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    milouC1006

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    milouC1006

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    死体が出ますよ~~ ほんのりレク風味でほとんどクロード君単体。どこまで行っても戦火からは逃げられないねって話です

     戦地から離れた、小さな谷。そこには小川が流れていて、神聖なガルグ=マクの山脈から注ぐ水は、この近隣の村では小さな名所になっていた。
     平原のように戦いやすくも無く、主要な軍の砦もないそのあたりは滅多に戦地にならない。噂を聞きつけたクロードは、飛竜も護衛も連れず、重い金の装束も捨て、軽装でそこに足を運んだ。
     戦とは無縁の静かな谷。切り立つ岩肌には少しだけ苔が張り付いて、川の周りには若い草と、矢の羽くらいの花が少し生えている。岩肌の陰になるところには蔦の長い隠棲の植物が、べったりとはびこっていた。小川も、特別綺麗なものではない。聖地の恩恵は、恐らくこの心地いい音にだけ宿っているだろう。
     学生時代、こっそり遊びに行っていたような森は、大方焼けたか素材にされたか、賊や兵の休憩所となっている。久しぶりにこうして生きた自然の中に身を置ける。戦火の苦しい空気と違って澄んだ息をいっぱいに吸い込めば、戦争も仕事もみんな忘れて、ただ一つの生き物であれるような気がした。
     一つ、川と山肌の間に岩を見つけた。ただ突っ立っているのも悪くはないが、そこにひとまず腰を下ろして背中を預ける。クロードの上半身ほどもありそうなその岩は、陽射しに温められていて心地よかった。
     先生も連れてきたらよかった。あのひとだって慣れない仕事に追われて息が詰まっているだろう。教団の方の仕事が忙しそうだから声を掛けなかったが、無理にでも連れ出した方が良かった。仕事だって、こういう息の通る所でした方がずっと捗るはずだ。
     そんなことを考えながら小川に耳を澄ませていると、ふと岩の反対側に人がいる事に気づく。少し異臭がした。概ねこの戦時下でいつも清潔にする余裕が無いのだろう。斜め後ろに視線をやれば、くせ毛の跳ねるような黒髪が見えた。「先客がいたのか」


    「悪いな、静かな所」

     返事は帰ってこなかった。眠っているのかも知れない、ともう一度黙ろうとした。しかしその時、ふと風が一筋通りがかって、岩の反対側から物音がした。荷物を降ろすような、少し重たい音。起きてはいたが返事をしたくなかったのかも知れない。

    「……そっち、日陰になってるだろう。変わろうか」

     返事がないまま尋ねてみる。黙ることができなかったのは、あまりに静かで少し寂しかったせいかもしれない。集中でもしていない限り、人がいると話しかけたくなる性格だ。
     どこもかしこも大戦で騒がしくて嫌になるよな。あんたの故郷は大丈夫か。生きるために盗みを働かなきゃならん程になったら、いい働き口を紹介するよ。姿が見えない以上、声や話し口で盟主だと思われることは無いだろうと声をかけ続けるが、やはり返事は一つも返ってこなかった。
     流石に馬鹿らしくなって、黙り込んでいると、嫌な雲がかかり始める。先ほどの日差しの暖かさがすっかり陰って、心なしか雨の降る匂いもしてきた。

    「一雨来るな。あんたももう帰った方がいいぜ」

     軽く振り返ると、先ほどまで見えていたくせ毛が無くなっていた。何も言わずに、音もたてずに帰ったのか。その薄情さと静けさならアサシンの才覚がある。不愛想な人どころか、虚空に話しかけていたと少し自嘲的な気分になったクロードは、雨に降られる前に帰ろうと、ついでにこの自然の匂いで先生を癒してやろうと大きく伸びをして立ち上がった。

     そしてそのまま、息が詰まった。先ほどまで見えてたはずのくせ毛が、岩の陰から飛び出して地面に寝そべっている。体の無い、くせ毛の頭だけが。
     恐る恐る岩の後ろを覗き込めば、死体が一人、体を預けていた。強盗に遭ったのだと簡単にわかる身なりで、深く眠っているように力なく背中を預けていた。そもそも、力を入れるだけの筋肉はもう欠け始めていた。荷物袋の代わりに手元に落ちた顔。頬のあたりは腐乱して、微笑か苦悶かも読み取れない。ただ、その栄養を逃すまいとするように、日陰の蔦が彼の体を覆い始めていた。死後、一週間近くは経つだろう。その腐臭もただの異臭だと思ってしまうほど、死臭に慣れてしまっていた。
     呆然とそれを見つめていると、死に慣れてしまったクロードの代わりに空が泣き始めた。弔ってやる暇もなく雨脚が激しくなる。逃げるように駐屯地へと戻ったが、逃げ切れずに帰るころにはずぶ濡れになっていた。
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