Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    milouC1006

    @milouC1006

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    milouC1006

    ☆quiet follow

    ( @azihanako )これがぬいぐるみを潰すト先生のレクの納品です……俳優パロを添えて

    「――ということで、今日の収録よろしくお願いします~!」
     スタッフは朝の情報番組らしい快活な声で今日の予定を告げ、楽屋を去っていく。残された二人は、まだ眠気の振るい切れていない頭を缶コーヒーで奮い起こそうとしていた。
     映画「天刻」シリーズのクランクアップを終えたその数日後、同盟領盟主役のクロードと大戦の命運を握る主人公役のベレトは、宣伝のためにこの早朝から情報番組へ出演することになっていた。
     「フォドラ三国大戦」という長年様々な作品の題材になってきたこの大戦を、斬新な解釈を加え四作品にも及んで上映された「天刻」シリーズは、ついに今作の「和平」で幕を閉じることになっている。ただでさえ世間が注目するそれを、より一層盛り上げようと演者から監督まで関係者がありとあらゆるところへ駆り出されていた。
    「いやぁ、俺、目覚め良い方なんだが……久しぶりに休めた後にこの早朝出動は堪えるよなぁ」
    「昨晩は無理をさせて済まない」と、ベレトは菓子受けの中からのど飴を摘まんでクロードへ差し出した。映画自体の収録は終わったが、人気俳優である彼らには他の仕事もひっきりなしに訪れる。更に、相当見込みが外れなければ、同じキャストでの舞台化、外伝のアニメ化なども視野に入れられているらしい。つまりこの数日しか、見通せる休日というものがない。お互い声を枯らさないように体を交えずこの数か月過ごしていたが、昨日、久し振りの休みで昨晩は気が違ったように交わったばかりだった。
    ベレトから貰った飴を口に放り込んだクロードは、ハッカと少し嬉しそうに呟く。甘味よりも清涼感の方が好きな質だ。
    「それにしても、インタビューだとさ。頑張れよベレト」
    「……努力は、したい」
    「あれだけ色々舞台に立ってるってのに、まだ喋る事には慣れないんだから面白いよなぁ、あんたはさ」
     憑依型だし仕方ないか、とクロードは緊張に固まり始めたベレトの頬を面白そうにつつく。
    平時はいつも気が抜けて緊張感が無いベレトも、撮影、殊に戦場など難易度の高い撮影になると人が変わったように引き締まった表情を見せる。無理をして演じているわけではない、自然体で。「訣別」編の撮影で盟主が主人公に殺されるシーンでは、本当に殺す気だと思わず逃げ出しそうになったこともあった。演技派だと自称するクロードは、そんなベレトの姿を見る度、憑依型の天才だとますます惚れこんでしまう。
     ベレトの膝の上に座り直し、体を揉み解してやろうかとゆったりと手を回せば、今されると色々まずいと珍しく強く拒絶される。下手なことをすれば、あらぬところが気合を入れてしまう可能性があった。
     そんなことを駄弁っていると、あの快活な朝の声が二人を呼びに来る。番組のキャラクターのぬいぐるみが二人に手渡された。
    セットの裏手に案内され、天気予報が終われば、いよいよ二人の番だ。出番が目の前になって固まっているベレトの手には、頭から鷲掴みにされて表情が歪んでいるぬいぐるみ。張り付いている笑顔がしわに歪んで、見るに堪えないことになっている。このままだと、この無残な姿のまま出勤通学前の食卓に流されることになる。もう既に痕になっていないかが心配だ。「ベレト」
    「人形、もうちょっと大事そうに持ってやれよ」
    「大事そうに……」
    「そうそう。例えば、俺を抱いているつもりで、な?」
     脱力を促すようにゆっくり手の骨筋を沿って、人形を持たせ直してやるクロード。ベレトは噛みしめるように「これが、クロード」と呟いて、優しく丁寧に両手でしっかりと抱きしめた。少々やり過ぎな気がしないでもない。が、明らかに表情も肩の力も緩んでいる所を見ると、効果があったらしい。
     ひとまず今日のインタビューは大丈夫だろう、と息をついたその時、調子が戻ってきたベレトは人目もはばからず耳元に口を寄せ「帰ったら本物も抱かせてくれ」とささやき込む。
    (これは、俺の方が大丈夫じゃないかもなぁ……)
     演技派を自負するクロードは、顔色を操るのもお手の物だと思っていたが、今回ばかりはなかなか顔の赤みが引かなかった。

