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    #炎ホENDLESSHOPE
    イベントお疲れ様でした。
    初めての炎ホ作品&オンリー参加でしたが、お手にとってくだってありがとうございました!
    無配で頒布していた炎ホ小説です。

    #炎ホ
    flameHoop

    エンデヴァーとホークスとホラー映画とどうか助けてください
    ーーなんて、ヒーローらしかぬ事を叫びたくなる23時。


    暗闇の部屋に充満するポップコーンの香り。


    唯一灯る液晶テレビには鬱々とした音楽と恐怖に苛まれた男女の映像が流れている。


    ソファには俺とエンデヴァーさん。


    ファンなら泣いて喜ぶ光景である。


    何たって『推しと過ごす夢の映画鑑賞会』が目の前で行われているのだから。


    しかし俺は今ーーめちゃくちゃこの場から逃げ出したいと思っている。







    仕事帰りエンデヴァーさんが珍しく自宅で映画を観ないかと誘ってきた。


    福岡でのチームアップ。このまま俺のセーフハウスに泊まって明日静岡に帰るという手筈だった。


    「映画っスか。良いですけど」


    なぜ俺に?そう思わなくは無い。


    でもそれ以上に関心は映画の内容よりも映画を観るこの人に移る。


    映画を観るエンデヴァー?絶対見たいに決まとる。


    こん人感動系の映画で涙流したりするん?


    サスペンス系観て内心ハラハラしたりするん?


    「意外ですね〜エンデヴァーさん普段から映画
    を?」


    「いや…焦凍が…」


    「焦凍くん?」


    そう言われて合点が行く。


    常闇くんが先日A組の子達と寮で映画を観たと教えてくれたのを思い出したのだ。焦凍くんは好んで映画を観るタイプに思えないし、どこからかその噂を聞きつけて自分も観てみようと思ったのかもしれない。(焦凍くんからエンデヴァーさんに報告する姿が想像できないという悲しい現実)


    そんな失礼なことを考えていると、案の定エンデヴァーさんの口から想像していた通りのことを聞かされる。


    どうやら今回も冬美さん経由みたいだ。


    俺としては理由は何であれ一緒に過ごす時間が増えれば万々歳なので一つ返事で承諾した。


    意気揚々とスマホを取り出し、入っているサブスクリプションを確認する。


    「何て映画ですか?オレ幾つか加入してるサブスクあるんでこん中に入ってたらすぐ観れるんですけど…」


    「ああ…」


    エンデヴァーさんはボソボソと映画のタイトルを口にした。


    俺はそのタイトルを小さく繰り返し指を滑らせる。類似作品が連なる中、上から三番目くらいにエンデヴァーさんの口にした映画らしきタイトルを発見する。


    「あ、これか…」


    指のタップと共に広がった画像。


    俺の目は一瞬大きく見開き、翼が僅かに強張って羽ばたいた。


    「あったのか?」


    エンデヴァーさんは首を傾げる。


    その反応に慌てて口元に笑みを浮かべると、「ありましたよ。良かったですね」と目を細めた。







    どうしよう…どうしよう…


    俺の頭の中はこの五文字で一杯である。


    潜入捜査ですら、久しくこんな感情に陥ったことがない。


    二人きりで過ごす緊張もあるけれど、それをも上回るのは映画に対する恐怖だ。


    こんなことを言うとファンから解釈違いだと言われてしまいそうだけれど、俺はホラー映画が大の苦手で観た日には風呂に入るのは億劫になるし、夜は電気無しでは眠れなくなる。


    神経が過敏になって、時折後ろに視線を感じては振り返ったり、些細な音で肩を揺らしたり。


    さぁ寝るかと、瞼を閉じると白目を剥いた血だらけの女の顔が浮き出てきて、足首あたりを掴まれる妙な感覚が走り身じろいでしまう。


    えー!?あのホークスが!?


    そう思ったでしょう?


    残念ながら本当なんだな、これが。


    どう考えても現実的じゃないし、もし今まで死んだ人が皆んなお化けになって世の中を徘徊するなんて事がまかり通るなら生きてる人間よりも死んだ人間の方が膨大だ。


    そんなのをいちいち泳がせておいたら、地球を覆い尽くし鮨詰め状態になっているに違いない。


    そこまで考えてやっぱあり得ないと思いつつも怖い。こういうのは理屈じゃない。


    とにかく何となく気味が悪くて、何となく背後に立っているような気がして。何となく頭の中をひたすらに駆け巡るのだ。


    全ての元凶は幼い頃、父に観せられた一作の映画。


    「おい、これ観てみぃ」


    珍しくテレビに向かって親指を突き立てる父に俺は羽根を僅かに散らした。


    普段テレビ周りは母が常に独占していて、俺は部屋の隅でヒーロー達の活躍を盗み見ることしか出来なかったから、父にもっと前で観ろと促された時、こんなに近くで観られるなんて…と感動した。


    大人しく画面の前に座る。


    まだ幼い俺はこの作品がどう言ったモノなのかも知らない。


    ひたすらに女性が悲鳴をあげながら逃げ惑っていてカメラは後ろからそれを追いかけている。
    これからどんなヒーローが助けに来るんだろう! 


    身体は自然と前のめりになる。


    暗闇の中から幾つかの光が灯り、いよいよかと画面を凝視した。


    しかし瞬間、激しい低音と共に白眼を剥き、口を大きくあけたまま項垂れる老婆の悍ましい顔が画面一面に広がった。


    俺は思わずエンデヴァー人形を落とした。


    心臓の奥が飛び出そうなほど痛く、身体中の体温が抜き取られたように冷たく感じる。


    驚き過ぎて何が起きたのか分からなかった。


    背後には父親の馬鹿笑いが聴こえてきて、固まる俺の背中を思い切り蹴った。


    それに抵抗することなく、人形だけはとられまいと咄嗟に強く抱きしめたのを覚えている。


    悲しいとか痛いとかそんな感情は最早ない。


    頭の中は化け物のことでいっぱいだ。


    初めて観る映画、フィクションかもノンフィクションかも判別のつかない画面上の光景はあまりにショッキング過ぎた。


    一瞬の出来事の筈なのに呪いにでもかかったかの様に意識の大半を老婆の悍ましい顔と不気味な笑い声が侵食してくる。


    この日初めて俺はホラー映画特有の洗礼を受けたのである。







    まぁ、映画なんて自分から観なけりゃ良い話で幸い一緒に観ようだなんて言ってくる友人も同僚もいなかった。


    愚直に時には狡猾に社会活動をおくるなか18歳で事務所を立ち上げ今年で22歳。今まで困った事は一度もない。


    ホラー映画が苦手なだけで業務に支障は無く、夜勤も平然とこなせている。


    そう、何一つ困ることなんて無い。


    そんな筈だったーーーーこの特大イベントが発生するまでは。


    まさか思わんやん。


    憧れていた『あの』エンデヴァーに映画誘ってもらえるとか。


    しかも俺のプライベートゾーンで二人仲良く隣でって…。


    「準備出来たぞ」


    顔をあげるとポップコーン山盛りな皿と二人分の飲み物を鷲掴んだエンデヴァーさんがソファへとやってくる。


    俺はというと、ホラー映画への恐怖に苛まれつつプロジェクタースクリーンに自分のサブスクを繋げると言う自殺行為を行っていた。絶対スマホ画面でも怖いのに何で俺自分で怖さのボルテージ上げとん?しかも無駄に音響の良いアンプまで付けちゃってるから映画館さながらなんですけど。


    「エンデヴァーさん、ポップコーン似合わないッすね」 


    冗談でも言ってないとやってらんない。


    こん人に誘われたら断れない。格好悪いところなんて見せたくないし失望させたくない。だって好きだから。


    鈍そうだから気付いてないんだろうけど、俺はこの人に穢れた感情を抱いている。


    憧れの枠を越えた行き過ぎた感情。


    恋心というのには烏滸がましい、執着と言った方が正しいか。


    成就するだなんて微塵も思ってないけれど、罪悪感はある。背中を押すだなんて言って、ご家族とのことを応援しているフリをして、その実頭の片隅で何かの拍子に自分のものになってもらえないだろうかと考えている。


