好きという感情に理由付けがいるだろうか。
触れて、見つめて、それから。
それから。
「っはは! 楽しいな! そうだろ頭目さん‼」
暗闇を切り裂く火花に笑う。
高らかに、心から愉快に笑う。
楽しい。楽しい。
この斬り合いが、逢瀬が、楽しくてたまらないのだ。
最初はただの討伐だった。
黒雲会のシマに現れた目障りな組織を潰そうってんで、結構本気で綺麗に片づけてしまおうと思っていたんだ。
噂通り腕の立つ連中なら尚更うちの脅威に、引いては“上“の不都合に繋がってしまう。そうなれば結局うちが責任を取らされるのは目に見えている。
建前は義務だから。
本音は、どのくらい腕が立つのか知りたくて。
前線一踏。
散々切り込んみ、切り捨てた先で、ついに出会った。
出逢ってしまった。
ひと目であいつだと分かった。
最初からあいつ以外目に入らなかった。
アレが件の頭目。
一番の手練れ。
始めて切り結んだ瞬間に響いた爆発的な激情を、全身がとろける甘美な歓喜を、俺は生涯忘れることは無いだろう。
「はは! はははっ!」
愉しくてたのしくて楽しくてしかたない。
全てをそれにつぎ込んで命を賭け続けるのが、もう、たまらない。
そんな俺に対して頭目さんも傘の隙間から笑っていた。
獰猛な目つきに蒼い閃光を濃くしながら、鉄仮面でも覆えない悦楽を纏い重く精密な一撃を繰り出す。
不可避の死線にむしろ突っ込み急所を刀で強引に反らす。あちらも分かっていたのだろう、即座に手の内を返して次の一撃……否、連撃を繰り出して来た。
髪数本を犠牲にして正に間一髪で回避する。
肝が冷えるギリギリの戦い。
僅かにずれるだけで全て崩壊する完全完璧な剣戟。
重く激しく、お互いをがりがりと削り合いながら極限の緊張の中で舞い踊る。
狂ったように。
悟ったように。
誰にも手出しさせない舞踊を演じ続ける。
愛を以て見つめ続ける。
恋するように駆け抜ける。
脇腹がえぐられた。だからなんだ。
足を深く刺した。だからなんだ。
そんなことじゃあ終わらない。
そんなことで終わらせはしない。
俺と彼だけの死線を奪わせはしない!
再び彼の胸へ飛び込んでいく。まだ夜は始まったばかり。
愛しい愛しい我が御宿敵のもとへ、さぁさいざいざ、勝負!