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    こもり

    腐った成人済みのオタク。
    炭善は体にいい。

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    こもり

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    #炭善版夜の描き書き一本勝負

    第61回お題【子ども】をお借りしました。
    22:00〜22:51

    眠くて予約のためだけの公開指定なので明日終了日時は削除いたします。

    #炭善
    TanZen
    #柱if
    #先天性女体化
    congenitalFeminization

    戻る 第61回お題【子ども】

     肩を揺らす。前に抱えたややこをあやす、母の背中。
     何日ぶりかの自宅。雲取山ではない、竈門炭治郎の新しい帰る家——日柱邸。
     妹も人間に戻った。あとは鬼を総て滅するのみ。鬼の始祖を、仇を、倒すのみ。
     それがどうして、こんなにも遠くに来たのだろうと思う。
     血をたくさん浴びて、鉄の匂いに包まれて、自分よりもずうっと年下の若い隊士を何人も見送って、それでも鬼はいなくならない。
     心がすり減って、悲しみと怒りが憎しみに変わって募る。
     それがよくない兆候であることに気づいていたけれど、自分が足を止めればまた人が死ぬ。
     そんなふうに、がむしゃらに戦っていたらいつの間にか、半年経っていたらしい。
     鴉に呼ばれた柱合会議を終えて、帰宅した。そう、帰宅。日柱邸へ、竈門炭治郎は帰ってきた。
    「おかえり」
     揺れる肩越しに振り返る。金の髪がさらりとその肩から落ちた。
     飴色の瞳がやわく細められて、白い手が伸びてくる。
     炭治郎の髪を撫でて、頬に滑り落ちてきた。
    「おかえり、炭治郎」
    「……ただいま……」
     心から何かが抜け落ちるような——ささくれ立っていたものが凪ぐような声に目を閉じて、その手に手を重ねた。
    「ほら、ずいぶん大きくなったでしょう?」
    「ああ、うん……うん」
     金の髪の同期。そして、竈門炭治郎の妻、善逸の腕の中の子を見下ろす。
     確かに最後に見たのは、胎から出て間もない、小さな生き物だった。
     それがどうだろう、半年でこんなにぷくぷく大きくなる。すごいなぁ、と独りごちた。
    「……だいぶ参ってるね」
    「たくさん死んでしまった……」
    「そうかな? 俺はそうは思わんよ。お前が頑張って走って頚を斬った分、たくさんの命が救われたと思う。ほら、まずはお風呂に入っておいでよ」
    「……っ、ああ」
     手を離し、家の中に声をかけて縁側から入る。
     すぐに禰󠄀豆子の声がして、「おかえり」と微笑まれる。
    「ただいま……」
    「お風呂にする? ご飯にする?」
    「風呂を」
    「わかった。それじゃあ先に着替えちゃって。すぐ沸かすから」
    「……ああ」
     長い時間留守にして、さぞや心配をかけただろう。苦労をかけただろう。
     人間に戻っても、大きくなった屋敷を切り盛りして、大変だろう。
     いくら善逸が側にいるからと言っても、雲取山の家の三軒分はあるお屋敷を任せてしまって申し訳ない。
     フラフラしながら部屋着に着替え、床の間に座り込む。
     なにも考えず、ただぼーっと。
    「お兄ちゃん、お風呂沸いたよ」
    「ああ」
     禰󠄀豆子の声に、立ち上がる。風呂場へ向かう、渡り廊下からまた縁側の庭が見えた。
     善逸はそこに立ち、また子守唄を歌いながら体を揺らしている。
     子が眠らないのだろう。
     情けない、自分の子だというのに。自分が彼女とともに育てなければいけないのに。
    (どうしてなにも感じないのだろう……)
     半年も離れていたせいだろうか?
     自分の子の認識が薄いのだろうか?
     いや、炭治郎は長男だ。たとえ血の繋がりがなくっても、我が子のように慈しむ自信がある。
     それなのに、なぜ?
    「お兄ちゃん、褌の替え、置いておくからちゃんと新しいの履いてねー」
    「ああ」
     以前、選択済みのものでなく、脱ぎたての褌を履いて後から着替えたことがある。
     禰󠄀豆子はそれを覚えていて、炭治郎が風呂に入る時必ず忠意するのだ。
     脱衣所で新しいものと、今脱いだものを見比べる。
     脱いだものを、わざと畳まずにそのまま床の籠に入れた。これならば間違わないだろう、と。
     体と頭を洗い、湯に浸かり、天井を見上げて息を吐いた。
     ここでもなにかが抜けていく感覚。
     抜けていくのは疲れだろう。目を閉じると寝てしまいそうだ。
    「んん……」
     しかし、このまま寝たら死ぬ。湯船に顔が浸かって、水死体になってしまう。
     縁に腕を組んで顔を埋める。目を閉じると、一気に眠気が襲ってきた。もしかしたら、炭治郎も気づかぬうちに、少しだけ眠ってしまったかもしれない。
    「日柱様、お背中をお流しいたしましょうか」
    「! 大丈夫です」
     脱衣所から人の声がして、慌てて顔を上げた。隠が来ていたらしい。
     体も十分に温まったので、湯から出る。
     禰󠄀豆子に用意してもらった着流しに着替えて、脱衣所を出るといい匂いがした。
    (松茸だ)
     懐かしい。刀鍛冶の里で甘露寺蜜璃がものすごい量をお代わりしていたっけ。
     茶の間に行くと、禰󠄀豆子が炊き立ての松茸ご飯を茶碗によそいでいた。
    「はい、お兄ちゃん」
    「ああ……善逸は?」
    「今日はお布団で寝ない日みたい。でも、お兄ちゃんと一緒なら寝るかもね」
    「そうか……」
     ぼんやりと、食事を摂る。一口目、松茸ご飯を口に入れたら、口の中からほぐれていく。温まった体に、染み入る。
    「美味いな」
    「よかった。おかわりたくさんあるからね」
    「ああ」
     たくさん食べて、軽く酒を一杯だけ。
     そうすると、一気に眠気が襲ってくる。
     床の間に布団は敷いてあるし、心身共に限界を感じた。
     後片付けをすべて禰󠄀豆子と隠に任せ、布団の上に倒れるように横たわる。一気に力が抜けて、意識が遠のく。
    「おやすみ、たんじろう」
    「あー」
     優しい声に、無理やり片目をあげる。
     愛してやまない、炭治郎の唯一無二が微笑みながら見下ろしていた。
     手を伸ばして、腰に腕を回す。
    「もう、たまに赤ちゃんみたいなやつ。いいよ、一緒に寝よ。三人でね」
    「あぶぶぶぶ」
     いったいどんな躾をしたのだろう。
     ややこを真ん中に、炭治郎の隣に横になる善逸。
    「ぜんいつ」
    「うん」
    「ぜんいつ……ぜんいつ、ぜんいつ……」
    「うん、いるよ。ここにいる」
     子を挟んで、抱き合う。甘い乳の匂い。赤子特有の、甘い母乳の匂いだ。
     その匂いを嗅ぎながら、炭治郎は眠った。泥のように。
     夢も見ない。けれど、母の夢を見たような気がする。
     いや、きっとこれは——。
    「ねんねんころり、ねんころり、鬼の居ぬ間にねんころり。こわいはこない。こないこない」
     涙が出る。善逸と、善逸と炭治郎のややこ。
     炭治郎の家族。
     血の匂いに奪われた、あの夜かららどれだけ経っただろうか。
    「ぜんいつ、ぜん、いつ……」
    「ここにいるよ」
     炭治郎の家族。血の繋がった、炭治郎の。