    そんな自分が嫌だ。


    「出来ましたよ、エンデヴァーさん」


    準備は整った。


    有能な自分が恨めしい。画面設定やサブスクの接続に手こずることなく楽々とスクリーンは映画の開幕を告げる。


    恐怖の中に罪悪感が溶ける。







    深夜0時映画は終わった。


    流れるエンドロールを無心で眺める。魂が可視化出来るというならば、この2時間で抜け落ちた俺の魂は数知れない。結論から言うと多分今日は眠れない。タイトルと画像を見た時から薄々と気付いていたけれど、エンデヴァーさんが観たいと言った映画は正に俺にトラウマを植え付けた『例』の映画だったのだ。


    幼い頃の記憶も相まって話の内容は若干思っていたものと違っていたけれど廃墟を嗚咽混じりに走る女と枯れ木の様な細い腕で襲い来る老婆の形相が散り散りになっていた記憶のテープを綺麗になぞった。


    「ホークス」


    「ひゃ、!?」


    いけん、ビビり過ぎて変な声出た。


    映画観とる時はめちゃくちゃ気をつけとったのに。


    怖かったんバレたやろか…そんな不安を抱えつつエンデヴァーさんを見ると、彼はいつもの平然とした顔で「風呂だがどうする?」と言った。


    「風呂…?」


    「ああ。明日も早い、さっさと入って寝た方が良いだろう」 


    「そっスね〜〜」


    すっかり忘れとった、風呂問題。


    絶対に映画を観たら風呂に入れなくなるのが目に見えているから、先手を打って先に入ろうとしたのに、この人がいそいそと台所に立つもんだから俺は何も言えずに風呂を後回しにしたのだ。


    ポップコーン片手に無表情でフライパン持つエンデヴァーなんてレア過ぎるやろ。あの時止めなかった俺自身を叱責したい気持ちと、いやでもあれは止められんやろと言う確信が同時に押し寄せて来る。


    「エ、エンデヴァーさん…先入って良いですよ」
    流石に一番風呂はNo.1に譲らんと、それにこん人が入った後の風呂とか悪霊も綺麗に浄化してくれそうやし。幽霊何ておらんなんてこと分かっとるけども。


    「いや、お前が先に入れ」


    「え…」


    「家主が先に入るのは当然だろう」


    「いやいや」


    絶対無理、怖過ぎて無理。


    この人がリビングに居るって分かってても無理。幽霊はそういうのとちゃうやん。


    流石のエンデヴァーでも可視化出来ひん相手に俺が拐かされて気付けるか怪しい。


    幽霊なんておらんけども…おらんけども一応ね?


    「なに気ぃ遣ってるんですか〜気にせず入って下さいよ」


    エンデヴァーさんらしくないとか適当に理由をつけて背中を押す。


    重厚な身体は俺の力では微動だにせず、数秒沈黙をおいて口を開いた。


    「それなら…一緒に入るか」


    思わず息を飲んだ。


    エンデヴァーさんと風呂?


    固まる俺にエンデヴァーさんは口をへの字に曲げて肩を小さく落とした。


    「…嫌か?」


    「いや、じゃないですけど…」


    男同士で風呂に入るなんて別に変なことでも何でもない。俺が一方的に好きなだけで、この人からしたらただの同僚で娘と同年代の子供だ。
    目の前で服を脱ごうとなんて事ない。


    異常なのは俺だ。憧れを履き違えた俺がーー。


    「早くしろ、冷えるぞ」


    放心していると、気がついた時には脱衣所にいた。途方に暮れる俺を差し置いて、エンデヴァーさんは風呂に入るための身支度を整えている。


    ちょっと待って。緊張し過ぎてトイレ行きたくなってきた。


    曝け出された裸体は自分とは全く違う。一回りも二回りも太く大きく力強い肉体。努力と才能の結晶がそこにある。


    (カッコ良過ぎる…憧れるな言う方が無理やろ…)


