Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    milouC1006

    @milouC1006

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    milouC1006

    ☆quiet follow

    いちゃつく眷属レクのチョコ風味。この後お互いを食べつくして晩御飯はお総菜屋さんのから揚げをたくさん買ってきていろんな肉料理を堪能した……いつものやつです

     雀も鳴き飽きて鳩に出番を譲る昼時、クロードは昨晩傷めた腰をさすりながら体を起こした。
     クロードが起業してから、つまりこの地に引っ越してから、両手で数えるほどの年数になった。百年以上を過ごした地を発ち、伸ばしていた髪も断ち、身も心も状況も一新した彼の新事業はみるみるうちに名企業へと成長していた。業務はフルリモートが基本だが、今回ばかりは殆ど国家機関と言っても差し支えの無い大重鎮が相手の商談で、数日家を留守にしていた所だった。ベレトはここへ越して以来、定職には就かずに家庭へ入り、クロードの事業を支えていた。普段はどれだけ忙しくても家に帰る伴侶が、連日留守にするというのは実に数百年ぶりで、昨夜は寂しさから帰宅即尺の後、事に及んでしまったばかりだった。
     家庭と家計を支える役目をそれぞれ十数年後に交換し合い、そのたびに引っ越すのは長寿を秘匿するため。家庭に入った方は、毎回なにか食事を一品決めて交代するまでにどれだけ上達するか挑戦するのが常で、昨晩から放置されている食事は今回のベレトの一品だった。
    もったいないとテーブルに乗ったまま乾燥しているそれを見つめていると、少し遅くに起きたベレトがクロードの事をもう一度布団の中に引き込もうとする。
    「きょーうだい、もう朝は過ぎて昼なんだぜ?」
    「クロードが、まだ足りない……」
    「昨日あんなにがっついて、まだ足りないのかよ」
    「三日も離れてたんだ。三日以上こうしていないと足りない」
    「それじゃあ、次に家を空ける時には俺の食いだめが必要だな」
     肩を一周しっかりと抱きしめた腕に従って、二人は昨夜の熱を閉じ込めたままの布団に戻る。足や腕は勿論、鼻筋まで余さず擦り付け合いながらじっくりと数日ぶりのお互いを味わいつくす。ベレトの頬は見かけによらず柔らかく、揉んでは崩れてもなお可愛らしい顔立ちを見るのがクロードの毎朝の楽しみだった。
    「千年生きて、いろんな人を見て来たが……あんたほど綺麗で可愛くて魅力的な人、俺は知らないな」
    「俺も、君ほど綺麗で可愛くて魅力的で、心の底から愛したいと思った人を知らないな」
    「……あんた、普段は口下手なのに睦言になればいつも一枚上手なんだよな」
    「既存の言葉では表現できないくらい愛してるからな」
     口の巧拙が影響しにくい、とクロードの額に吸い付く。その時、ふとベレトが思いついたように「今日、何の日か覚えているか」と尋ねた。祭日や行事ごととなればクロードの得意分野だが、思いつかずに暫く唸る。
    「今日、今日は……あれだ、バレンタインだな!」
    「正解だ。ここ数年は仕事に忙しくて祭事に意識が向いていなかっただろう」
    「そうだな。俺の専門分野とは些か遠い祭りだし、結婚してるから意識してこなかったのか。愛を伝える祭りだってのに、勿体ない事をしてきたなぁ。この国じゃ、女が男に贈り物をするのが一般的だったんだけ? 俺は何も用意してないしあとで一緒に買いに行こうか」
     前にこのバレンタインを祝ったのは百数十年前のはるか遠い異国でのことだ。国が変わり時代も変われば祝い方だって当然変わる。同じ男同士だから贈り合うのが面白いだろうと思っていると、あれだけしっかりと抱きしめられていた腕が離れていつの間にか台所に向かっていた。「俺の方は用意していて」
    「この国では、こういうものを送るのだそうだ」
    「これは……チョコレートだな」
    「ああ。君は甘いものが苦手だろうから、出来るだけ控えめにしてある」
    特別な装飾も無い黒の箱の中、仕切りの間で行儀よく並ぶ粒たち。模様が描かれているが所々欠けているそれは、きっと売り物ではないのだろう。となると、これは「手作りか?」
    「そうだ。俺の」
    「へぇ、すごいじゃないか。よくこれだけ綺麗な模様を書けたな。立派な売り物みたいだ」
     より一層自慢げに、豊かになった表情を見せるベレト。彼に差し出されるまま一粒口に含むと、中からは少しきつめの酒が溢れ出してくる。彼は昔からクロードよりも少し手先が器用で、料理や裁縫などは得意な質だったが、まさかここまで本格的な菓子を作るほどだとは思わなかった。「美味いよ」
    「ビターに酒だってのに、心地よく甘いんだから不思議だな」
    「愛情だけは、致死量しっかり盛っているからな」
    「道理で。俺が一番好きな甘みだ」
     少し体を放して表情や姿を堪能していたベレトへ誘うような笑みを向けてみると、彼はたまらずもう一度抱きしめて口を重ねる。普段よりも一層熱く甘くなった舌を絡めていると、不意にベレトの腹の虫が大きく唸った。
    「……君の口が、美味しかったからつい」
    「っはは。俺もあんたも、昨日から何も食ってないしな。昼飯にしたって遅い時間だが、何か弁当でも買ってこようか」
    「いや、今日は君で腹を満たすと決めていたんだ」
     俺を食べても腹は膨れないだろうに。そう言いだそうとした口をもう一度塞いで、ベレトは覆いかぶさるように体勢を変える。朝を邪魔されないように拘った遮光カーテンを通り抜ける僅かな明かりでも十分に分かるほど、ベレトの瞳には欲が溜まっていた。妙な言葉は野暮だ。
    「それじゃあ、これはデザートとしてあとで一緒に食べるとして……」
    「主菜の時間、だな」
     肉料理と飛び出そうだったベレトの口は、流石に情緒が無かったので軽く口で塞いでやった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺❤❤💖💖💘❤💘💘☺💖🙏🙏💖💘👏💕💒💖💞💞❤❤🍫🍫👍👍☺🙏❤❤❤🍫🍫🍫🍫🍫😊💘❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator