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    hese_5442

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    hese_5442

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    ベジット永久合体時空
    親父ぃの来訪が数年遅れたらのif小話

     パラガスは大いに動揺していた。地球には、ベジータの影も形もなかったからである。レーダーにかからない時点でおかしいとは思っていたが、現地に馴染むため戦闘力を潜めているのだろうと気にも留めなかった。しかし着星してならず者どもに周囲を探索させてもベジータの『べ』の字も見つからない。どういうことだ、まさか既に地球を離れているのか、いや、三日前に観測した時は妻子と共に充実した生活を送っていた。あそこから急激に変化が起きるとは思えない――。
     ところが起きていたのだ。情報を持ってきたのは職務質問とやらで接近してきた現地の治安部隊で……地球パトロールと云ったところか……そのうち一人には見覚えがあった。調査報告書に載っていた顔だ。ベジータの、いや孫悟空の仲間の彼はヘルメットを取り額をつるりと撫でると、「困りますよこんなトコに宇宙船をさあ、許可取ってもらわないと」と言った。辺境の星とは言え宇宙人の来襲くらいは慣れてるのかと思いきや、彼以外は全員腰が引けている。彼も油断なく周囲を警戒していて、必要とあらば応戦する構えだ。
    「我々はベジータ王をお迎えに上がったのだ」
     パラガスは単刀直入に切り出した。相手の表情が変わる。驚愕に、続いてなぜか、困った顔に。
    「ベジータ? ベジータって……あ! あんたサイヤ人か。まだ生き残りがいたんだな」
    「ベジータ王はどこにおいでかな。大切な話があるのだ。この宇宙全体のな」
     地球人は頭を掻くと、「いや実は、ベジータはいなくなっちゃったんですよね」
     パラガスは一瞬目の前が真っ暗になった。
    「いなくなった……!? ど、どういうことだ!? ベジータは、し……!?」
     死んだのか、と言いかけて喉が凍り付く。何よりも恐ろしい想像だった。人生の全てをかけて築き上げてきた計画が音を立てて崩れ去っていく。
    「死んだというか、まあ一度死にましたけど、まあ生きてるというか」
    「ええい、わけのわからんことを!! 結局どうなのだ! ベジータはいるのか!? いないのか!?」
     地球人は困り顔のままヘルメットを隣の同僚に手渡した。上着を脱いで、
    「あんたサイヤ人なら空も飛べるだろ? 案内しますよ、たぶん見なきゃ信じられないと思うんで」
     そういうわけでパラガスは合体戦士の目の前に立っていた。そしてすぐに崩れ落ちた。
    「おおお……!! なんということだあ!!」
    「また変なの連れてきたなクリリン、誰だこいつ?」
     どの家にも居づらく山で一人暮らししているという彼はちょうど薪割り中で、白いランニングに作業ズボンといういでたちだった。
    「オレも詳しくは知らないけど、お前の中のベジータに用があったんだとさ」
    「ああ……」
     ベジットはパラガスを見下ろし、「そりゃ、お気の毒」と続けた。
     ほんの数日、数日の間に地球は天上界をも揺るがす大騒動に巻き込まれていたらしい。その決着をつけるためベジータはカカロットと合体し、文字通りいなくなってしまったというわけだ。あの世からもこの世からも。魂ごと、すべて。
     地面を掻きむしり煩悶するパラガスを、クリリンが宥める。
    「まあまあ落ち着いて。ずっとこうってわけじゃないんだから」
    「も、戻るのか!?」
     激しい剣幕に気圧されながらも、クリリンは「半年後ぐらいにはね」と頷いた。
