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    音羽もか

    @otoha_moka

    書いたものとか描いたものを古いものから最近のものまで色々まとめてます。ジャンルは雑多になりますが、タグ分けをある程度細かくしているつもりなので、それで探していだければ。
    感想とか何かあれば是非こちらにお願いします!(返信はTwitterでさせていただきます。)→https://odaibako.net/u/otoha_moka

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    音羽もか

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    センチネルバース設定の彰冬。バド時代から現在軸まで。センチネルなアオヤギくんとガイドに目覚めたシノノメくんの話。

    #彰冬
    akitoya
    ##彰冬
    ##彰冬センチネルバース

    今はもう引っ掻かないはじめてBAD DOGSとしてイベントに参加したその後。彰人たちがそれなりの歓声を得、同時にそれなりの厳しい評価を得たそのステージから退場したあとのこと。
    観客からは見えない袖まで来た途端に、組んでまもない相棒はがくんと膝を折ってその場に座り込んでしまった。
    「え、おい冬弥……?」
    あまりにも突然の行動に彰人は驚いて声をあげるが、どうやら目の前の彼は声が聞こえていないのか返事がない。彰人もしゃがみこんでみれば、冬弥の顔色は会場の熱気に反して青白く、その息は歌いきったこととは別に不自然に荒い。ぜぇぜぇとした呼吸音は彼の身体の異常事態を告げているようで。
    「どうしたんだよ、具合でも……ん?」
    そして何より。
    「……猫、でいいのか?」
    冬弥の傍らにはボロボロに傷を負ったネコ科と思しき生き物がいた。それはぼんやりと空間に浮かんでおり、実体を持っているとは思えない。
    「ってぇ……!」
    なんとなく気になって触れてみようと手を伸ばすも、鋭い爪に手の甲を思い切り引っかかれた。見れば、思い切り尻尾と思われるものを逆立てて威嚇されている。その尻尾は普通の猫とは異なり、途中で分かれていた。
    つーか、実体はなさそうなのに怪我はするってどういうことだ。じわじわと血の滲む手の甲を抑えて冬弥の方に再度目を向ける。息苦しいのか、自身の手は胸元あたりを掴んでおり、その瞳はぎゅっと強く閉じられている。その場で意識を失って倒れていないのは本人の気力の問題といっても過言ではなさそうだった。こうなっては子供である彰人がひとりでなんとかするよりも信頼のおける大人を呼んだ方がいい。
    「待ってろ、人呼んでくるから」
    「……っ、あき、と」
    「え?」
    その場を離れようとする彰人を冬弥が引き止める。弱々しいけれど、確実なその声に彰人は立ち止まらざるを得なかった。
    MCが次のグループの紹介をはじめている。先程まで自分達が浴びていた歓声が遠くに聞こえるような気がした。
    「……手、にぎって」
    「お、おう……って、そんなんで大丈夫なのかよ、具合悪いなら横になったりした方が……」
    「頼む、から……っ」
    あまりに必死な様子に、彰人は黙って言われるがまま冬弥の手を握りしめる。そうしてしばらくすると、冬弥の呼吸は不思議と徐々に落ち着きを取り戻していった。
    「あれ、君たちまだここにいたんだ」
    「ああ、すみません、もう出ますんで」
    声をかけてくれたライブハウスのスタッフに謝罪し冬弥の様子を再度窺おうとしたところで、そのスタッフは、はたと気が付いたように冬弥を見た。
    「……と、その子、センチネルなんだね」
    「え、センチ……なんて?」
    聞きなれない言葉。彰人には、どうやら横文字らしいということくらいしかわからない。あまり真面目に聞いていない英語の授業に出てきただろうか。いや、似た単語は出てきたような気がするが、そんな言葉は知らない。
    わけも分からず聞き返せば、スタッフはふむ、と少し考える素振りをみせた。
    「東雲くんは関係者じゃないのか、ガイドなのかと思ったけど……。センチネルっていって、生まれつき五感が鋭い人がいるんだ。鋭いってのも、目がいいとか耳がいいってレベルじゃない、数キロ先の情報を見聞きしたり、僅かな感覚の違いに反応したりする。だから、周囲の情報量に耐えきれなくなると、神経に頭や体が追いつけなくなって時折パニックを起こすんだ……ちょうど、そんな風に」
    そんな風、と言われても、彰人の目には冬弥が突然過呼吸かなにか、発作のようなものを起こしたようにしか見えない。しかし、目の前の彼にとっては、それらとは明確に区別ができているらしかった。なんだか少し悔しい。
    それはそうとして今は冬弥だ。理解の追いつかない頭で状況を整理する。
    「冬弥がその……センチなんとかってやつで、そのせいで具合が悪いってことですか?」
    「うん、今は落ち着いてるように見えるし、すぐにゾーンアウトする危険性はなさそうだけれど……負担を考えるなら客席に戻るわけにもいかないだろうし、控えの部屋使っていいよ。ここ出て向こうの……って、東雲くんならわかるか」
    「はい、ありがとうございます……冬弥、歩けるか?」
    ゾーンアウトってなんだよ、また新語かよ、とは思ったが、とにかくヤバいということだろう、とそれ以上聞くことはやめて、だいぶ落ち着いてきた冬弥に声をかける。冬弥はこくりと小さく頷いて、彰人の肩を借りながら立ち上がった。まだ少しふらついてはいるが、歩くことはできそうだ。
    「ちょっとだけ、辛いかもしれねーけど頑張ってくれ」
    「……すまない、迷惑をかける」
    申し訳なさそうにする冬弥に、いいって、と声をかけながら肩を貸しステージ袖を後にする。次のグループは最近伸びているところだし、本音を言えばどんなパフォーマンスなのか見たかったが、仕方がない。同じパフォーマンスは二度とないとはいえ、彼らはまたイベントに出てくれるかもしれないが、相棒の存在はどう転んだってたったひとりだ。

