銀高ss 目覚めはいい方だ。なかなか寝付けない夜はあるけど、程よい温度が隣にいるからまあ問題ない。たまにべらべらと喋りかけてくるのはちょっと煩いが、我慢できない時は蹴飛ばすのでそこも良しとしている。手が潜り込んできた時は、……それこそ気分による。
今日も自然と太陽の明るさで目が覚めた。昨日はただ手を絡めていたただけのはずなのに、いつの間にか腕の中にいた。ぎゅうと背中に周った腕が温かくて、微睡を堪能した。
本格的に目が冴えたので、そろそろ活動するかと上体を起こす。
腰のあたりで組まれた手をやさしく解いて、抱擁する腕から抜け出した。
寝ている癖になかなか力が入っていたのは意外だった。寝ている時くらい気を抜けよと、声に出さない代わりに間抜けな頬をつついてやった。
春といえどまだまだ朝晩は冷える気候だ。ふるりと肌が震えた。寝る前も身につけていた羽織を目で探すと銀時の頭の辺りでくしゃりと丸くなっているのを発見した。脱いだ時に畳んだ様な気もしたが、今は気にしないことにする。
目的の物を取るために、立ち上がって一歩踏み出した時。
「ぎゃっ!」
目を閉じたままの銀時から声がした。同時に足先にぐにゃりとした感触。どうやら銀時の手を踏んでしまった様だ。
さすがに、よく寝ていたのに悪いなと思ってとりあえず踏んでしまった手をさすってやれば、銀時の眉間に寄っていた皺も伸びた。
気を取り直して今度こそ踏まない様に、そっと銀時を跨いだ。つもりだったのだが。
「ふぎゃ!」
「あ」
今度は足を上げるのに失敗して、銀時ごと踏みつけてしまった。
「……何してんだ」
流石に銀時が目を覚ました。衝撃を受けた腰をイテテと撫でている。
「悪い。わざとじゃない」
「ホントかよ。日頃の恨みとかじゃねーだろうな」
「心当たりあんのかよ。じゃあもう一発くれてやらァ」
「ねーよ!」
「いやあるだろ」
「どっちだ!」
踏みつけてしまったのはワザとではない。が、このアホの世話には日頃手を焼いているのでもう一回くらいくれてやってもいい気がしてきた。
「ったく、朝からなんなんだよ。なに、どこ行くの」
「散歩」
「早朝から?ジジイかよ。せっかく銀さん休みなんだからもっと寝かせろって」
「寝てりゃいいだろ。俺一人で行く」
銀時が怠そうに腰を上げる。頭をがしがしと掻いて、大きな欠伸を一つ。
「行く」
「……なんで」
「やだから」
「何が」
「いいから、一緒に行くぞ」
急に手を引かれて、シーツの上で躓きそうになる。斜めになった身体を抱き留められて、銀時の太い腕が絡められる。
「どこにも行くな」
頼むから、と銀時が言った。小さく、囁くような、言い聞かせるような。
答えは決まっている。迷いなく言葉は出た。
一人で歩くには、もう温もりに慣れすぎた。
こんな図体でかいやつを置いて、どこにも行けるはずなんてないのだから。
散歩はまた今度になりそうだなと、こっそりため息を吐いた。
おまけの会話
「誰がジジイだ」
「時差でキレるな」