     今ではないと意味がない。グモリー彗星は止まってくれないのだ。パラガスはまたも取り乱しそうになったが、一連の掛け合い中ずっと腕を組んで自分を眺めるベジットの居丈高な態度にああ確かにこの男にはベジータ王の面影があると感じ、というよりも感じたことにしなければ自我が崩壊してしまいそうだったのでそう信じ込み、誤算はあったが復讐対象に変わりはない、いや変わったのだが合体したこととベジータ王子が数十年を経て大人になったことは変化という点ではさほど違いはない、だからベジットに復讐対象が移ってもなんの問題もない、明らかにベジータの自我が消失しているが魂が引き継がれているなら問題はない、罪悪とは魂に刻み付けられるものだもの! じぇんじぇん問題はなぁい! とやや強引に自身を納得させ発狂寸前の精神を鎮めた。
     しかしダメージは著しく、一気に十は老け込んだような有様だったので、気の毒がったベジットは庭に椅子を出して掛けるよう促した。こんな親切ベジータはしないと思いながら、パラガスは腰を落ち着け、ようやくぽつぽつと台本通りの事情を語り始める。ベジットは最初こそ退屈そうだったが、興味をそそられたのか話が進むごと前のめりになり、とうとう微笑を浮かべて顎を擦った。
    「『伝説の超サイヤ人』ね……」
    「はい南の銀河いったいをその脅威のぱわーで暴れまわっておりますこのままではせっかくきずき上げたしんわくせいベジータも伝説のすーぱーさーやーじーにー」
    「やっぱりちょっと休んだ方がいいんじゃないか?」
     クリリンが見かねて割って入る。しかしベジットはもう目の前のパラガスのことなど忘れたかのように背を向けると、「南の銀河か」と独り言ちた。
    「ナイスタイミングだぜ。ちょうど暴れたい気分だったんだ。同じサイヤ人でおまけに悪者なら遠慮はいらねえよな」
    「あんまり無茶するなよ」
     釘を刺すクリリンを軽く受け流し、ベジットは額に指を当てると一瞬で掻き消えた。パラガスが目を剥いて立ち上がる。
    「消えた!?」
    「あいつ瞬間移動ができるんだ。『気』を感じ取れれば何処へでも」
    「で、でたらめなやつめえ!」
     パラガスは振り絞るように虚無へ向かって怒鳴りつけると、またへなへなと椅子に座り込んだ。気まずい沈黙の中、パラガスが考えるのはやはり計画のことだ。数十年の積み重ねを一気にちゃぶ台返しされたこの状況、果たしてどうしてくれようか。幸い、ベジットは南の銀河を探索するつもりのようだから、充分時間は稼げる。新惑星ベジータにおびき出し、グモリー彗星を使って確実に息の根を止めてやる。必要なら息子の力を使ってでも……とパラガスは左手に嵌めたリモコンを一瞥した。本当に、最後の手段になるだろうが。
     心配だなあ、と漏らしたのはクリリンだ。
    「あいつ何するか分からないところあるからな。無事だといいけど。……相手が」

     一方、新惑星ベジータはかつてない緊張に包まれていた。誰もが息を潜め、死の気配に怯えている。一皮剥けばならず者の掃き溜めたるこの星では奴隷が気晴らしにリンチされるくらい日常茶飯事だが、今住民を恐怖させているのはその程度の生半な暴力ではない。指の動き一つ、息遣い一つでも間違えば殺される、遥か高みで起きる気まぐれに皆の心は張りつめていた。原因はパラガスの不在にある。パラガスは息子と共に新惑星ベジータを実効支配しているのだが、その息子ブロリーは父親が怖いのか何なのか、親子で行動している時は人形のように大人しいのに、一人になると途端に残酷な乱暴者になるのだ。今日も泣き声がうるさいと子供が一人殺され、反抗した者が一人殺され、憂さ晴らしの夜伽で更に一人死んでしまった。——と、解説を受けながら、ベジットは奴隷の指すベッドを一瞥した。異星人が脚を開いたまま力なく横たわっている。かっと見開かれた瞳にもう生気はなかった。
    「サイヤ人の気を追って飛んで来たら……パラガスめ、思ったよりずっとあくどいことしてやがる」
     まるで地上げ屋時代のサイヤ人だ。
