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    milouC1006

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    milouC1006

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    元旦朝チュンレクです。今年もいっぱいいちゃついてくれ……今年の元旦は全然普通に土曜日なんですけどゆるしてください……

    千年の計は早朝にあり 朝、冷え切った鼻の先まで布団を引き上げる。千年もの長い時間をかけて様々な土地を巡ったが、さして北でもないのに冷えるのはこの国特有の風土だろう。眠気の晴れ切っていない頭でぼんやり考えたクロードは、伸びの代わりに一度体を小さくして、後ろに眠っているはずのベレトを探った。

    「ん……くろーど、の、て」
    「ふふ、俺の手だぜ。 おはよう、ベレト」

     体を捩って目を合わせる動きさえ許さない様に、寝起きに似合わない力で抱きしめられる。そのまま脚を絡め首筋に口付けられ、触れた部分から溶け落ちそうなほど甘い女神の寵愛を一身に受ける。

    「おはよう、くろーど……すきだ」
    「俺も、あんたのその気の抜けた声、いつもの澄んだのと違ってすきだぜ」
    「こえだけ?」
    「まさか。ぜんぶすきだ」

     うれしい、とベレトの腕が緩んだ隙を見逃さず、クロードは細い腰を捩り、口を奪う。もぞもぞと体を寄せ、向き合って、二度寝でもしようかとまどろみ始めたその時、不意にベレトが軽くクロードの額に口付け、体を起こした。昨夜の熱が逃げ、流れ込んだ冷気に肌が泡立つ。

    「今は、何時……」

     そう呟いた途端、半ば転がり落ちるように寝台を降りた彼は、何やら焦って身支度を始めた。投げ捨てられた対のズボンから掴み上げたのはクロードのものだったが、意にも介さず肌を隠し、またせわしなく大量の段ボール箱と紐を持って来た。

    「ん、んん? べれと、何をそんな急いで」
    「今日は木曜日だったと思う。紙のゴミの日だ」
    「ごみ、ゴミ出し……?」

     体温の少なくなったぬるい布団を抱き上げながら。少し遠くに投げ出されたスマホを引き寄せる。画面を覗くと大きく朝八時の文字、その下の小さな日付は、確かに木曜日を示していた。「なぁベレト」

    「今日、一月一日。元旦だぜ」
    「がんたん……」
    「寝ぼけて見逃したのか? 年始だから回収には来ないだろう」

     少しだけ口を開けてぽやりと固まったベレトは、はっと目を見開いてしょぼしょぼと段ボールを玄関先に戻し始める。やはり、連日のセールで溜まった通販の段ボールを彼が放っておくには限界があった。
     彼が五年間の短期休眠から目覚めたのは、つい数日前。ここでのルールや事情をもう一度覚え直していた最中だった事と、短期休眠の寝不足が祟って勘違いしてしまったのだろう。懸命に意識していた彼らしく可愛らしい間違えだと、思わず頬が緩む。そのしょぼくれ顔も随分久しぶりだ。

    「昨晩、姫納めなんて訳の分からない事を言って、日が傾いてすぐがっついていたのに忘れちまうなんてなぁ」
    「……すまない、騒がしくした」
    「まぁいいさ。昨晩のあれに、短期休眠ってのは他のより眠り足りないもんなんだろう? 寝ぼけるほど熟睡するのも無理は無いよ」

     紐も所定の位置にしっかりと片つけたベレトが、しょぼしょぼともう一度寝台に向かってくる。相当落ち込んでいると見た。心地よい朝を自分の勘違いでだめにしてしまったから、罪悪感でも湧いているのかも知れない。「ベレト」

    「俺はあんたの家庭的なところ、大好きだぜ」

     ほら、と冷気を覚悟して毛布を開き上げる。瞬間、吸い込まれるように飛び込んで来たベレトの腕が、外気よりはるかに冷え切っていて思わず妙な声が飛び出した。

    「っめ、冷たっ! あんな少ししか出てないのに、随分冷えちまったな」
    「す、すまない。多分服が冷たいから……」

     妙な言い訳で身に着けたばかりの服を全て脱ぎ捨て、下着一枚になってしまう。休眠のあとは不思議と肌艶が良い。体温を分け与えるように肌を摺り寄せると、絹のような白肌さえもクロードを逃すまいとぴったり吸い付いてくる。
    千年近く経った今も彼の心臓は沈黙を貫いていて、クロード比べるといくつか体温が低い。蕩けた声で「クロードは暖かくていいな」と思った事を全て口にしてしまう彼くらいには饒舌になって欲しいものだ。「なぁきょうだい」

    「せっかくの元旦だ。なにかしたい事とか、無いか? ほら初詣とか、初日の出とか。あ、まぁ夜は明けちまってるが……」
    「したいこと、か」

     先ほどまでの蕩けかけた甘い声ではない、低く男らしい声色で唸るベレトは、恐らく特に深い事は考えていない。ただこうしていられたらそれでいいと、口よりも行動が雄弁に物語っていた。

    「初詣は……この家が神社みたいなものだからな。それに、どれだけ美しい初日の出よりも君の寝起き姿の方がずっと綺麗だから満足だ」
    「あ、それ俺が言おうと思ったんだが、取られちまったな」
    「以心伝心だな」

     繋がっている心をより深く交し合うように、血に飽き足らず細胞のひとつひとつまでも混ざるように口付け合う。どこよりも暖かいままの舌がようやく離れると、クロードは一言、願掛けかと呟いた。「願うことが?」

    「ああ、まあ一応な。あと百年先も千年先もあんたの隣を歩めるように。出来れば長期休眠にもあまり入らずに済むように、ってさ」
    「……任せてくれ。全力でかなえよう」

     嬉しそうに蕩けた表情を堪能する暇もなく、頭ごとしっかり抱き寄せられる。久しぶりに寝顔以外の表情が見れるようになったから、一時たりとも見逃したくないのだが。まだ整髪剤に固められていない柔らかい髪を味わうように撫でられるのは心地が良いから、これはこれで満足。この千年間、毎朝のように体を摺り寄せているが、お互い飽きた試しがない。
     一番信頼できる神に聞き届けてもらった矢先、ふとベレトの絡み方が変わって来る。心地よく撫でてくれていた手は背筋を沿うように腰へ這い、穏やかに刻まれていた呼吸は妙な熱を持ち……一口に言えば、ムラついていた。「べレト」

    「いや、その……すまない。実はずっと起ってた」
    「だろうなぁ。これのままゴミ捨てに行こうとしてたんだ。俺が止めなきゃどうなってたことか……」

     一手先にその盛り上がりに手を添えてやると、それを返事と取ったベレトは深く口を離さないまま覆いかぶさるように姿勢を変える。さらりと垂れこめた細く半透明にも見える髪は、休眠中に少し伸びたらしい。
     「楽にしてくれ」と一言、散々高められた欲へとどめをさすように、低く囁き込まれる。この返事のいらない誘いが出るようになったのは、長い月日のおかげか。
     その月日とは裏腹に、結局この年の処女は八時間で散って最短記録になった。
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