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    薬膳りんごカルピス

    趣味垢/拘り強めの繊細な🎀推し/『ゆうぽむ』に情緒を破壊された人/カプ妄想垂れ流してます/#虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会/ラ!好きな人とつながりたいです/RT多めMT推奨/トプ画は@rurumesia0314さんに描いて頂きました

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    桜坂と栞子さんが観劇デートする話

    #虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
    #桜坂しずく
    #三船栞子
    mifunePeel

    『水色と翡翠色』午後の日差しが柔らかく降り注ぐ中、いつものように私は少し早めに待ち合わせ場所に着いた。休日にしずくさんとふたりきりで遊ぶ約束をしたことは勿論、一緒に観劇をするのも今日が初めてだ。彼女が誘ってくれたことを嬉しく思う反面、何かが少しだけ胸に引っかかる感覚があった。だが、そんな気持ちを心の奥に押し込めて、私は約束の場所へと足を進めた。

    そこには、既に白いワンピースを纏い、端正な佇まいを見せるしずくさんがいた。
    彼女はまるで銀幕から抜け出してきた女優さんのようで、その姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。遠目からでも一目で美少女とわかる、その透明感溢れる容姿に、私は一瞬、現実感を失った。

    「しずくさん、お待たせしました」

    声をかけると、彼女は優雅に振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。その笑顔は、私の胸の中に温かなものを灯した。

    「栞子さん、全然待ってないよ。今日は来てくれてありがとう。その服、すごく似合ってる」

    「ありがとうございます。しずくさんこそ、白いワンピース、とてもお似合いです」

    「ふふ、嬉しい。ありがとう」

    互いに私服を褒め合いながら、私たちは会場へと向かった。しずくさんは私の手を引き、軽やかな足取りで歩く。その手の温もりが伝わり、少しだけ緊張が解けたような気がした。
    客席に着くと、しずくさんは私の隣に座りながら、ぽつりと呟いた。

    「私ね、ずっと栞子さんとこうして一緒に舞台を観たかったんだ」

    彼女の声は柔らかく、しかしその中にある感情の深さが伝わってきた。聞くと、どうやら他の友人たちは来られなかったようだ。かすみさんは中間テストの補習、璃奈さんは愛さんとの先約があったのだそう。しかし、かねてよりしずくさんは、文化的な教養を持つ私と共に観劇することが密かな夢であったと告白する。

    「嬉しいです、しずくさん。でも、私が数合わせにされているのではないかと少し不安になります」

    私は冗談めかしてそう言ってみた。

    「栞子さんの意地悪…」

    しずくさんの少し頬を膨らませたその表情が、まるで幼い子供のようで、思わず微笑んでしまう。普段は凛とした彼女の、こんな一面を見ることができるのもまた、気兼ねない友人同士の特別な喜びなのかもしれない。
    舞台が開演する。劇場の灯りが徐々に落ち、観客たちは次第に沈黙に包まれた。
    演目は「ロミオとジュリエット」。イングランドが誇る劇作家ウィリアム・シェイクスピアの戯曲だ。彼女と共にこの名作を観ることができるという事実が、私の心を徐々に高揚させていった。
    物語の終盤、ジュリエットがロミオの後を追って自らの胸に短剣を突き立てるシーンが訪れた。劇場内にはすすり泣く声が響き、私自身も胸を締め付けられるような感覚に襲われる。しかし、その一方で、隣にいるしずくさんの様子が気になり、ふと目をやると

    「綺麗…………」

    彼女は、まるで舞台そのものに取り憑かれたかのように、恍惚とした表情で血塗られたジュリエットを見つめていた。
    その姿を見た瞬間、私はぞっとする寒気を感じた。それはまるで、彼女がこの現実とは異なる次元に足を踏み入れてしまったかのような、不安と異物感のようなもの。私の中で、しずくさんが突然、遠い存在に感じられた。
    舞台が終わり、観客席が徐々に明るくなっていく中、私はまだ胸の中に残る不安を抑えきれずにいた。しずくさんが話す演劇の感想はいつも饒舌で、その熱意と情熱が伝わってくる。しかし、先ほどの舞台で見た彼女の恍惚とした表情が、私の心を深く揺さぶっていた。その姿に、一瞬「怖い」と思ってしまった自分が許せない。
    そんな様子を見て、しずくさんが何かを感じ取ったのか、ふと私の顔を覗き込み、不安そうに訊ねた。