     その日一日、SNSのトレンドは「ベレト」「人形」「持ち方可愛い」埋まっていたとか、いないとか。


    ――※――

     「他の出演者を引き立てる天才」と関係者はみんな口をそろえて言う。「何よりも彼自身が天才」と共演者は口をそろえて言う。俳優の学校に通うわけでも、名家の生まれでもないただの青年だったベレトは二十歳、全く無名の新人たちを集めた映画「天刻」で凶星のように強烈なデビューを迎えた。
     共演者ではあるが、まだ親密な役柄を当てられていないクロードはその演技を遠目に見ながら、そんな彼の経歴を回想する。実際に戦闘のあった「水の都」の近郊で行われている今のシーンは、謀略に長けた同盟領盟主クロード=フォン=リーガンを打ち果たすための軍議が成される場面。天幕の中で元教え子たちに、厳しく丁寧に指示や計画を伝える遊撃隊の長は、今からまさに人を殺しに行くという据わった目をしていた。
     これからその眼光に射殺されるのは、自分。もとい盟主クロード=フォン=リーガンだ。
     後に予定されている「革命」編では親密な仲になる予定だが、この「訣別」編では覇道の厄介な障害にしかならない男。策謀を持って女帝の、ひいては大帝国の足元を狙う卓上の鬼神。それが今のクロードであり、彼自身もしっかりその人間の姿を掴み取っている。
    「クロード君。そろそろ行かないと準備間に合わないわよ」
     目立つ桃色の頭が視界の端に入る。同じ戦場に立ち、ここで同じく散る予定のヒルダが「大丈夫そう?」と声をかけた。天幕には一兵卒も残ることなく、本戦場である貸し切りのデアドラで進軍準備を行っていた。
    「ああ、悪い。ちょっと考えごとだよ」
    「しっかりしてよねー。今回は特に、ちょっとでも失敗したら全部撮り直しなんだから」
    「分かってる分かってる。しかし監督も無茶いうよな。短期決戦の激しい市街戦をワンカットなんてさ」
    「でもちゃんと撮れたら面白いわよね、きっと」
     だから気合い入れないとね、と背中を思いきり叩かれる。
    背骨が折れるかと思うほどに強い一撃は、実物とほぼ変わらない重厚な斧を扱って培ったものだという。が、その実共に過ごした学生時代からの実力。ただそれを指摘するともう一撃飛んでくるのは確かで、遠くに光る海へ、これから自分が殺される港へ息を吐きだした。

    ―※―

     猛攻。業火という言葉のよく似合う速攻によって、町は瞬く間に帝国の赤へ染まっていく。鬼神に思考の時間を作らせない急速な進軍は史実に基づいて練られている。これに対して史実では、最後まで人民の命を最優先としながら、好機を逃さず援軍を呼ぶ起点を見せたというのだから、鬼神という名は伊達じゃない。実際に戦場に立ってクロードは思い知った。
     混雑した市街を抜けた第一線の兵、ベレト=アイスナーとヒルダの交戦が始まった、援軍に狙い通り敵軍の横腹を打たせ、中腹の陣を瓦解させた頃には、前線が赤に染まっている。
     もう間もなく、ベレトが来る。いよいよ大詰めだと、白馬の鬣を撫でる。史実では白竜であったとされているが、一五〇〇年代のフォドラで竜などが存在したとは考えにくく、また現代にも一匹とて残ってはいない。史実に忠実な解釈を徹底的に求めるこの作品も、こればかりは再現できない。
     いままでの猛撃が嘘のように、一度前線が止まるのは粋な演出。悪魔のごとくに突き進んできた彼が、奇策に戸惑い崩れる後陣を心配そうに一瞥する。遠目から見てもその視線から零れる切なさや苦しみがありありと伝わり、丁寧に褒めれば空言のように取られるほどの才能が見て取れた。
     再び確実な歩みで前線が動き出す。憂色に彩られた視線はたちまちに鋭く尖る。これ以上の死者を出さないよう、確実にここで終わりにするという意思が突き刺さった。

     結果は、完敗。台本上そうあるべきだったが、それ以上にクロード自身が、全く手も足も出ないと感じた。何年も扱い続けたように馴染む剣技、戦場で磨かれたとしか思えない身のこなし。殺陣の演技指導もあったが、何も教わることなく終わったことだろう。
     即興も加えて全力を尽くしたが、既に愛馬も息絶え手足はまとも動かない。強弓は引くことも叶わないだろう。
    「最期に、何か伝えたいことを」

     瞬間、血の気が引いた。この戦場で声を聞くのは初めてだった。視線や仕草の表層的なものからでは伝わらない、臓腑からの声に乗った殺意。この人が、こんなにも恐ろしい存在だということに気がつけなかった。この人は、本気で人を殺し、本気で戦争をしている。ただ与えられた剣が模造品なだけ。「演技」をしている気は微塵もない。成程これは、外から見たら人を引き立てる天才にも見えるだろう。演者からすれば、彼の舞台に引きずり込まれているだけに過ぎない。
     セリフ通りの命乞いを読み上げる。それで終わりにするつもりが、意図せず言葉が滑りぬけていく。今生で一番頭を働かせ、作中当時の歴史から使えるものをひねり出していく。正直、それが鬼神らしく智謀に満ちたものであるかは、既にどうでも良かった。ただ一分一秒でも、今喉元に当てられる鈍らに喉を掻き切られないように。

    「カット!」

     予定していた分を撮りきる前に、監督の声が水平線に響く。アドリブのセリフが、長すぎたらしい。

    「撮り直し」

     この一言にここまで感謝するのは、今生これ切りだと確信した。

     
    ――※――

     この後、熱が冷めやらぬうちに楽屋でキスして一回抱かれてホテル行った……
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯☺☺☺☺💯💯💯💯💯💯😭😭😭💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works