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    高間晴

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    高間晴

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    2020/07/11

    ##九龍

    命にふさわしい 血みどろになって戦う葉佩はばきを、皆守みなかみはじっと見つめていた。
     化人はつちくれが残り一体。葉佩がAUGで弱点の腕を撃っているが、その照準はふらついていて定まらない。八千穂やちほが背後から悲痛な声を上げる。
    「九チャン、もう逃げようよ! このままじゃ死んじゃう!」
     葉佩はその声が聞こえているのかいないのか、弾切れになったAUGを放り出して荒魂剣を腰から引き抜く。がむしゃらな動きで壌を一閃。それで敵は消滅していく。
    「倒せた……」
     その場に葉佩はがくりと膝をつくとそのまま倒れ込んだ。慌てて八千穂と皆守が駆け寄る。
    「九チャン!?」
    「九ちゃん! おい、しっかりしろッ」
     閉じられた目を開かせようと、皆守は葉佩を抱き起こしてその頬を平手で強めに叩いた。だが反応はない。
     H.A.N.Tが何か喋っている。
    〈心拍数低下――呼吸停止。CPRを実施してください〉
    「――ッ!」
     皆守の血の気がざあっと引いていく。八千穂がラケットを握りしめたまま混乱した様子で皆守に訊いた。
    「皆守クン、し、しーぴーあーるって何!?
     その前に呼吸停止とか言ってたけど!?」
    「いいから八千穂、魂の井戸まで戻って井戸の水汲んでこい!」
     どんな傷でも癒やすあの水があればきっと――皆守はすがる思いで八千穂に先程飲んだミネラルウォーターの空ペットボトルを渡す。八千穂は「分かった!」と言って放たれた矢のように来た道を走って戻っていった。
     皆守は葉佩の体を地面に横たえて、その口元に頬を寄せた。やはり呼吸をしていない。速やかに葉佩のアサルトベストのファスナーを引き下ろした。その下の学生服はボタンを引きちぎる。そして以前の避難訓練でいつかの時のためにと教えられた心肺蘇生法を思い出しながら、心臓マッサージを行う。
     両手を重ね、胸の真ん中を、胸が五センチ沈む程度に、一分間あたり百から百二十のテンポで。
     死ぬな。死ぬな。死ぬな。もう俺に失わせないでくれ……!
     皆守のこめかみを伝う汗が、葉佩のTシャツの胸の上に重ねた手の甲にぽたりぽたりと滴る。
    「くそッ――!」
     これでも駄目かと思い、葉佩の顎を引き上げて気道を確保する。鼻をつまんで唇を重ねると息を吹き込んだ。かすかに鉄の味が感じられる。それからすぐさま心臓マッサージに戻る。
     三十回心臓マッサージをして、一回人工呼吸。それを数回繰り返したところで葉佩が、かはっ、と力のない咳をした。
    「九ちゃん!」
     その声に震える目蓋が開く。けほけほと弱い咳をして、喉をひゅうひゅう言わせながら酸素を取り込むのに懸命になっている。死んでなかった。生きている。それを確認した皆守は脱力する。やっと焦点が合ったらしい目が、皆守の顔をとらえる。かすれた声がこう言った。
    「……俺、死んでた……?」
    「死ぬ手前までは行ったぞ」
     そこへ八千穂が走って戻ってくる。
    「皆守クン、水汲んできたよ! ――って九チャン! 大丈夫!?」
     葉佩が身を起こそうとするのを皆守は手伝ってやり、魂の井戸の水だからと説明して八千穂の汲んできた水を飲ませる。最初は一口飲み下すのも辛そうだったが、一口含んでしまえばあとは食いつくように飲み干した。
    「あー、生き返った……」
     すっかり元の生気を取り戻した葉佩が口を拭う。
    「もう大丈夫? 九チャン」
    「大丈夫だよー。心配かけてごめんな」
     葉佩が八千穂の頭を撫でて笑う。皆守はアロマに火をつける。
    「――今日はもう帰るぞ、九ちゃん。嫌とは言わせない」
     有無を言わせぬ皆守の言葉に、悪戯を叱られた子供のような顔で葉佩は微笑んだ。
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