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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    2020/07/11

    ##九龍

    命にふさわしい 血みどろになって戦う葉佩はばきを、皆守みなかみはじっと見つめていた。
     化人はつちくれが残り一体。葉佩がAUGで弱点の腕を撃っているが、その照準はふらついていて定まらない。八千穂やちほが背後から悲痛な声を上げる。
    「九チャン、もう逃げようよ! このままじゃ死んじゃう!」
     葉佩はその声が聞こえているのかいないのか、弾切れになったAUGを放り出して荒魂剣を腰から引き抜く。がむしゃらな動きで壌を一閃。それで敵は消滅していく。
    「倒せた……」
     その場に葉佩はがくりと膝をつくとそのまま倒れ込んだ。慌てて八千穂と皆守が駆け寄る。
    「九チャン!?」
    「九ちゃん! おい、しっかりしろッ」
     閉じられた目を開かせようと、皆守は葉佩を抱き起こしてその頬を平手で強めに叩いた。だが反応はない。
     H.A.N.Tが何か喋っている。
    〈心拍数低下――呼吸停止。CPRを実施してください〉
    「――ッ!」
     皆守の血の気がざあっと引いていく。八千穂がラケットを握りしめたまま混乱した様子で皆守に訊いた。
    「皆守クン、し、しーぴーあーるって何!?
     その前に呼吸停止とか言ってたけど!?」
    「いいから八千穂、魂の井戸まで戻って井戸の水汲んでこい!」
     どんな傷でも癒やすあの水があればきっと――皆守はすがる思いで八千穂に先程飲んだミネラルウォーターの空ペットボトルを渡す。八千穂は「分かった!」と言って放たれた矢のように来た道を走って戻っていった。
     皆守は葉佩の体を地面に横たえて、その口元に頬を寄せた。やはり呼吸をしていない。速やかに葉佩のアサルトベストのファスナーを引き下ろした。その下の学生服はボタンを引きちぎる。そして以前の避難訓練でいつかの時のためにと教えられた心肺蘇生法を思い出しながら、心臓マッサージを行う。
     両手を重ね、胸の真ん中を、胸が五センチ沈む程度に、一分間あたり百から百二十のテンポで。
     死ぬな。死ぬな。死ぬな。もう俺に失わせないでくれ……!
     皆守のこめかみを伝う汗が、葉佩のTシャツの胸の上に重ねた手の甲にぽたりぽたりと滴る。
    「くそッ――!」
     これでも駄目かと思い、葉佩の顎を引き上げて気道を確保する。鼻をつまんで唇を重ねると息を吹き込んだ。かすかに鉄の味が感じられる。それからすぐさま心臓マッサージに戻る。
     三十回心臓マッサージをして、一回人工呼吸。それを数回繰り返したところで葉佩が、かはっ、と力のない咳をした。
    「九ちゃん!」
     その声に震える目蓋が開く。けほけほと弱い咳をして、喉をひゅうひゅう言わせながら酸素を取り込むのに懸命になっている。死んでなかった。生きている。それを確認した皆守は脱力する。やっと焦点が合ったらしい目が、皆守の顔をとらえる。かすれた声がこう言った。
    「……俺、死んでた……?」
    「死ぬ手前までは行ったぞ」
     そこへ八千穂が走って戻ってくる。
    「皆守クン、水汲んできたよ! ――って九チャン! 大丈夫!?」
     葉佩が身を起こそうとするのを皆守は手伝ってやり、魂の井戸の水だからと説明して八千穂の汲んできた水を飲ませる。最初は一口飲み下すのも辛そうだったが、一口含んでしまえばあとは食いつくように飲み干した。
    「あー、生き返った……」
     すっかり元の生気を取り戻した葉佩が口を拭う。
    「もう大丈夫? 九チャン」
    「大丈夫だよー。心配かけてごめんな」
     葉佩が八千穂の頭を撫でて笑う。皆守はアロマに火をつける。
    「――今日はもう帰るぞ、九ちゃん。嫌とは言わせない」
     有無を言わせぬ皆守の言葉に、悪戯を叱られた子供のような顔で葉佩は微笑んだ。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。年下の彼氏のわがままに付き合ったら反撃された。■月と太陽


    「あなたと、駆け落ちしたい」
     ――なんて突然夜中に年下の恋人が言うので、モクマは黙って笑うと車のキーを手にする。そうして携帯も持たずに二人でセーフハウスを出た。
     助手席にチェズレイを乗せ、運転席へ乗り込むとハンドルを握る。軽快なエンジン音で車は発進し、そのまま郊外の方へ向かっていく。
     なんであんなこと、言い出したんだか。モクマには思い当たる節があった。最近、チェズレイの率いる組織はだいぶ規模を広げてきた。その分、それをまとめる彼の負担も大きくなってきたのだ。
     ちらりと助手席を窺う。彼はぼうっとした様子で、車窓から街灯もまばらな外の風景を眺めていた。
     ま、たまには息抜きも必要だな。
     そんなことを考えながらモクマは無言で運転する。この時間帯ともなれば道には他の車などなく、二人の乗る車はただアスファルトを滑るように走っていく。
    「――着いたよ」
     路側帯に車を停めて声をかけると、チェズレイはやっとモクマの方を見た。エンジンを切ってライトも消してしまうと、そのまま二人、夜のしじまに呑み込まれてしまいそうな気さえする。
     チェズレイが窓から外を見る。黒く広い大海原。時 818

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。チェがモの遺書を見つけてしまった。■愛の言霊


     ヴィンウェイ、セーフハウスにて。
     昼過ぎ。チェズレイがモクマの部屋に、昨晩置き忘れた懐中時計を取りに入った。事前にいつでも部屋に入っていいと言われているので、こそこそする必要はない。部屋の中はいつもと同じで、意外と整理整頓されていた。
     ――あの人のことだから、もっと散らかった部屋になるかと思っていたけれど。よく考えればものをほとんど持たない放浪生活を二十年も続けていた彼の部屋が散らかるなんてないのだ。
     ベッドと机と椅子があって、ニンジャジャングッズが棚に並んでいる。彼が好きな酒類は「一緒に飲もう」と決めて以来はキッチンに置かれているので、その他にはなにもない。チェズレイはベッドサイドから懐中時計を取り上げる。と、ベッドのマットレスの下から何か白い紙? いや、封筒だ。そんなものがはみ出している。なんだか気になって――というよりは嫌な予感がして、半ば反射的にその封筒を引っ張り出した。
     その封筒の表には『遺書』と書かれていたので、チェズレイは硬直してしまう。封がされていないようだったので、中身の折りたたまれた便箋を引き抜く。そこには丁寧な縦書きの文字が並んでいて、そ 827