     新惑星ベジータというネーミングですでに嫌な予感はしていたが、どうやら因習も復活させるつもりらしい。この様子では前王の忠誠心ゆえに復興を目指しているという話も眉唾だ。大方ベジータを傀儡にパラガスが権力を振りかざすつもりだったのだろう。となると、あのうさん臭いおやじが変に力を持つ前に伝説の超サイヤ人とやらが頭を押さえつけてくれたということになる、むしろ伝説の超サイヤ人には感謝すべきかもしれない。
     奴隷たちは突然現れたベジットの質問にも粛々と答えてくれたが、総じて表情はうつろで、感情の動きも鈍かった。惨事を目撃したせいでショック状態なのだろう。あるいは長い奴隷生活で自我を折られているのか。どうやら伝説の超サイヤ人探しより先にやるべきことがあるらしい、とベジットは悟る。
    「そのブロリーってやつはどこだ?」
    「汚れたから奥の風呂場に……って、どちらへ?」
     ベジットは寝室を出ると、奴隷の指した方向へずんずん進んで行った。道すがら目についたドアを片っ端から開けていき、瞬く間に最後の一枚に手をかける。
     バッゴンッ――とドアをもぎ取ったベジットに、部屋にいた全員の注目が集まった。見渡すまでもなくサイヤ人はすぐに見つかる。年のころは悟空たちと同じくらいだろうか。想像していたよりずっと大人しそうな顔立ちの男だ。眉根をしかめていても不満があるというよりは泣くのを堪えているように見える伏しがちの目。薄い唇、輪郭の細い顎。バスタブから足がはみ出すほど縦に発育良好なせいで筋肉がついていてもどこかひょろりとした印象が否めない。入浴中だというのに装着したままのサークレットは、お気に入りなのが頷けるほど美しい宝玉が嵌め込まれていた。
     突然の乱入者に、ブロリーは不機嫌そうな顔をさらにしかめた。
    「誰だお前は。……死にたいのか?」
     物騒な文句を呟けば、無害そうな優男が一気に心のねじけたならず者へと変わる。
    「なぁに」ベジットは部屋に足を踏み入れた。傍に侍っていた奴隷たちが一触即発の空気を察して一斉に壁に貼り付く。「生き残りのよしみで躾に来てやっただけだ」
     たぶん、ブロリーの目からはベジットが消えたように見えただろう。瞬きより早く距離を詰めたベジットはブロリーの頭を掴むとバスタブの底に沈ませた。狼狽えた呼吸があぶくとなって水面を揺らす。押さえつける手を引き剥がそうと全身でもがいているが、かかる力はあくびが出るほど貧弱だ。力は弱くとも、頭の切れは悪くないらしい。間髪入れず、バスタブが底から砕ける。
    「——ぶはッ!?」
     息継ぎと共に動揺した声が響く。ベジットはブロリーの頭を引き起こすと、裸体の中心に蹴りを叩き込んだ。手の中で髪の千切れる音が響く。手を離すとその場に蹲ったので横面に爪先をもう一発。ボロ宮殿が傾ぐ勢いで巨体が倒れ、びしょ濡れの床にどろりと赤い水が混じる。ブロリーは床に両手の指を立てると、肩越しに振り向き、先ほどより明確な敵意をベジットに向けた。
    「……殺す」
    「痛みじゃ上下関係がわからねえクチか? よし、こうしよう」
     ベジットはおもむろに足を上げ、ブロリーの背骨の真ん中に振り下ろした。呻きを無視してシリたぶを掴み、高く天井に掲げさせると、おもむろに手の平を叩きつける。
    「……ッ!?」
     二度、三度と立て続けに破裂音が響く。ブロリーは悲鳴を噛み殺すが、打たれた肌は瞬く間に真っ赤になっていった。ベジットは紅葉の散った尻たぶを掴み、視線だけで部屋を見渡す。壁際から、ドア向こうの死角から、奴隷たちが呆然と成り行きを見守っている。ベジットは彼らに向けて人差し指を動かした。
    「そんなところで隠れてないで、もっと近くで見てみろよ」
     室内がざわめき、ブロリーも事態に気付いて顔を持ち上げた。ようやく事態が呑み込めたのか、その場の全員に怒りを噴出させる。
    「見るな! こ、殺してやる……ッ!」
    「ちゃんと押さえてるから大丈夫だって。来いよ」ベジットは膨れ上がったシッポを掴み、逆立った毛を撫でつけるように根元から扱いた。ぐっと小さな呻きが漏れる。隠すものがなくなって、赤い尻が奴隷たちに晒される。「もっとそばで見ろって。次脅された時、この格好思い出して笑ってやれ」
     ブロリーは絶叫に近い声を上げた。
