レオナ・キングスカラーの性格を表す時に、真面目だと言う人はいないだろう。少なくともこの王宮にはいないし、妻である私も断言する。彼は、絶対に今日の仕事をサボっている。
勢いよく執務室の扉を開けると、立派な机も椅子も、予想通り無人の状態だった。あまりにも使われなくてもったいないから、もっと安物に替えるべきだと思う。私は急いで視線を走らせた。
「あ、やっぱり寝てる!」
「ああ? んだよ、せっかくいい夢見てたってのに……」
巨大なベッドの中から、愛すべき我らが王弟殿下の声が、不機嫌そうに聞こえた。
執務室にベッドだなんて、私は反対したのだ。だって、こうなることは目に見えているから。なのに彼は、適切な仮眠は仕事の効率をウンタラカンタラとか言ってゴリ押しした。確かに午後の空気は暑すぎもせず、寒すぎもせず、昼寝にはぴったりだろう。この執務室付近では騒ぐ者もいないので(無論、彼の甥は例外だが)ここは静かだ。草の香りのする風が窓から入り、頬を撫でて通り過ぎる。
ユラユラと揺れる尻尾は、目覚めたアピールのつもりらしい。私はため息をついた。そんなことより、早く机に向かって欲しい。
「いい夢見てる場合じゃないです。処理しないといけない書類がたくさんあるじゃないですか」
「んなの後で間に合うだろ」
「だめです。今日は陛下との打ち合わせもあるんですよ」
「それこそ書類で寄越せとでも言っとけ」
予想通りだけど、彼は全くやる気を見せようとしない。呆れるか、怒るか、どうにかおだててその気にさせるか。一通り考えたけど、何だか面倒くさい。私はやけくそになって、演技がかった声を出した。
「……そんなこと言っていいんですか?」
「あぁ?」
やっとこっちを向いた彼に、私は全力のキメ顔を作って言う。
「その書類、一枚片付けるごとに一枚脱ぎます」
そうしたら夫は、今までの怠惰が嘘みたいに立ち上がり、スマートかつ機敏な動きで椅子に座った。ちゃんと内容を読んでいるか怪しいほどの速さで(でも多分、読んでいるのだ。彼のことだから)力強く押印すると、口の端を上げて言う。
「ほらな、やっぱり執務室にベッドは必要だったろ?」
「いいえ」
思わず笑ってしまいそうになったけど、私は仕事用の顔を取り繕う。だって、何をするにしても――。
「机があれば充分ですけど?」
彼は私の返答がお気に召したようで、ははっと笑った。
不真面目なのは、私も同じだ。また陛下に似た者夫婦だと言われてしまうかもしれない。だけど、今日は気持ちのいい風が吹いているのだ。
突っ立ったままニヤける私に、彼は片眉を上げて見せる。
「焦らすなよ、妃殿下。まだ何枚もあるんだぜ?」
その日の打ち合わせは、王弟殿下の業務上のやむを得ない都合により、延期されたのだった。