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    こもり

    腐った成人済みのオタク。
    炭善は体にいい。

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    こもり

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    #炭善版夜の描き書き一本勝負

    第65回お題【月下】をお借りしました。
    いつも開催ありがとうございます!

    ・大正軸
    ・同期じゃない後輩×先輩

    21:04〜21:55

    #炭善
    TanZen
    #炭善版夜の描き書き一本勝負

    月下 第65回お題 【月下】

     キン、と刀を鞘に納める音。ごろん、と鬼の首が落ちる音。
     ひらりと月下に舞い降りる、稲妻のような、一閃の煌めきのような人。
     滴る血で前がよく見えない。ただ、それは美しかった。
    「大丈夫?」
     控えめな声で振り返り、竈門炭治郎に手を伸ばしたのは美しい人だった。
     下弦とはいえ十二鬼月と初めて刃を交え、その強さに刀を折られて力尽きて妹の上に倒れた炭治郎は、返事もままならない。
     けれど、もう一人の美しい女性に妹を殺されそうになって逃げ出した。
     逃げろ、と指示されたからだ。動けなくても動け、という、なんとも無茶苦茶な指示を出したのは恩人の冨岡義勇。
     あとから聞いた話だと、兄弟子は水柱という鬼殺隊最高位にいる人であったらしい。
     その人とは別に——音柱の継子だという金糸の髪の剣士が炭治郎を庇ってくれて、今現在、那田蜘蛛山の任務を終えた炭治郎は蝶屋敷にぶち込まれた。
     色々あったが、妹の禰󠄀豆子も鬼殺隊に認められることになったのだ。
     しかししばらくは療養。あまりにも、怪我が酷い。同期で同じく山に入った伊之助も、喉を潰され瀕死のところを助けられた。
    (あの時助けてくれたのは、鼓の屋敷にも来ていた……禰󠄀豆子を伊之助から庇ってくれた人だ)
     炭治郎のあとから屋敷に来て、正一という子を助けて先に出た伊之助が禰󠄀豆子を殺そうとしたのを庇い、守ってくれた人だ。残り香で覚えている。
     あの時も伊之助は今回のように縄で縛り上げられ、気絶していた。
     あの人がやったのだと、正一に聞いていたけれど——会うのも見るのも初めてだ。
     とても、優しく強い匂い。
    (お礼を言わないと)
     筋肉痛で動けない炭治郎は、体の痛みが治るのを待ってから、しのぶに“彼”のことを聞いてみた。
     あの夜、あの場にいた黄色い美しい人は何者なのかと。
    「我妻善逸さんですか。音柱の宇髄天元さんの継子で、炭治郎くんより一つ年上……雷の呼吸の使い手ですよ。階級は甲。次期柱有力候補ですね」
    「そ、そうなんですね。とても綺麗で強くて……お礼を言いたいんですが」
    「手紙を書けば届くと思いますよ。彼も滅多に怪我をしないので、蝶屋敷にはあまり来ません」
    「っ、本当にとても強い人なんですね」
     宇髄天元が音柱になってすぐ、小さな町で拾い、そのまま鬼殺隊に入った人らしい。
     耳が非常によく、鬼の探索も得意。
     ただ、とても臆病な人で、戦いも嫌いな人なんだそうだ。
     丁寧に手紙を書いて、鴉に託す。
     数日後、炭治郎の体が動くようになってきたらひょっこりと耳の上の金糸の髪を、一房ずつ後ろへ結った天女のような人が病室に現れた。
    「あっ!」
    「あ、あの、か、竈門炭治郎……? て、手紙……わざわざ、ありがとう。怪我、大丈夫?」
    「はい! 今はもう、回復訓練に移っていて!」
    「へぇー、頑張ってるんだねぇ。あ、これお見舞い。俺のお気に入りの団子屋さんのみたらし団子だよぉ」