    少し歩いた先の控え室に入ると、中には当然誰もいなかった。柔らかめの椅子が三つほど並んでいるので、冬弥をひとまず適当なパイプ椅子に座らせてから椅子を移動し、そこで横になってもらうことにしよう。そう思って椅子を動かしているとぽつりと冬弥は呟き始める。独り言かと思うくらい小さな声は、どうやら彰人に話しかけているようだった。
    「……うちは代々、センチネルの家系なんだ。母は父とボンドを結んだガイドだが」
    「ちょっと待て、さっきのセンチネルってのもそうだけど、そのガイドとかボンドってのもなんだよ。オレ、何も知らねぇんだけど」
    「そうか、彰人はレイタントなんだな。それで話を聞かされてなかった。俺も、今まで言わなかったし……すまない」
    そういうと、冬弥は簡単に自分達のことをぽつぽつと説明しだした。
    いわく、センチネルというのは先程スタッフが言っていたように、超能力的な五感を有している人のことだとか。けれど、超能力的な五感は精神的、あるいは身体的な負荷が大きいため、普段はシールドというバリアみたいなものを構築していることだとか。けれど、それによる消耗も激しくて、解けてしまうこともあるということや、そしてシールドのないセンチネルは通常一週間もすれば感覚暴走を引き起こし、最悪の場合昏睡、死に至る可能性もあるということだとか。それから、そういったセンチネルの能力を管理できるのがガイドだということだとかも。
    「さらっと言ってるけど、お前、それって放っておいたら死ぬってことじゃ……」
    「そうだな」
    「そうだなって……もっと他にないのかよ」
    まるで他人事だ。そんな冬弥に呆れを隠せないでいると、冬弥は「彰人は、」と言葉を続けようとする。
    「彰人はガイドの素質があるんだろうな」
    「ガイド……というと、あれか、センチネルの管理がどうとかいう」
    「ああ、彰人にはこれが見えているんだろう?」
    そう言って冬弥は自身の傍らにいる猫にみえる、何かよくわからない生き物のようなものを撫でる。それはまるで、ペットにそうしているかのように自然に。
    「そいつ、引っ掻いてきたんだけど」
    「それは……こいつは魂の具現化みたいなやつなんだ……だから、基本的には本人以外触れられなくて」
    「なんだよその摩訶不思議な生き物……」
    ほとんど漫画の世界のような話だ。実態を持たない動物のようなものを冬弥は使役するようにしていて、そんな冬弥はセンチネルという特殊な人間で。
    「それに、彰人のも見えている……これは犬、だろうか」
    「げ、マジかよ……うわ、マジだ」
    信じることが難しい話。そんな現実離れした話だったが、自分もその特殊な人間に分類されているらしい。
    彰人は、いつの間にやら自分の傍らに存在していた犬(のかたちをしたもの)がいるだろう毎日のことにも、そんな受け入れ難い話の渦中に自分もいるということにも、そんな声を漏らさずにはいられなかった。

