと頁をめくる。敦は何か別のもので気を逸らせないかと思案し始める。しかし、何も思いつかない。
    「……とりあえず、僕は珈琲でも淹れてきます」
     台所で珈琲を淹れて戻ってくると、太宰は胸の上に本を伏せたまま仰向けになっている。そのまま天井を見つめているようだ。目線はそのまま、敦に問いかけてくる。
    「敦君。もう少しして冬が来たら、雪山……もといスキー場にでも行かない?」
    「行きませんし行かせませんよ!?」
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    DOODLEチェズモク800字。モクさん不在でチェズとルクの会話。■結婚妄想


    「なあ、チェズレイってモクマさんと付き合ってるんだろ?」
     キッチンで夕食の支度の手伝いをしながらルークが訊いた。五人分の皿を食器棚から取り出している。
    「ええ。そうですが何か?」
     まな板の上の食材を包丁でトントンと軽快に切りながら、チェズレイはこともなげに答えた。たぶんアーロンからルークの耳に入ったのだろうと予測する。
     ルークは持ってきた皿を置くと、目を輝かせてこう言った。
    「モクマさんのいいところっていっぱいあるけどさ、決め手はどこだったんだ?」
     チェズレイはほんの少しの思案の後に、至福の笑みを浮かべた。
    「全部、ですかね」
    「そっか~!」
     ルークもつられたように、嬉しそうな満面の笑顔になる。チェズレイはそれが少し不思議だった。
    「どうしてボスは、今の私の答えで喜ぶんですか?」
    「だって、モクマさんって僕の父さんみたいな人なんだもん。そんな自分の家族みたいな人のことを、手放しで好きだって言ってくれる人がいたらそりゃ嬉しいよ」
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    高間晴

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     そして三分ほどが経った頃、その場でタブレットを操作していたチェズレイが顔を上げる。影が目の前に舞い降りた。
    「どうでした?」
    「警備は手薄。入り口のところにライフルを持った見張りが二人いるだけ」
    「そうですか」
     ふむ、とチェズレイは思案する顔になる。
    「内部も調べ通りなら楽々敵の首魁まで行けるはずだよ」
     振り返って笑う顔がひきつる。その太腿に、白刃がいきなり突き立てられたのだから。
    「なッ……」
    「それじゃあ、今日のところはあなたを仕留めて後日出直しましょう」
     チェズレイは冷ややかな声で告げると、突き立てた仕込み杖で傷を抉った。
    「ぐっ……なぜ分かった……!?」
    「仮面の詐欺師である私を欺くなんて百年早いんですよ」
     それ以上の言葉は聞きたくないとばかりに、チェズレイは偽者の顎を下から蹴り上げて気絶させた。はあ、と息を吐く。
    「モクマ 820

    高間晴

    DONEチェズモクワンライ「花粉症/潜入」。■今宵は一献


     ヘリの窓からネオン色のまばゆい夜景を見下ろしてモクマが言う。
    「いや~、絶景だねぇ」
     チェズレイとモクマは敵組織のアジトを無事発見し、今宵、二十階建てのビルの高層部に潜入することになった。
    「おや、遊覧飛行をお望みですか?」
     チェズレイの言葉にモクマは苦笑する。
    「そういうわけじゃないけども」
     夜闇に紛れてチェズレイの部下が操縦するヘリに乗り込み、二人は上空から最上階を目指していた。
     二人が無事に屋上へ降りたのを確認してから、ヘリを操縦している部下は二人に向けて力強く親指を立ててみせる。ご武運を――。無言のうちにその意味が伝わってくる。そうしてヘリはバラバラとローター音を鳴らしながら速やかにその場を離れていった。中の通路は薄暗く、窓から入る月明かりだけが頼りだった。
     と、通路を足音も立てずに進んでいたらチェズレイが口元を押さえて本当に小さな小さなくしゃみをもらす。モクマは視線だけで大丈夫かと問うたが、チェズレイは軽く頭を下げるだけですみませんと言ったようだった。
     チェズレイはこの国に来てから花粉症に悩まされていた。幸いいまの時代は薬で症状が抑えられるとは 2238