Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 387

    高間晴

    ☆quiet follow

    現葉佩と子供の頃の皆守が出会う話。

    ##九龍

    転送機バグ 一九九六年、夏。
     夏休みになり、セミもうるさく鳴いているある日。コンビニ帰りの最中。ふいに人の気配を感じて日の当たらない路地裏を覗き込んだら、誰かは知らないけれど人が倒れていた。俺は慌てて誰かに助けを呼ぼうとしたのだけれど、その人影――男が動いて俺の手を掴んだ。
    「……ごめん、人呼ばないで」
    「だって、傷だらけじゃないか」
     頬にも腕にも擦り傷や切り傷がある。よく見れば高校生だろうか。小学生の俺よりずっと背が高い。何かいかついゴーグルを額にはね上げ、学ランの上にポケットのたくさんついたカーキ色のベストを着ている以外は普通の人間なのに、どこか、何かが違うと感じた。男は「よいしょ」と言って路地の壁を背に座り込む。俺は不思議とその男に興味を惹かれた。
    「アンタ、何者なんだ」
    「あー、俺に関わらないほうがいいよ? さっさとおうち帰りな」
     その言葉に俺はむっとしてしまう。こっちを完全にガキ扱いしている。確かに俺はコイツから見ればガキかもしれない。でも。
     それにどうせ家に帰っても共働きのうちは母さんも父さんもいないのだ。
    「じゃあ名前くらい教えろよ。じゃないと人呼ぶぞ、不審者」
     そう言って俺が食い下がると男は「困ったなぁ」と言ってあぐらの上に片肘をついて考え込んでいる様子だった。
    「んー……カラスとでも呼んで」
    「どう考えても本名じゃないだろ。馬鹿にしてるのか」
    「世の中には知らなくていいこともたくさんあるの。
     それに俺の髪と目、よく見てみな。カラスみたいに真っ黒だろ」
     そう言って俺に顔を近づけてくる。男の言うとおりに髪も目も真っ黒だった。カラスという偽名もあながち的外れではない雰囲気で。
     世の中にある知らなくていいことなんて思いつかなかったが、俺はぎゅっと拳を握りしめると男の顔を見据えた。
    「じゃあ俺はお前とは違うから名乗る。皆守甲太郎だ」
    「みなかみ……!?」
     男が明らかに慌てたので俺はどうしたのだろうかと不審に思う。一拍置いて俺のことを頭から爪先まで眺め下ろすと一人で何やら納得している。
    「……あ、それアイスだろ。溶けちゃうぞ」
    「あ」
     男――カラスが俺の手にしているレジ袋を指差す。すっかり忘れていた。コンビニにアイスを買いに行っていたことを。俺は袋からアイスを取り出した。パピコ。どうせ分ける相手もいないのに今日は無性に食べたくなって買った。どうせなら、と俺はカラスに訊く。
    「……半分、食うか?」
    「え、いいの? じゃあもらおっかな」
     俺はカラスの隣に座るとパピコの袋を破いて中身を二つに割った。片方をカラスに渡す。
    「ありがと」
     俺は頷いて、カラスと一緒に吸い口をちぎって開ける。そして日光や辺りの熱気でほどよく溶けたアイスを吸う。冷たくて甘くて、美味しかった。俺は一人でものを食べることが多いので、本当の名前も知らない、どこの誰かも分からない男とアイスを分け合っているなんておかしな気分だった。ふふ、と笑いがこぼれる。
    「なあ。甲太郎って家ここの近所なの?」
    「そうだけど」
    「へーそっかー」
     ふんふん頷きながらカラスはパピコを吸っている。
    「甲太郎は学校、楽しい?」
    「そこそこ。上級生がたまにウザい以外は」
     しばらくして俺も食べ終わったのでカラスの分の食べ終わったゴミもまとめてレジ袋に入れる。
    「カラスは、この後どうするんだ?」
    「俺はここにいるよ」
    「じゃあ明日も会えるか?」
    「分かんない」
     カラスは曖昧な笑みを浮かべる。俺はきっともう会えないだろうなと思って立ち上がるとカラスに抱きついた。血と火薬の匂いがする。
    「甲太郎?」
     一瞬驚いたような声でカラスは俺の名を呼ぶと、ぽんぽんと背中を叩いてくる。その手のひらは大きかった。
     そうして俺はがばっとカラスから離れると振り返らず家に向かって走り出す。家について荒い息のままで鍵を取り出して玄関を開ける。すると、あれは夢だったんじゃないかという思いが強くなってきた。レジ袋の中の二人で食べたパピコのゴミだって、現実だったという証拠にはならない。

     翌日、同じ路地裏を覗いてもカラスはいなかった。きっともうこの街のどこにもいないのだろう。不思議とそう思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。モクさん不在でチェズとルクの会話。■結婚妄想


    「なあ、チェズレイってモクマさんと付き合ってるんだろ?」
     キッチンで夕食の支度の手伝いをしながらルークが訊いた。五人分の皿を食器棚から取り出している。
    「ええ。そうですが何か?」
     まな板の上の食材を包丁でトントンと軽快に切りながら、チェズレイはこともなげに答えた。たぶんアーロンからルークの耳に入ったのだろうと予測する。
     ルークは持ってきた皿を置くと、目を輝かせてこう言った。
    「モクマさんのいいところっていっぱいあるけどさ、決め手はどこだったんだ?」
     チェズレイはほんの少しの思案の後に、至福の笑みを浮かべた。
    「全部、ですかね」
    「そっか~!」
     ルークもつられたように、嬉しそうな満面の笑顔になる。チェズレイはそれが少し不思議だった。
    「どうしてボスは、今の私の答えで喜ぶんですか?」
    「だって、モクマさんって僕の父さんみたいな人なんだもん。そんな自分の家族みたいな人のことを、手放しで好きだって言ってくれる人がいたらそりゃ嬉しいよ」
     ルークのきらきらするエメラルドの瞳が細められる。それを見てチェズレイは、モクマに対するそれとはまた別の「好ましい」と思う気持ちを抱い 842

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書きブラウザ読み用!
    猫に出会ったり思い出のはなしをしたりするチェモのはなし
     やや肌寒さの残る春先。早朝の閑静な公園には、ふたりぶんの軽快な足音が響いていた。
     現在、チェズレイとモクマが居を構えているこの国は、直近に身を置いていた数々の国の中でも頭一つ飛び抜けて治安が良い。借り受けたセーフハウスで悪党なりに悪巧みをしつつも優雅な暮らしをしていた二人が、住居のほど近くにあるこの公園で早朝ランをするようになって、早数週間。
     毎朝、公園の外周をふたりで一時間ほど走ったり、ストレッチをしたり。そうするうちに、お互いに何も言わずとも自然と合うようになった走行ペースが、きっちりふたりの中間点をとっていた。
     数歩先で軽々と遊歩道を蹴るモクマに、チェズレイは平然を装いながら素知らぬふりでついていく。『仕事』が無い限りはともに同じ時間、同じような距離を走っているはずなのに、基礎体力の差なのかいつもチェズレイばかり、先に息が上がってしまう。
     今日だってそうだった。そしれこれもまたいつも通り、前方を走っている相棒は、首だけで振り返りながらチェズレイをちらりと見遣っただけで、仮面の下に丁寧に押し隠した疲労をあっさりと感じ取ってしまい、何も言わずにゆったりペースを落とした。
      6780