【結婚薫凪】夏祭りあまり人のいないホテル。ロケに選ばれた地域は田舎のようで、少し交通の便が不便なところだった。それでも大きな駅に出ればこうしてホテルもあって。『着いたよ』と薫くんに連絡して、メッセージに記された階、記された部屋の扉を軽く叩く。
ガチャ、と部屋の扉が開いて──それで、腕を引かれて部屋に引きずりこまれた。
「え、ッ?」
何が起きているのか把握する前に、強く抱きしめられた。あたたかい体温、それで、この、香り。
「……か、お……」
「会いたかったぁ……!!」
「……っ」
頬に熱が集まる。高揚して、涙すら滲んだ。
「……わたしも、あいたかった」
すべてさらけ出したあの日から、電話する時間は欠かさず取った。忙しくても、数十分でも、声を聞いていた。それでも──会えないというのは、かなしくて、さびしくて。薫くんも仕事なのだからと割り切っていられたのは自分の仕事中だけで、帰ればやっぱり居るはずのぬくもりが感じられなくて枕を濡らしたことも数度では済まない。
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