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    16@ワンクッション

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    POIPOI 15

    描きたいところだけ簡単に書きだしたやつ。
    漫画にしたいな〜とおもってメモしていたプロットを小説もどきに書き起こしたやつです。描ける気がせんので供養。

    【BL】ぎんづら ぬるく温んだ布団の中に、ひやりとした気配が滑り込んできた。背中越しに感じる柔らかい布の擦れる音。

    「……おい、ヅラ。どさくさに紛れて何してんだ」
    「潜入の基本は偽装だ。今夜は“同衾”と洒落込むことにした」

     小声で返すその声はやけに平然としている。銀時はわずかに眉を寄せたまま、天井を睨むように目を細める。布団は二つ並べて敷いてある。わざわざひとつに潜り込む必要はないはずだ。

     が、すぐに思い至る。――こいつなりの合図だ。

    「……気づいてるな?」
    「気づいてないと思ってんのか?」

     低く呟く。少しだけ身を起こしたその視線は、障子の向こうに意識を張っている。
     微かな風の動きに紛れ込んだ、異物の気配――屋根、軒先、庭、複数の足音。

    「何人いる?」
    「三。外で待機が一、屋根に一、縁側に……もう一。報告役、狙撃、突入といったところか」
    「……で?」
     銀時は目を閉じたまま問う。眠るふりを崩さず、だが背中は微かに緊張していた。
     障子の向こうに滲む、わずかな影。夜気に紛れた複数の足音が、屋根と縁側に展開していた。
     だが、襖一枚を隔てているにもかかわらず、その気配は異様に薄く、それでいて濃い。殺気ではなく、訓練された“待機”の気配だ。
     敵がこちらの様子を窺っているのは明らかだった。

    「……おい、ヅラ」
     隣の布団から、銀時の低い声が響いた。怒気も焦りもない、ただ面倒ごとを察知した時の、それ。
    「刀どこやった やるなら――」
    「お前の左だ。……上に乗るから、左側に俺を押し倒せ」

     桂の返事は端的だった。身を滑り込ませてきた桂が、布団の中で銀時に重なるように身体を移す。
     銀時が、わずかに目を見開く。

    「……お前」
    「まだ動くな」

     囁きながら、桂の手が銀時の頬を撫でた。熱のこもった手ではない。冷静で、明確な意図を持った触れ方だった。

     唇が触れる。

     乾いたキス。深くも、長くもない。だが、“気を抜いているように見せる”には十分なものだった。
     銀時の手が僅かに反射で動いたが、それより先に桂の指がその胸を押さえ、ぐっと体重をかける。

    「……は?」
    「演技だと言ったはずだ。合わせろ」
     こちらから手は出すなってことかよ。
     キスを終えた桂は、顔を銀時の喉元に落としながら、もう片方の手で彼の肩口に触れた。微かに力を込めて爪先を立て、あえて銀時の反応を引き出す。

    「…っ」
     ――不意打ちで動けない、もしくは“何かしている”と見せかけるために。
     障子越しに視線を感じた。刺客はまだ仕掛けてこない。こちらの様子を伺っている。

    「……まるで夜這いだな」
    「黙れ」
    「まずいんじゃないの? 大将がそんな趣味だって言いふらされちまうぞ」
    「よく言われてる。問題ない」
    「は?」

    「銀時」
     名を呼ばれる声が、それまでとまるで違っていた。じゃれ合いはもう終わりだ、とでも言うように、張り詰めた低音が落ちる。
     すぐにわかる。遊びの余白は、もう一切残されていない。
     銀時の目がわずかに鋭さを増した。さっきの“よく言われてる”って何だよ、と言い返しかけたが、もうそんな間も惜しい。

    「はいはい、」

     同時に、銀時は桂の身体を体重ごとぐっと押し返す。強引ではない。だが、抗いようのない力加減で、桂の体は転がされた。
    視線は合わせず、ただ外の気配に集中しながら、必要な“猥雑さ”を演出するために、背中をわずかに反らし、布団越しに動きを与える。
     ――この数秒、敵の目がこちらに釘付けになる。
     狙いはそこだった。
     銀時は何も言わない。ただ眉間に皺を寄せたまま、桂の左手が布団の下で柄に触れたことを感じ取った。
     そして――。
     障子が、滑る。
     気配は沈黙の中に溶け込みながら、素早く上に乗った銀時の背後に迫っていた。
     振り下ろされる切先、

     桂は肘で体を支え起こしただ一点、侵入者を見据え
     その喉元に向けて左腕を振り上げた――
     
    ズンッ

     鈍く重い音と共に、刀の柄が相手の喉笛を突いた。

    「ぐっ……!」
     しかし、寸前で体を引いたのか、刺客は一瞬苦悶の声を漏らしただけで間合いを取って後退し、庭の闇の中へと飛び出していく。

    「逃すか!!」

     桂はそのまま刀を抜き、足音も立てずに追いかけるが、外に出た時にはもう敵の姿は消えていた。

    「……仕留め損ねちまってんの」
    「黙れ」
     桂が睨む。
     一方で銀時は布団の中から欠伸をひとつ。

    「ふぁあ……俺、眠いんだけど。もう寝ていい?」
    「この家はまずい。囮用で、ガラ空きだ」
    「お前なんつーとこに呼んでんだよ。警備スッカスカじゃねーか」
    「お前が勝手についてきたんだろうが……来い」

     桂は腕をつかむと銀時が文句を言う前に、強引に屋敷を出て裏手へと向かう。
     そのまま建物の裏口にある隠し階段を抜け、二人は人気のない石畳の通路を進む。やがて、分厚い鉄扉の向こう、何重もの防壁に守られた地下の空間へと潜り込んでいった。
     ――そこで、ようやく桂は息を吐いた。

    「ここなら、大丈夫だ」

     ひんやりとした地下通路に、足音が二つ、静かに反響する。石造りの壁にはところどころ苔が浮いて、灯りの届かない奥にはまだ冷たい闇が残っていた。
     銀時は口をへの字に曲げたまま、隣を歩く桂に視線を寄越す。

    「ったく……どんな寝床だよ。屋敷って呼ぶには穴蔵じゃねーか」
    「潜伏先というのは、こういうものだ あとまだ潜伏先にはついていない。」
    もうすこし先にー、そう返す言葉を遮った。

    「なぁ、さっきの“ちゅっ”っての……あれは?」

     足音が一瞬、重なるように止まる。
     桂は銀時の横顔を見もせずに答える。

    「……別に、初めてでもなかろう。犬に噛まれたとでも思え」
    「ふーん?」

     銀時はわずかに口角を上げる。軽く笑ったような、皮肉めいたような声。

    「……なにが言いたい」
    「いや? お前のキス顔、案外マジだったなーと思って」

     ぴしり、と桂のこめかみが跳ねた。

    「貴様……!」

     静かな通路に、声だけが鋭く響いた。怒りとも照れともつかぬ桂の一喝に、銀時は「はいはい」と手をひらひらさせながら、先に進んでいった。
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