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    milouC1006

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    milouC1006

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    レクに妹が出来た日の、クが婚約者をそれはそれは幸せそうに紹介してくれる話………………これは……先生の片思い……かも知れない……
    ――――――――――――――――

    「きょうだい!」

     何度でも聞きたいその声が、青空に浮かぶ飛竜の影から聞こえた。二人が別の国で暮らし始めてから約一年、数節に一度会ってきたが、こうしてなんの連絡も無く突然飛んで来るのは初めての事だった。テラスに出て、飛竜の足がつくのを待つ。吹き飛ばされそうなほど強い風を起こして着地する飛竜。無理なほどに飛ばしてきていたのは明白だった。何をそんな急ぐことが、と尋ねようと思ったが、彼の手を取り降りてきた人の姿に息が止まる。

    「突然ですまないんだが……この人、俺の婚約者なんだ」

     そう、いままで見たことの無いような笑みで紹介してくれる。一番肝心な名前を言わないまま、博識な人だとか見ての通り美人でとか、魅力を教えてくれるのを見ると、心の底から惚れこんでいるのだと簡単に分かった。彼の説明通り、病的なまでに白い肌にガラス玉のように透き通った青い瞳。未来の夫が満足いくまで口を出さないフォドラ特有の淑やかさとは裏腹に、顔立ちははっきりとしていて彼の故郷を思わせる。
     と、そこでやっと俺がすっかり置いて行かれているのに気付いたのか、クロードは急に押しかけて済まないと言った。

    「ついさっき、良いって言ってもらったばかりで。親とか官僚とかにも伝えないといけないんだが……何よりも先に、あんたに伝えたくてさ」

     照れつつ、それでも一瞬たりとも笑顔を絶やさないで話し続けるクロード。感情の制御がよく効く彼だが、こうして顔を緩め切ってしまうほどに嬉しいらしい。一通り聞き終わって、やっと息を吸えた心地がした。「君が」

    「君から、彼女に愛していると伝えたのか?」
    「ああ、実は帰る前から付き合いがあってね」
    「君から、そのお付き合いを続けていたんだ」
    「この通り貞淑な人だから最初は上手く行かない時もあったんだがな」
    「君が望んで、彼女を愛しているんだね」
    「……きょうだい?」

     訳も分からず、涙が零れて来た。決して悲しみなどでは無い、嬉し涙が。意図せず口角も上がって、こう勝手に自覚できるほどいい笑顔が浮かんだのは初めてかも知れない。多分心の上澄みには笑いたくない事情もあったはずだが、こうして彼の幸せそうな顔を見ると、頭の片隅にも浮かんでこなかった。それを見た彼はぎょっとして、初めて笑顔を手放す。「俺、なにか気に障る事……」

    「いや、違うんだ。その、嬉しくてな」
    「あ、やでも、滅多に泣かないあんたがこう号泣してるのを見るとだな……多少不安に」
    「クロード」

     戸惑う彼の前で、大きく手を横に広げる。その恰好が何を示しているかは、経験が無い者でも簡単に分かる。おいで、とだけ一言いえば、少し目を泳がせた後にきつく抱きしめてくれた。

    「よく、頑張ったね」
    「なんで、そんな事」
    「勇気が必要だったろう。誰を愛して、その懐に飛び込むには」
    「……最初は、少し」
    「自分についてもそうだ。誰かにその黒い腹の内を見せて、白く深い所までさらけ出すのは怖かっただろう。だから、その、本当に君は大人になったんだと思うと、嬉しくて」
    「……全部、あんたのおかげだよ」

     抱きしめる彼の腕の力が強くなる。顔も首元に埋めるように更に近くなり、涙声に近いような声が直接喉に響いた。

    「あんたと一緒に、学んだんだ。人と関わっていくことがこんなにもいい事で、楽しくて、安心できるんだって。その方法も、自分自身を伝える方法も……みんな、あんたと一緒に見つけたんだ。だから、あんたのおかげだよ、先生」

     そう言えるのが何よりの成長。そう思いながら彼の頭を撫で、同じく首元まで顔を埋めていると、冷たい視線が突き刺さっているような気がした。
     クロードもそれを感じたのか、一瞬身を強張らせてゆっくりと顔を上げる。相変わらず一言も口に出してはいないが、その無言の圧と視線が何よりも心情を訴えている。「まだ誰にも報告していないので、破棄しても構わないんですよ」

    「いや、いやいやちょっと待ってくれ誤解だ。別に俺と先生はそういう仲じゃ無くてだな……」

     婚約当日に破局とかは無しだぜ、と彼が俺の腕の中から抜けていく。すっかり頭の上がらないようで、結婚した後もこうして彼女の方が強いのだろうと簡単に想像できた。

    「その、もしよければ今から三人で茶会にしないか。クロードの近況についてもそうだが、よければ彼女とも話をしたいんだ」
    「お、そいつは名案だな。あんたと一緒に茶を飲むのはいつぶりだったかな……見た目に寄らず、あの人茶を入れるのがあまり得意じゃないんだよ」

     そう彼女の肩を抱くクロードの顔を見れば、きっと「先生以外にもこんな顔するなんて」とヒルダが驚くに違いない。俺もきっと、まだ彼の事を完璧になんて理解してあげられていないから、もしかすると、俺よりもクロードの事を知っているのかも知れない。

    「そうだ、名前を聞きそびれていた。伺っても?」
    「旧同盟領の小さな貴族ですからご存じないかと……」

     彼の婚約者だというから、そのあたりは寛容な方だと思っていた分このためらいは意外だった。むしろ、こうして多少偏見の残っている人が自由な彼のそばには必要なのかもしれない。「名前を名乗るのに家柄は必要?」

    「……いえ、ダニエラ=フォン=ティーセンと申します」
    「そうか。名乗るまでも無いかも知れないが、俺はベレト=アイスナーと言う。クロードと俺はきょうだいだから、君は妹にあたるのかな。とにかく、おめでとうと初めまして、ダニエラ」

     さようなら、初恋。
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