    「……栞子さん、もしかして楽しくなかった?」

    私の反応に気づいたのか、しずくさんが不安そうに尋ねてきた。その声に、私はハッと我に返り、慌てて笑顔を作った。

    「いえ、そんなことはありません。とても素晴らしい舞台でした」

    「そう……よかった」

    ほっとした様子のしずくさんは、少しだけ語り口調を変え、過去の自分のことを語り始めた。
    彼女が古い映画や舞台を好む理由、そしてその趣味のせいで「変わっている」と周囲から見られた経験。それゆえに、自分を偽り、周囲と同じように振る舞うことを覚えたという話。だから、演技を始めたのだと。その話に、私は心を締め付けられる思いだった。

    「でもね、前にかすみさんと話すうちに、ありのままの自分でいいんだって思えるようになったんだ」

    彼女の言葉は、過去の自分自身を肯定するお守りのようなものだった。しかし、私が彼女の姿に感じた「違和感」が、彼女にとって再び「周囲と違う」というレッテルを貼りつけてしまった。そして、そのような不安を他でもない彼女自身が抱いていることが伝わってきた。

    私の態度が彼女を傷つけた────────

    「ごめんね、急にこんな話して。栞子さんも迷惑だったよね」

    「そんなことありません。しずくさんの感性は素晴らしいものです。同好会のみなさんだって、今のありのままのしずくさんのことが大好きなんです。私だって──────」


    反射的に取り繕うような言葉を繰り返す私に、しずくさんは一瞬だけ寂しげな表情を見せ、そしてすぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべる。

    「ありがとう、栞子さん。でも、もう大丈夫。遅くなったしそろそろ帰ろうか」

    その笑顔は、私の心を締めつけた。しずくさんは、きっとまた、自分を偽っている。
    おそらく彼女は、私が無意識に並べた言葉の裏に隠れた本当の感情を見抜いていたのだろう。

    それでも彼女は、私を気遣って「大丈夫」と言ってくれた─────────

    その瞬間、私は自分の無力さと、しずくさんに対して本当に伝えたい言葉をまだ口にしていないことに気づいた。

    「しずくさん、待ってください」

    彼女が一歩踏み出そうとするのを、私は慌てて引き止めた。

    『素直でもっといたい』

    心の中の声が、私に何かを強く訴えかけていた。自分の行いを後悔するのは"今"ではない、"今"は、私の嘘偽りのない「ありのまま」の気持ちを伝える時──────。

    「しずくさん、傷つけてしまってごめんなさい。私は……あなたがありのままでいてくれることが何よりも嬉しいんです。しずくさんが自分を偽っている姿を見ると、私はとても悲しいです。どうか、私には本当のあなたを見せてください」

    私の言葉に、しずくさんは一瞬驚いたように目を見開いた。しかし、その後すぐに、その目には優しい光が宿り、彼女の顔に穏やかな笑みが広がった。

    「栞子さん…ありがとう」

    彼女は静かに頷き、私の手をそっと握り返してくれた。その手の温もりは、私にとって何よりも確かなものだった。

    「しずくさんのこと、もっと教えてください。あなたのことをもっと知りたいんです。ありのままのしずくさんを」

    その言葉に、しずくさんは少しだけ涙を浮かべたように見えたが、それはすぐに微笑みに変わる。

    「私、ずっと怖かった。周りと違うことが。またそれが原因で嫌われたらどうしよう、今度は栞子さんにまで───って。……でも、栞子さんがそう言ってくれて、少しだけ勇気が出た」

    私はしずくさんの手をぎゅっと握り返し、彼女に向かって真っ直ぐな目で頷いた。

    「しずくさんは、しずくさんのままでいいんです。それを忘れないでください」

    その言葉を聞いたしずくさんは、涙を拭きながら笑った。その笑顔は、心なしか今までで一番輝いて見えた。
    その後、私たちは再び劇場を後にし、夜の静かな街を歩きながら、少しだけ他愛もない話をした。しずくさんの表情は穏やかで、何か吹っ切れたような清々しさが感じられた。
    彼女は私に向かって優しく微笑みかける。

    「栞子さん、今日はありがとう。舞台、また一緒に観ようね」

    「勿論。私も、しずくさんとこうして過ごせて幸せでした。また誘ってください」

    空には星が瞬き、夜の帳が降り始めていたが、私たちの心には温かな光が灯っていた。
    ふたりで歩くその帰路は、心なしか今までとは違う景色に見える。しんと静まり返った夜の道を、私たちはどこまでも歩き続けた。
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