    ***

    それから二年後。
    今週の土日は、冬弥の親戚の葬式だかなんだかで会えなかった。金曜日にそういうわけで練習に参加できないと話していた冬弥だったが、大丈夫かと尋ねてみれば、冬弥自身も数回も会話を交わしたことがない遠い関係らしい。心配なのは亡くなったその親戚とやらとの関係性だけではないのだが、意に介していないようなので深くつつくのはやめておくことにした。わざわざやぶ蛇を誘う必要性はない。
    そんなこんなで月曜日、登校途中の待ち合わせ場所に立っていた冬弥を見て、やっぱりな、と彰人は金曜日の自分の心配が杞憂でなかったことを確信する。げっそりと疲弊した様子の冬弥が、そこには立っていたからだ。
    「……あきと」
    「ん、ちょっと消耗してんな。緊急性はなさそうだし、ガイディングは学校着いてからで平気か?」
    「ああ、頼む」
    あれから二年の歳月が流れ、冬弥の超能力じみた能力の話だとか、自分の傍らに居座っている犬のかたちをした何かだとか(犬だと思うと無理が勝るので、犬っぽい何かだと思い込むことにした)、そういったものに対しても慣れてきた。
    見れば、冬弥の傍らにいる猫(後に聞いたところ、結局多分猫、とのことらしい)もどこかぐったりとしている。なんなら、こちらは冬弥本人よりもわかりやすい。
    彰人は、冬弥のその便利で厄介な能力を知ってからというもの、うまくそれを制御してやる方法を散々調べてはものにしてきた。ガイディングと呼ばれるそれらの技術は、この二年間で随分と手馴れたものになっていた。