    「ふざけるな! う゛ぅッ!?」
     平手打ちの音が再開する。骨にまで響く苛烈な力が休みなく襲うが、もはやブロリーにとって痛みなどどうでもよかった。先ほどまで顎で使っていたザコ共になす術なく弄ばれている姿を見られる屈辱の方が耐え難い。親にさえこんなやり方を許したことはないのに。
     ブロリーは床の水を蹴散らし懸命に逃れようとするが、それを嘲笑うかのように相手はシッポを引いて尻の穴まで見える角度に腰を持ち上げさせると、右に左に尻肉を打ち据える。拒絶の声を上げながら腰を振るが、そのたび萎えた陰茎が揺れるばかりだ。ふと、小さな笑いが奴隷たちから漏れた。面白がっているというよりは、恐怖と混乱が昂じて漏れたというような、ヒステリックなクスクス笑い。実際、全員の目は暗く、ここではないどこかへ視線は据えられていた。それでも部屋中に広がっていく笑い声に、ブロリーの顔はどんどん赤黒く染まっていく。
    「うッ……! ぐ、ぐうぅ……!」
     額と首筋には血管が太く浮き上がり、鋭角に曲がった指が床にひびを入れる。息が乱れ、激情に体中が震えだす。それでも踏みつける足をどかすことはできなかった。
    「あらあら」
     ベジットは笑いに包まれた部屋を見渡すと、ひと際派手な音を立ててブロリーのシリを打ち据えた。笑い声が大きくなる。もう一度平手を叩き込む。正気でない笑いが混じり始める。そこで閃いて、ベジットは自身の両手を強く打ち鳴らした。魔法が解けたように奴隷たちは笑い止んだ。ちょっとした狂気に足を踏み入れようとしていたのが信じられないのか、再度呆然とする奴隷たちに向けて、ベジットは穏やかに問いかける。
    「場所を移したいんだが、落ち着けるとこあるか? できれば死体の乗ってるベッドがない部屋がいいな」
     一瞬の間の後、「それなら……」と提案されたのはパラガスの部屋だった。ベジットは早速ブロリーの頭を掴み、布一枚も羽織らせず廊下を引っ立てていく。石畳に濡れた足跡が点々と残り、残された奴隷たちはおずおずとそれを追いかけた。唯一案内のため先導していた奴隷がひとつのドアを開き、ベジットに頷きかける。室内を覗き込んだベジットは思わず呆れ声を漏らした。
    「まったく、いい趣味してるぜ……」
     じめっとした石造りながら家具調度品は整っており何なら宮殿の中でもっとも居心地がよさそうな部屋だが、パラガスはさらなる快適さを目指したらしく、大きなベッドには女体の異星人が数人待っていた。みな美人でサイヤ人に近い見た目だが耳の形や肌色がそれぞれ異なっている。寄り添う女体の中心にブロリーを放り投げると、彼女たちは悲鳴を上げて逃げ出した。出入り口に駆け込んできた体を受け止めて、奴隷たちが「大丈夫だ、平気だ」と宥める。「もう大丈夫だ。あの人は……」何なんだろう、と奴隷たちは残らず絶句した。疑問が背中に集まるが、ベジットは振り返ろうともせず部屋に足を踏み入れるとブーツのままベッドに乗り上げた。ブロリーの顔を跨ぎ、体を二つに折って瞳を覗き込む。ブロリーの瞼は小刻みに痙攣していた。目の下は赤く、息遣いは荒い。
    「どうしてあんなことした?」
    「あんなこと?」ひび割れた声が応じる。
    「弱えやつを殺したりいためつけたりしたことだよ」
     途端にブロリーの頬に笑みが浮かんだ。水滴の乗った髪が、口角が動くのに合わせて黒くうごめく。
    「くだらん。奴隷を好きに扱うのは当たり前だ」
    「奴隷をかわいがるやつもいると思うけど……」
    「クズどもに憂さ晴らし以外の使い道があるのか?」
    「へえ?」ベジットの片足がブロリーの肩に置かれる。
     みし、とベッドが沈み、ブロリーの眉がわずかに寄る。
    「じゃあオレも憂さ晴らしさせてもらおうかな。とびっきりのクズが目の前にいるもんな」
     見せつけるように拳を握ると、ベジットはブロリーの顔面にパンチを叩き込んだ。呻きが上がり、ベジットが腕を引くと同時に赤い糸が顔と拳の間をつなげる。ベジットはすぐに二撃目を降らそうとはしなかった。殴られた反応を窺うようにじっと相手を見下ろす。真っ黒な瞳孔が丸く広がってブロリーを映す。そうして相手が怯む様子もなくにらみつけてきたのを認めると、瞼を狭めて笑みのようなものを作った。
