第66回お題【また、どこかで】【カボチャ】 ハロウィンはあの世から魂が現世にやってくる。だからハロウィンはお化けの格好をして、仲間だと思わせるのだ。そうすればお化けたちに食べられることはない。
でも、それは“人間”の子どもの話。
雷神の幼生体である俺、我妻善逸はその年カボチャの精に仮装した。
人間の子どもたちは魔女や幽霊、悪魔などに仮装している。
幼馴染の竈門炭治郎は狼男、妹の禰󠄀豆子は魔女、伊之助はフランケンシュタインに仮装してお菓子を入れる空の籠を持って公園を練り歩く。
善逸も幼い彼らとともにハロウィンイベントを楽しんだ。
毎年10月30日はこの公園で十五歳までの子どもがハロウィンイベントを開催する。
その中で“本物”は善逸だけ。
そして、今年でハロウィンイベントに参加するのは最後だ。来年からは高校生だから。
カボチャのランタンを片手に、イベントで賑わう夜の公園を練り歩く。
「善逸」
「よお、炭治郎。狼男のコスプレ似合ってるぜ」
「ありがとう。善逸のカボチャの精も似合っているよ」
呑気に笑う炭治郎。その笑顔に、目を閉じる。
「善逸、今年で卒業だろう? これ」
「なにこれ。スイートポテト?」
「うん。うちのパン屋で作っている、期間限定商品なんだ。ハロウィンスイートポテトパンプキン味」
「へぇ、美味しそう。食べていいの?」
「うん……」
炭治郎の家はパン屋だ。もぐもぐともらったパンを食べ終えてから、今までの感謝も込めて振り返る。
「ありがと」
今夜から、善逸は雷神として成人を迎える。人間として生活するのは今日で終わり。
幼い頃から一緒に成長してきた炭治郎たちとも、今日でお別れ。
だから、これまでの思いも全部込めて告げた。
「——善逸、どこかへ行くのか?」
炭治郎は勘がいいな、と笑う。カボチャのランタンを顔の上まで上げる。お互いの顔がよく見えるように。
「……うん。元々さ、高校卒業したら帰ってこいって言われてたんだ」
「実家は海外なんだよな」
「そう。ずっと遠い国」
「高校を卒業したら絶対会いに行くよ。メールも電話もする!」
ランタンを持つ手を掴まれる。炭治郎の気持ちは気づいていた。けれど、善逸が帰る場所は人間が来れるところではないし、メールも電話も繋がらない。
そもそも炭治郎は人間だし、善逸は雷神の子。
いくら小さな頃から一緒に育っていたからといっても、いつか別れなければいけないとわかっていた。
だから、どうしてもその気持ちには応えられない。
「……うん、また、どこかで」
「 違う! 俺は!」
「ごめんね、炭治郎」
「善逸」
カボチャのランタンを手放す。
手放しても、一瞬だけ浮かぶカボチャのランタン。
その光に炭治郎が目を瞑り、目を開けるともうそこに善逸はいない。
「善逸!」
雷神である祖父のところへ、そのまま帰る。
炭治郎とはもう会えない。でもそれは最初からわかっていたことだから。
「高校はちゃんと卒業してこい。あと半年もあるじゃろうが」
「えーーーー」
普通に翌日学校行った。