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    音羽もか

    @otoha_moka

    書いたものとか描いたものを古いものから最近のものまで色々まとめてます。ジャンルは雑多になりますが、タグ分けをある程度細かくしているつもりなので、それで探していだければ。
    感想とか何かあれば是非こちらにお願いします!(返信はTwitterでさせていただきます。)→https://odaibako.net/u/otoha_moka

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    音羽もか

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    初夜翌日の同棲設定彰冬。初夜だけあってやることやってる関係だし匂わせる要素も多分にあります。直接的な描写は皆無です。

    #彰冬
    akitoya
    ##彰冬

    春に似ている。「……ん、朝?」
    ゆったりとした調子で起き上がって目を擦る冬弥に、オレは聴いていた音楽プレーヤーを止めてイヤホンを外す。
    「いーや、昼」
    「……それは、随分と寝過ごしてしまったな」
    そういいながら、ふぁ、と小さく欠伸。こんなにぼんやりした冬弥はなかなか見られない。時計はまもなく十一時を示していた。まあ、どうせもうしばらくは休日なのだ。たまにはこんな日だっていいだろう。
    「改めて聞くけど、体調は?」
    「ああ、問題……、……ない」
    訊ねれば、冬弥はこてんと首を傾げて、体を捻って確認しようとする――が、途中でやめて、腰を抑えながら苦い顔をした。
    「なんだよ今の間……めちゃくちゃ腰、庇ってるし」
    「……すまない、あんなに丁寧にしてもらったのに」
    ひどく申し訳なさそうに謝られるが、オレとしてはその発言は昨夜のことをありありと思い出させてしまうので、正直のところやめてほしかった。本人はその気など微塵もなく、至って真面目に言っているのがむしろタチが悪い。
    「丁寧ってお前……あーいや、なんでもねえ。別に、謝ることじゃねーだろ、慣れないことしたんだし」
    「だが……ん、」
    「はいはい。熱とかは……と、まあ、大丈夫だな」
    まだ何か言いたげな冬弥の頭をぽんぽんと軽く撫でて、その手を額に移動する。若干熱っぽいかもしれないが、これくらいなら大丈夫だろう。子供のように扱ってしまったからか、冬弥は複雑そうな顔をしたまま押し黙った。ひょっとしたら、少しだけむくれた様な表情は、拗ねているのかもしれない。
    「腹減ってるだろ、朝飯……っていってももう昼だけど、持ってくるから」
    「それなら俺も、」
    「いいから、そこで待ってろって」
    立ち上がろうとする冬弥にそう言って、オレは部屋を後にする。後ろ手にドアを閉めつつ振り返れば、冬弥は今更ながらに着替えさせたシャツや何とか取り替えて置いたシーツを不思議そうに見つめていた。ベッドシーツはこうなることを見越して二枚買っていた、だなんて知ったら、冬弥はどんな反応をするだろうか。

    ***

    がらんとした室内には、まだいくつもダンボールが残っている。最低限の家具、家電しか用意されていない部屋は馴染みのないものだ。自分の家を持つことを城、と言ったりするが、そうなること、ここはこれから、オレ達の城になるってことだろうか。そこまで考えて、なんだか恥ずかしくなってきて考えるのをやめた。
    「それにしても引っ越して早々は余裕なさすぎだろ……オレ」
    ドアを隔てた向こう側にいるもう冬弥には聞こえていない。オレはぽつりと呟きながら、キッチンへと向かう。アパートの一室は実家よりずっと狭くて、すぐに目的地に着いてしまうのだけれど。
    そう、オレは昨夜、冬弥と初めて最後までした。オレ自身、今でも実感があるようでないような、不思議な感じだ。冬弥と正式に付き合う関係になったのは高校二年の秋頃だから、もう一年半だ。一年半もの間、オレ達は付き合ってはいるけれど最後まで、ということはなかったのだから。
    というのも、今まで、冬弥の家には勿論行けなかったし、オレの家にはたいてい誰かいた。ホテルは年齢が許さなかったし、それ以外もまあ、色々考えてはみたけれど、真面目を絵に描いたような冬弥が納得するようなものは思い浮かばなかったのだ。
    そもそも冬弥の性に関する知識は保健体育の授業、あるいは小説止まりだ。小説止まりの知識というのは創作物であって、リアリティのあるものではない。本人の性格上、オレから何か言えばそれはもう、レポートにまとめましたと言わんばかりにきっちりと調べてくるだろうとは思う。けれどそれは、なんというか、違うなと思った。それをさせてしまうのは、オレのペースに冬弥を巻き込むことに他ならず、多分どこかしらで、冬弥は無理に受け止めようとしてしまうだろうなと、上手くは言えないけれど、そんな確信があったし、オレはそれが嫌だった。冬弥が無理なく受け止められるペースでいたかったから。
    そんなこんなで気が付けば月日が経過していた。オレ達は高校を卒業して、それぞれの進路に進む。そして、そんな中でもオレは冬弥を、冬弥はオレを、変わらず隣に置くことを選んだ。二人で選んだこの部屋は、その第一歩だった。
    だからだろうか、ついうっかり、引越し当日に、オレは今まで密かに考えていた欲を冬弥に打ち明けてしまった。意外にも冬弥は動揺したりはしなかった。いや、いつもそんな分かりやすい動揺は見せないが。
    冬弥は少し考える素振りを見せたあと、わかった、と頷いてみせた。それから、眉を下げて「俺でよければ」とあっさり、オレの欲を許したのだった。まあ、ベッドがないので当日すぐにはさすがに行為に至れなかったのだが。