    学校に到着するなり、冬弥の手を引いて人通りの少ない校舎裏に移動する。予鈴まではまだまだ時間があるから大丈夫だろう。
    「葬式って結構人集まってたのか?」
    「いや、家族葬だった」
    「そっか」
    ガイディングには様々な方法があるらしいが、冬弥の場合は五感の中でも特に聴覚が優れているためか、彰人は毎度冬弥の耳を塞いで、自分の声に集中させることで、冬弥をゾーンの状態から呼び戻すようにしていた。今回も同じように、耳を塞いで目を瞑らせ、冬弥に語りかけることから始める。
    「二日間しか経ってないのに消耗激しいけど、なんかあった?」
    「……何も、大したことは」
    「じゃあ大それてねぇことはあったんだろ、教えろよ」
    「何かあったわけじゃない……ただ、よく聞こえてきて」
    「聞こえて……っつーと、声?」
    「……あまり、評判のよくない人、だったみたいなんだ。俺は、挨拶を交わしたくらいの記憶しかないが……それで、」
    そう、冬弥の耳はとてもいい。それは、長年の経験により機械よりも正確な音程を聞き取ったり、僅かな音のブレに気付くという意味はもちろんのこと、センチネルであるため、単純な聴力も人間離れしているレベルで優れている。もっと言えば、五感すべてが色々と規格外なのだが、魂が猫とだけあって、特に聴覚の発達が目覚しいというわけだ。
    だから、拾ってしまうのだ。家族葬程度の狭い式場の話し声なんて、ぜんぶぜんぶ、冬弥の耳は正確に聞き分けてしまう。それどころか、式場の外にいる人達の声ですら聞いてしまう。なんたって、シールドというバリアを取り払った冬弥は、数キロ先の針が落ちる音だって聞き分けてしまうほどなのだから。
    当然、そんな能力を常に開放していれば、冬弥は数日と待たずに精神の方がやられてしまう。だから、葬式の間もずっと、シールドを張っていたはずだ。けれども、それはあくまで程度の問題。やっぱり耳がいいものはいいわけで。
    「相手が死人にならなきゃああだこうだと言えない連中の言い分なんて気にしてんなよ、大体、お前が言われたわけじゃないだろ」
    「……それは、そうだが」
    彰人もそうは言うものの、自分でも、自分とは無関係だとしても罵詈雑言の類を浴びるのは気分が良くないだろうとは思う。無論、それが罵詈雑言ではなく皮肉めいた言葉だったとしても同様に。
    「ほら、ちゃんと目瞑ってろ、いらねぇ情報入るとシンクロに時間かかるから」
    「……あ、すまない」
    彰人の様子を伺おうとしたのか薄目を開けてこちらを確認しようとした冬弥を注意すると、慌ててきゅっと目を閉じた。なんだか、少しだけいわゆるキス待ち顔みたいでドキッとするが今はそれより優先することがある。
    意識を集中させて、自身と冬弥を覆うようにシールドを張る。ぴり、とした緊張感が体に走った。見れば、冬弥は目を瞑ったまま眉を僅かに顰めている。以前尋ねたところ、こうしてガイディングを行う際は、自身の感覚に他者が入り込む心地がするらしい。それが具体的にどのような感覚なのかは、彰人には理解できないが。
    それに、鋭敏すぎる五感に彰人を巻き込んでいるような気がして、彰人になにか起きたらと思うと怖いのだとも話してくれた。実際、ガイディングに失敗するガイドもいるし、その場合のリスクもあるから、その心配も全く的外れではないのだが、心配しすぎではないかと毎度思ってしまう自分もいる。だって、これまでのガイディングでそんな危険なことになったことは一度だってないのだから。
    「ッ、う……」
    「大丈夫だから、オレにしがみついてろ……自分のシールド、外せるか?」
    「……ああ」
    冬弥が常に気を張り続けることで作り上げているそれを外させる。途端、体から力が抜けて、冬弥は彰人に凭れかかった。同じシールドにいるからか、不思議と体重を感じない。この感覚には彰人もいつまで経っても慣れる気がしなかった。
    冬弥がシールドを外すと、彰人の耳に校内の会話が入ってくるようになる。冬弥との感覚を共有した上で同じシールドに入っているため、冬弥の見聞きしている世界の一部を追体験できるようになるのだ。校舎裏にいるのに、そこから建物を挟んだ向こう側の体育館内の声まで拾うことがあって、たまに経験するくらいなら楽しいかもしれないけれど、確かに毎日この調子では疲弊するのもうなずけるというものだった。
    だが、当然これで終わりなわけがない。もちろん、こうすることで常時シールドを張り続けるという緊張状態からは解放されるから、ここでガイディングを終える人もいるらしいが、彰人にはそんな適当な真似はできなかった。
    「今からお前を引っ張り出すから、ちょっと我慢しろよ」
    彰人はそう言うと、さらに感覚の共有を行い、冬弥に意識を集中させてその内面に入り込むようにする。そうしていくと、やがて、ぷつん、と何か薄膜を破るような心地がした。
    「ぁ、う……」
    微かに声を上げ、冬弥は彰人の制服が皺になることにも構わず、回していた腕にギュッと力を入れて、入り込まれる感覚に耐えようとする。
    そうして彰人が入り込んだそこは真っ白な闇だった。それは冬弥の意識の空間。校舎裏にいながら、今の彰人の目に写っている世界はそんな場所だった。他の人の空間を見たことはないから、普通はどんな場所なのかはわからないが、少なくともここはなんだか寂しい場所だと思う。
    しばらく歩いていくと、歌声が聞こえてくる。それは今の冬弥とは違う、子供の高い声。けれど、彰人にはもう何度もこの空間で聞いてきた声だった。
    その声の方向に歩いていくと、小さな子供がひとり、小さな猫と一緒に座っているのが見えてくる。今よりずっと小さいが、それは紛れもなく冬弥だった。
    そう、この真っ白な闇にはいつも幼い冬弥と小さな黒猫がいる。幼い冬弥は大抵は歌っているけれど、たまに眠っていたり、ただぼーっとどこかを見ていたり、猫と何か話をしていたりする。いくら幼い姿をしているとはいえ、幼い頃の冬弥が猫を話し相手にしていたとは思えないから、この冬弥はたぶん、小さい頃の冬弥そのものというわけではないのだろう。
    「よう、また歌ってたんだな」
    そう声をかけると、幼い冬弥は歌を止めてぱっとこちらへ振り返った。それから、ふわりと頬が緩んで、とてて、と彰人の元へ駆け寄ってくる。
    「こうすれば、ここがわかると思ったから」
    「道案内してくれたってことか。ありがとな」
    そういって頭を撫でると、幼い冬弥は嬉しそうに目を細めた。幼い冬弥はこうされることが好きらしい。
    「あきとは、僕が歌ってるといつも見つけてくれる」
    「逆だろ、お前が歌ってるから、オレはどこに行けばいいのかわかるんだ」
    冬弥の歌はいつだって彰人の道標だった。それは二年前に出会った頃からずっと変わらない。そして、今こうして冬弥の意識の内側にいる時ですら、彰人にとって冬弥の歌声は道標になっていた。冬弥の歌がなければ、こんなだだっ広い白の闇の中で、どこにいるとも知れぬ冬弥を探すことになるのだから。
    「……もしも、僕が遠くに行っても見つけてくれる?」
    「ああ、約束する。そもそも、そんなに遠くに行かせる気もねぇけどな」
    「うん。……うん、ありがとう彰人」
    いつも聞いている声が幼い声にダブった気がして、彰人は目を見開く。
    そこにあったのは、もういつもの校舎裏だった。

