月刊銀高:日課自然にそうなったことだが、いただきますは二人着席してから。
一緒に暮らし始めて、色々なことが変わった。けれどこの習慣だけは、最初からずっと続いている。
高杉が料理を始めて、ようやくまともなものが出てくるようになったこの頃。今日も一日に二回の共食の時間を過ごすのだった。
「今日なに?」
「肉じゃが」
「ふーん、焦がしてない?」
「焦がしてねえよ。何度作ってると思ってんだ」
台所に立つ高杉の背後から鍋を覗き込む。今肉を入れたところらしく、鮮度の良い色がぐつぐつと煮込まれている。
「初めの頃は煮すぎてジャガイモドロドロにしてたクセに」
「前のことをいつまで言ってんだ」
高杉がじろりとこちらを睨む。
料理とは失敗するとなかなか取り返しがつかないものだ。
当時、流石の高杉も失敗作を前に強気にはなる事が出来なかったようで、食べなくていいと言う割に声に元気がなかったのをよく覚えている。
食いもんもったいねーだろ、と食べた失敗料理はやっぱり微妙だった。苦くて何処ぞの娘が作り出す炭みたいなやつもあったな。だけど、エプロンに着られて、殆ど読んだこともない料理本片手に奮闘する姿を知っていては食べないなんて選択肢が無かった。仕方ない、見ていられない、目が離せない、だからいとしい。
刃物の扱いには長けているはずなのに指に増える絆創膏が痛々しかったけれど。寝る前にケアしてやる名目で触れる時間が増えて、それはちょっとだけよかったかも、しれない。
「おいその器俺のじゃねーか、人参ばっか入れんな。肉も入れろよ、バランスよく入れろバランスよく!」
「うるせえな、血糖値ヤバいやつは野菜食っとけ」
こいつ、さっきのイジリを根に持ってやがる。高杉の彩り良い器より自分の方が遥かに赤色が多い。全く、料理ができるようになったのはいいことだが、こういうささやかな仕返しが増えて困ったものだ。
肉を多めでおかわりしようと決めて、自分は米をよそる事にする。高杉は自分よりやや少なめに。これもいつものこと。
冷蔵庫の残りも食卓に出して、二人で席に着く。
「いただきます」
「いただきます。お、ちゃんとうまい」
「当たり前だ。」
一口頬張った人参は味が染みていて美味しかった。素直に伝えてやれば、高杉は特に表情を変えずに言った。
「お前に食わすものだからな」
「やっぱ砂糖入れすぎてない?甘いんだけど」
「は?やっぱ舌おかしくなったか」
「いや、最初はしょっぱかったんだけどね……」