    「おはよう」
    「おはよう」
     目を覚ますと、善逸とややこが隣に寝ていた。
     ややこは炭治郎の体温に安心したのか、その日初めて夜一度も起きなかったという。
    「おかげで俺までしっかり寝られたよぅ」
    「そうか、よかったな……」
    「炭治郎は? 良き眠れた?」
     髪を撫でられる。頰も、額も。愛おしいと、指先が伝えてくる。
     涙が出た。
    「善逸……」
    「おやおや、でっかい赤ちゃんだねぇ。仕方ない、お姉さんが子守唄を歌ってあげようね。……そんで、もう少し帰ってくる頻度を増やしなさいな。今回はちょっと、頑張りすぎだよ」
    「っ、うん、ごめん……ありがとう」
    「あぶぶぶぶ」
     ころん、と寝返りを打って、炭治郎の胸の中に転がってきたややこ。
     炭治郎と善逸の子ども。
    「あぶぅーぶぅ、ぶぶぶぅ」
    「ほら、おかえり、だって」
    「……ああ、ただいま」
     妻と子を抱く。
     炭治郎の新しい家族。この命の匂いを守るために、炭治郎は頑張りすぎた。
     後悔はない。けれど、妻と妹、隠の人たちに丸投げにしてしまったようで申し訳ない。
    「お兄ちゃん、善逸さん〜。起きたならご飯運ぶ?」
    「ううんー、着替えてそっちに行くよー」
    「善逸」
    「んー?」
    「ありがとう」
    「……どういたしましてー」
     頭を抱かれて、自分は生き延びたのだと、ようやく実感を持てた。
     伸ばした髪を引っ張るややこも、感慨深く抱き締めた。

     竈門炭治郎は柱だ。
     継いだ炎を心に宿して、家族を、抱く。
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