    「……きと、彰人、大丈夫か?」
    「ん、平気。問題ねーよ、お前は?」
    「ああ……さっきよりだいぶ楽になった」
    ガイディングを終え、互いに不調がないことを確認する。今朝会った時よりも確かに良くなっている顔色を見て、彰人は安堵した。今回もこんな感じで問題なかったようだ。見ればいつも冬弥の傍らにいる猫も、朝のぐったりとした様子から一変して、呑気にのびをしてごろごろと眠り始めている。背を撫でてやれば、にゃあと心地よさそうに鳴いた。
    こちらはこれから授業だというのに、こいつはなんでこんなリラックスしているんだか。いや、これは冬弥の魂そのものらしいから、つまるところ冬弥は授業というものをリラックスしながら受けられているということか? 休まるところがあるのはいいことだけれど、なんだか納得がいかない。
    「彰人のクラスは一限は古典だったか」
    「そうだけど、それがどうかしたのか?」
    地面に置いた鞄の砂を払っていると、突然冬弥が神妙な声でそんなことを尋ねてきた。一体どうしたのかと思えば、真剣な顔をしたまま考え込むような仕草をして続けてくる。
    それは、センチネルであるが故にわかってしまう、校舎内での教師の動きの音だった。
    「足音が……たぶん、今日は予鈴前に先生が教室に来る。クラスの人数分くらい小さめの紙を用意している音も……恐らくだが、単語の小テストがあるんだと思う」
    「げ、抜き打ちとかまじかよ。それに、あの先生チャイム無視して授業はじめるからな……急ぐか」
    「ああ」
    単語の小テストだとか聞いてない。中間や期末と違って、点数が悪くても補習になったりはしないから大丈夫だろうけど(それを言えば冬弥はきっと良くない顔をするので言わないが)。とはいえ、時間を守ってるのに遅刻扱いまではいただけない。
    彰人はそういうと、頷く冬弥と共に昇降口へと駆け出していった。
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