    「わあ、いい匂いだ。ありがとうございます!」
     やはり、とても強い匂いがする。みたらし団子を受け取り、隣のベッドの伊之助も紹介して三人でいただく。
     食べながら、鼓の屋敷で禰󠄀豆子を助けてくれた時のこともお礼を言った。
     そして、どうして助けてくれたのかも。
    「ずっと気になっていたんです。どうして禰󠄀豆子を助けてくれたのか。禰󠄀豆子は鬼だし、あなたは事情を知らなかったのに」
    「それは——屋敷に入る前に箱の中、覗いたら……めちゃくちゃ可愛い女の子が入ってたから」
    「…………。え」
    「しかもさ、話しかけたら返事もしてくれたんだよ〜。可愛いし、屋敷の中から聞いたこともない、泣きたくなるような優しい音がしたから……きっとなにか事情があるんだろうな、って思ったの。箱も大切に手入れされてるし、あの子、俺の顔を見ても襲ってこなかったし……縁があれば、話を聞けるだろうなって。それだけ」
    「っ」
     もちろん、なぜそう思ったのかといえば単純に炭治郎が生き延びられない可能性もあると思っていたから。
     鬼殺隊は、常に死と隣り合わせだ。
     鬼を連れていれば、よりその危険性は高い。
    「別に親切でしたんじゃないんだよね。あんなに可愛い女の子を、自分の手で殺すのが嫌だっただけ」
    「……それでも、守ってくれてありがとうございました」
    「えー、ほとんど年変わらないんだから善逸でいいよぉ」
    「はい、ありがとうございます、善逸さん!」
    「それじゃあ、俺そろそろ行くねぇ。回復訓練頑張ってね」
     と、その日から怒涛の文通が開始した。主に炭治郎からの手紙攻撃。単純に好意が暴走している。
     甲の善逸は柱と同様に忙しいのだが、まめに返事をくれるので鴉がブチギレるほど頻繁にやり取りが続く。
     次に会えたのは、炭治郎の復帰戦。無限列車の任務。
     火の呼吸について炎柱の煉󠄁獄杏寿郎に聞くため、伊之助、禰󠄀豆子と共に乗り込んだ列車に善逸はいた。
    「善逸さん! 善逸さんも同じ任務ですか!」
    「先に柱に挨拶しなさいよ」
    「あ! はい! 竈門炭治郎です! こちらは同期の嘴平伊之助。そしてこの箱の中にいるのが、妹の禰󠄀豆子です」
    「あの時の鬼か。うむ、お館様が認めたのだ。今はなにも言うまい! それよりも、まずは君たちも食べるといい!」
    「え」
     牛飯弁当を大量にいただきつつ、任務の話や呼吸の話を聞く。
     鬼の出る列車ということで、まったく油断はできないのだが炭治郎は浮かれていた。
     憧れの我妻善逸が目の前にいる。
    (ああ、やっぱり綺麗だな)
     目を細め、何度も見惚れてしまう。白い肌も、髪を耳にかける仕草も、切り揃えられた爪も、白魚のような手も、派手な金の髪も、桜の花びらのような困り眉も、飴色の瞳も、なにもかも。
    (……煉󠄁獄さんも、派手だけど)
     特に食事量が。
    (でも、やっぱり善逸さんは綺麗な人だな)
     目が合うと、少し困ったように微笑む。もっとこの人と話がしたい。そう思いながら、眠りに落ちていく。
     次に目を覚ました時は——下弦の壱との激闘。
     そして、列車が脱線したあとは新たなる強敵、上弦の、参。
     なんの役にも立たない無力感を噛み締めながら、煉󠄁獄と善逸が戦うところを黙って見ていることしかできない。
     異次元の戦い。
     それでも、初めて血の滴らない目で、それを見た。
     沈みゆく月下、光の柱。火炎と雷鳴。
    (ああ、……俺も、あの人たちと……)
     まだ届かない。けれどいつか、あの月の光の下へ、自分も。
     
     月下へ。
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