    流されるまま自身の服の裾に手をかける。


    鍛えてはいるものの体質のせいか薄い腹が空気に触れた。


    自分だけがこんなに意識している。


    不毛な恋にうつつを抜かしている場合でもないのに。


    「細いな、ちゃんと食ってるのか」


    「ひ、っ…ぐッ…!?」


    エンデヴァーさんの大きな手が俺の腰を鷲掴んだ。


    信じられない光景に身体全身に力が入る。


    「そ…そりやぁ貴方に比べたら殆どの人間がモヤシでしょう?」


    平常心、平常心と何度も頭の中で唱える。


    好きな人に素肌を触れられて平然としていろと言う方が難しいけれど。


    「あ…ッ…っ…ちょっとッ…」


    やばい心臓が壊れそうだ。意識が全て手のひらにいってしまう、あんなに映画のことで頭がいっぱいだったのに。


    「んぅ…くっ…」


    緩く撫でられ腰が仰反る。鏡に映る姿が情事を彷彿させた。


    そんな突飛もない妄想に走るだなんて、思春期の学生みたいで嫌になる。


    あんまり見ないで欲しい。視線の熱に焼かれる。腰に力が入らなくなる。


    「そろそろ離し…ッ」


    やばい、やばい、やばい。あんま触られると…勃っーーーー。


    「青くなったり赤くなったり忙しい奴だな」


    エンデヴァーさんは俺の腰から両手を話すと口元に手を当て笑った。


    普段表情を変えないこの人の笑みにジワジワと頬の熱が増す。

    っていうか青くって…まさかーー。


    「俺がこわい映画苦手なん気付いとったと…?」


    完璧に隠し通せたと思っていたのにーーそんな顔で見ているのがバレているかの様にエンデヴァーさんはドヤ顔で言った。


    「気付かれんように気を張っていたようだが翼が時折震えとったし、座布団で顔を覆ったりしてただろう」 


    「座布団やなくてクッションです…」


    うわ〜〜最悪や。完全無意識やった。


    こんなん未熟以外の何者でもない。


    凹み切って脱力する俺にエンデヴァーさんは言葉を続ける。


    得意げに話す姿を可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みか。


    「見てる分には新鮮だったがな。いつもヘラヘラしてるお前が百面相する様はある種、鑑賞していた映画よりも面白かった」


    「あ、あなたも人が悪い…」


    あーあ、バレちゃった。


    情けない所を見られてしまった。ここまで来たら白状するしかない。


    「別に俺だって本気でいるなんて思ってないですよ?未練があるから化けて出てくるなんて、この世の中なんの未練もなく死ねる人の方が少ないだろうし。なにより生きてる人間の方がよっぽど怖いってことくらい知ってる…それでも苦手で…」


    恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。


    こん人の前でだけは格好悪い姿見せたくなかったのに。彼の綺麗な瞳がどんな色をして俺を見ているのか分からない。知りたくない。


    「幻滅しました?」


    俺の問いにエンデヴァーさんは不機嫌そうに口を歪めて「そんな訳あるか」と言った。


    「人間、苦手なものの一つや二つあって当然だろう。現に仕事に支障が出てる訳でもあるまい」


    「それはそうなんですけど…」


    あぁ、やっぱりこの人が好きだ。


    不器用で優しくてカッコ良くて、月並みな言葉しか並べられないけれど。


    この感情が覆るはない、それだけは確かだ。


    「ホークス?」


    「エンデヴァーさんってホンマずるか…」


    この人が俺をそういう意味で好きになることは一生ないし、俺は絶対にこの手をとらないから。


    今だけは許して欲しい。


    「恥ずかしいついでに言ってもいいですか?」


    「何だ?」


    「俺…いま…めちゃくちゃトイレ行きたくって…」
    「行けばいいだろう?」


    「だから…その…一緒について来てれません?」


    「何で俺が!」


    「だって怖いんですもん」


    「軟弱者…」


    「さっき苦手なものの一つや二つあって良いって言ったじゃないですか〜助けてくださいよ、ヒーロー」


    「くだらん」


    「待って…!!先いかんで…!!」


    逃げようとするこの人の腕を掴んで離すまいと抱きしめる。さっきまでドキドキしていたのが嘘の様だ。


    「本当に…漏れちゃう…ッ…」


    顔を覗かせるとエンデヴァーさんは、怖い顔のまま固まっていた。


    あれ?やっぱやらかした?


    そんな一抹の不安にかられ、つい口が動いた。


    「エ、エンデヴァーさん…?流石に怒りました?」


    「お前って奴は…」


    「ちょっ…」


    大きな手が俺の頭を乱雑に撫でる。


    「人間が一番怖い…同感だな」


    「え、どう言う意味ですかソレ?どういう顔なんですソレ?」


    エンデヴァーさんは問いかけに返答する事なく俺の手を掴んで脱衣所を出る。


    顔は仏頂面なのに律儀に「手洗い場はどこだ」と聞いてくるもんだから、その光景があまりに可愛くて思わず吹き出した。
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