    「あっはっは!」
     本人は爽やかに笑ったつもりだったのだが、周囲には全くそう見えなかった。
    「こ、こいつもダメだ! 逃げろー!」
     様子をうかがっていた奴隷たちが一斉に回れ右して走り去る。
    「ええっ?」
     ベジットはぎょっと顔を上げて、今度ははっきりと苦笑を浮かべた。砂埃を残して逃げ去った奴隷たちを見送り、「まあ、いいか……」とあんまりよくなさそうな調子でつぶやく。
    「なあブロリー、ずいぶん悔しそうじゃねえか」
     ブロリーは答えず、顔半分を真っ赤に染めたまま視線をきつくする。ベジットは肩に置いていた足を上げ、くるりと反転してベッドに腰かけた。
    「お前の力はわかったからもう逃げてもいいぜ。このオレの脅威にはなりそうもない」
    「……」
    「これに懲りたら宇宙の片隅で小さくなって生きていくんだな。親父さんと一緒に」
     途端にブロリーの感情が爆発した。圧倒的な力の差を忘れてとびかかる。
    「ふざけるな!」
     ベジットは振り向きもせず裏拳を当てた。再びベッドに沈むブロリーを、やはり一瞥もせず血の付いた手の甲をシーツに擦り付ける。
    「一生ってわけじゃねえよ。……実はオレ、余命六ヶ月なんだよな」
     それはもちろん仲間が集めたドラゴンボールが使えるようになるまでのリミットなのだが、ブロリーには知る由もない。ベジットも教える気はない。
    「六ヶ月こそこそ隠れてりゃ後はお前の天下ってわけ。ありゃ、納得いかない? 美味しい話だと思うけどな」
    「ふざけるな……」
     巨体がよろよろと起き上がる。白い手がベジットの肩口をつかむ。
    「いきなり現れてわけのわからんことばかり言いやがって……!」
    「言うほどわけわかんねえかなあ? お前をぶっとばしたのは気に食わないからだし、余命六ヶ月ってのは事実を言っただけだぜ?」
    「違う! きさま……どういうつもりだ! 何のためにそんな話をする!」
     ブロリーは次の瞬間、目の前のふざけた男を掴む自分の手がひしゃげたような錯覚を覚える。実際は、目にもとまらぬ動きでベジットがブロリーの手を掴んだだけだった。
    「退屈なんだよ」
     ベジットはシンプルに答えた。口元の微笑はぞっとするほど酷薄で、それなのにブロリーを射抜く瞳は純粋と思えるほどまっすぐだった。
    「オレは生まれた時から最強だからどんな人間もオレについてこれない。戦いがなくなったら生きてても死んでるような気分だ、じゃあ自分で生きがいを探すしかないよなって。わかるか?」
     強すぎて誰も相手にならない。戦うために生まれたのに戦うことを望まれてない。倦怠感と諦念が、うっすらとした絶望としてただ目の前に浮かんでいる。そんな人生。
     わかるか? とベジットは重ねて言った。ブロリーは答えなかった。どんな返事も、自分にとって胸糞の悪い結果になりそうな気がしたからだ。しばしの沈黙の後、ベジットは笑った。「まあいいさ」
    「なあブロリー。お前、今日のことをずっと忘れないって顔してるな。それでいい。オレは寿命までずっと地球にいる、逃げも隠れもしない」
     軽く手首をひねって、ブロリーの手を肩から引きはがし、もう片方の拳を握る。
    「次にお前がオレの前に現れた時、オレの退屈を吹っ飛ばすくらいパワーアップしていたら……今度は直接チュウしてやるよ」
     言って、握りこぶしに唇を当てると、真正面からブロリーに拳を叩き込んだ。
     新しい血が宙を舞う。ベッドが一度、大きくきしむ。
     昏倒したブロリーをしばし眺めて、ベジットは額に指を当て、次の瞬間掻き消えた。まるで元から何もなかったかのように、部屋に残るのは静寂だけだった。
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