「福音」私は立ちすくんだまま、祭壇の前に佇む歩夢を見つめていた。彼女の笑顔は純粋で、どこか懐かしさを感じさせる。ほんと、小さい頃から何も変わってない。幼い頃から共に過ごしてきた記憶は、まるで昨日のことのように鮮明で、それらが心を埋め尽くすたびに、胸が締め付けられる。
披露宴が終わり、参加者が帰り支度を始める中、私はやっとの思いで歩夢に近づいた。彼女は振り向き、静かに微笑む。
「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」
歩夢の言葉は、まるで時が止まったかのように私の心に響いた。本当はずっと前から気づいていた。でも、私が知らないふりをし続けたせいで、ついぞ、名前さえつかなかった歩夢の感情。それが今、私の目の前にある。
「うん 知ってた」
声が震える。
きっとこれは、報いだ。歩夢の気持ちに気づいていたくせに、知らないふりをし続けた私への罰。歩夢の気持ちを勝手に"なかった"ことにした、卑怯者に対する報い。
私はどこかで、歩夢はなにがあっても自分を選んでくれる、と思っていた。歩夢はどこにもいかない。ずっと自分だけを見てくれる、そう思いたかった。本当はそんなことないってわかってるのに。心がそれを受け入れようとしない。身勝手な自分自身に嫌気がさす。
歩夢は少しの涙と寂しさが滲んだ表情で、笑う
「ふふ、酷い。でもそんなところも好きだった。」
心が揺れる。彼女の根底にある優しさと強さを誰よりも知っているからこそ、今の歩夢の気持ちが手に取るようにわかる。
ごめん ごめん、なさい
「歩夢、私─────────」
思いがあふれ出しそうだった。しかし、花嫁は静かに私の言葉を遮る。
「侑ちゃん 私、幸せになるね」
その瞳に映るのは、私ではなく、これから共に生きる誰かの姿。私は何も言えず、ただ頷くことしかできなかった。
結婚式場を後にする幼馴染の背中を見送りながら、私は静かに涙を流した。
ずっと一緒にいたかった。でも、私にそんな資格はない。もう何もかもが遅すぎた。
チャペルの鐘は静かに鳴り響き、私達の物語に一つの区切りを告げる。
純白のドレスに身を包んだ私の幼馴染は、世界でいちばん綺麗だった──────