銀高ss朝、家を出ようとしたら高杉から包みを渡された。片手で持てる、長方形のそれ。このシチュエーションだ。決まっている。言われなくても分かった。
愛妻弁当!!!
「ちゃんと食えよ。」
思わず、行ってきますのキスをしようとしたらサッと避けられた。おい!デレの日じゃないのかよ!さっさと消えていった背中に玄関から叫ぶ。
まあ、それはいいとして。
朝からご機嫌が超突破した俺は、ルンルンでスキップする勢いで愛車を走らせ、仕事場へと直行したのだった。
昼時。
ついに頭がおかしくなったんだな。
ヒソヒソ、小声が後ろから聞こえてくる。
直接言ってこない辺り、それらが悪意ではなく本心で心配していることを際立たせた。
ウルセー、俺も何かの冗談であって欲しいわ、と悪態をついて、問題のブツを見る。
シンプルな色の弁当箱。二段になっていて、一段目には白米。これはいい。弁当に米が入っていて何もおかしい事はない。
二段目。スティックシュガー。
「なんで!?」
異常な光景に頬が引き攣る。何コレ。おかず!?おかずなのこの砂糖は!?
普段料理なんてしない高杉が、あの高杉が。料理なんて殆どしないのにわざわざ弁当なんて渡してきたから、俺たちも遂にラブラブな夫婦の道を歩み出したかと思って喜んだのに。
どうせ何か怒らせる事したんじゃないんですか、と横から冷静な声。
ぎくり、と体が強張った。……ある。心当たり。ありまくり。
つい昨日、洗濯に出す靴下を裏返しで出すなって怒られた。疲れを言い訳に、ハイハイと適当に返事をしたら更に怒られた。
「聞いてんのかバカタレ」
「おー聞いてる聞いてる。ちょっと低い位置からで聞きにくいけど聞こえてるよー」
「……」
あの後、何も言ってこなかったからちょっと変だなとは思っていた。でも夜はちゃんと盛り上がったし、いつもの軽口くらいに思ってたのに。
しっかり根に持ってた!!そしてこの逆襲!!
正面に座る小娘から銀ちゃんが悪いと呆れた声で殴られた。何も言い返せない。
食いもん粗末にするなよと高杉の声が聞こえてきた気がして、甘党ナメんな、とスティックシュガーの袋を破いた。
夜。
朝とは打って変わって、トボトボとしたら足取りで玄関を開ける。ガラリと響いた音で、高杉が奥の部屋から顔を覗かせた。
「よお。弁当、美味かったか?」
「……そりゃあもう。奥さんの手作りで愛情感じまくりだったわ」
「そりゃあよかった」
喉で笑った高杉がペタペタ足を鳴らしてやって来て、目の前で両手を広げた。
朝は不機嫌で日課をやってくれなかったのに、どうやら逆襲弁当で気は済んだらしい。思わずため息が出たけれど、そのまま高杉を抱きしめた。
「おかえり」
「ただいま」
高杉の肩口に顎を乗せて、すうと深く息をする。いとしいにおいと、僅かに汗の香りがした。
「今日、暑かったからな」
「おい嗅ぐな。……部屋の掃除してたら汗ばんだ」
ぱしん、と背中を叩いて抗議された。いつもやってんのになあ。恥ずかしかったの?と言おうとして、昨晩のじゃれ合いを思い出してやめた。
「靴下、ちゃんと脱げよ」
「……あい」
「次やったら毒キノコでふりかけ作ってやるからな」
「怖すぎる…」
本当にやりそうで怖い。すみませんでしたと謝ろうとしたが、高杉が頭を擦り付けてきたので、まあいっかと腕に力を込めた。
おまけ
「また、弁当作ってくれる?」
「じょうずに靴下脱げたら、考えてやってもいい」