    朝食のつもりで用意していたベーコンを添えたスクランブルエッグを温め直して、その間にパンを焼く。出来たての美味しさこそないが、そこそこ食べられるだろう。昨日の昼買ったばかりのコーヒーメーカーはついさっき使ったのだが、もう一度働いてもらうとする。一式をトレーにのせて戻ると、冬弥は大人しく、これまた昨日組み立てたばかりのベッドの上で待っていた。
    やはり体の方がそれなりに辛いらしく横になっているようだったが、ドアを開ける音に慌てて体を起こそうとする。それから、何に対するどんな言い訳のつもりなのか、無言で視線が右往左往しだすものだから、おかしくて思わずぷ、と小さく笑ってしまった。
    「わ、笑うな……」
    「わりいわりぃ。でも、おかしくて」
    別に、家の中で少しくらい気が緩んでしまっていても誰も何も咎めないというのに。
    「おかえり、彰人」
    「……おう、ただいま」
    サイドボードにトレーを置いて、「熱いから気をつけろよ」と注意しつつ、コーヒーの入ったカップを手渡す。カップは冬弥が実家から持ってきた数少ないもののひとつだった。どうやらお気に入りらしい。
    「何から何までしてもらってばかりで申し訳ないな……」
    「オレがしたいからいいんだよ」
    それに、してもらってばかり、というのはこちらだって同じだ。冬弥はそのことに自覚があまりないようだけれど。
    「それじゃあ、いただきます」
    「ああ、召し上がれ」
    しっかりと手を合わせて行儀よく挨拶をして、食事に手をつけはじめる。一口食べて、それからなぜか目を輝かせながらこちらを見た。なんなんだ、と思いきゃ、待ったをかけるように手で合図をしてくる。誰も急かしてねぇからゆっくり食べろよ、なんて思った瞬間。
    「彰人、美味しい……!」
    やたらと弾んだ声で、そんなことを言い出した。
    「いや、スープはインスタントだし、あとは基本朝作ったもんあっため直しただけ……まあ、お前がいいってんならいいけど」
    多分お前が食べてきた家の料理の方が数百倍は豪勢だっただろ、という言葉は呑み込む。多分、冬弥がいいたいのはそういうことではないのだろうし、さすがに野暮だろう。
    「で、今日はどうする? まだ足りないもんとかあるから買いに行ってもいいけど、お前が辛いなら、休みはまだ二日あるし今日はゆっくりしても……」
    「そんなにやわじゃない……さすがに動ける」
    「動けるかどうかを基準にしたいんじゃなくて、お前がゆっくりしたいかどうかを基準にしてえの、わかれよ」
    こっちだって動けるかどうかで聞いてなどいない。というか、さすがに動けることくらいはわかっている。ただ、動こうと思えば動けるが体がだるいから動きたくない、みたいなことだってあるだろう。なんでこいつはその部分がすっぽり抜け落ちているんだか。
    「それ、なら……少し、だるいから今日は家にいたい」
    ゆったりとした時間を楽しみながら、好きな音楽を一緒に聴いて、近所迷惑にならない程度に一緒に歌って、晩御飯は一緒に作って、一緒に食べて、それから一緒に眠りたい。そう言われてしまえば、断る理由なんてどこにもないだろう。
    「……だめ、だろうか?」
    「ダメならはじめからどうしたいかなんて聞かねぇよ」
    というか、それは当たり前のことにする予定なんだから、今後はリクエスト内容なんかにするな。そう言うと、冬弥は嬉しそうに花をほころばせながら微笑むのだった。

    ***

    そうして冬弥リクエストのゆったりとした一日が過ぎ、もう日付も変わろうかという時間になっていた。
    ゆったりとした、とはいえど、家の中でもそれなりにやることは色々とあって、結局はバタバタと慌ただしくなってしまった。そうして、ようやく落ち着いたと思った頃にようやく、あっという間に過ぎてしまった時間に気がつけるもので。
    男二人じゃさすがにあまり余裕のないベッドに、詰めるようにして抱き合いながら横になる。昨日の夜は色々と(本当に色々と)あったから、それどころじゃなくて気にしていられなかったが、改めて見てみると冬弥が近い。なんというか、瞬きするときの睫毛の音まで聞こえてきそうな距離だ。
    「彰人の、心臓の音が聞こえるな」
    「うるせえ、聞くなよ」
    「ふふ、聞こえてしまうんだから仕方ないだろう?」
    からかうような冬弥の声色に、いたたまれなくなってしまう。というか、なんでこいつはこんな涼しい顔してるんだ、オレばっかり余裕がないみたいでずるくないか。
    そう思うオレには構わず、冬弥は昨日の行為のあとのように、オレにもっと身を寄せてきた。猫みたいに、自分の頭をオレの胸元にぐりぐりと押し付けてくる。多分、甘えているつもりなのだろう。どうやら、冬弥はこれが気に入ったらしい……オレの心臓はもたないが。まったく、勘弁してくれ、と思うのもつかの間、腕の中からあまりにも穏やかで、楽しげな笑い声が小さく聞こえてきて、もぞもぞと少しだけ腕を動かして冬弥の方を見た。
    「本当お前、どうしたんだよ」
    「いや、こんなに幸せだと、幸せすぎて、明日死んでしまうかもしれない、と思ってな」
    「何言ってんだ、明日も明後日もその先も生きててもらわなきゃオレが困る」
    「彰人が困るなら、簡単には死ねないな」
    「……当たり前だろ」
    別になんてことはない例え話だ。冬弥にも妙な意図はないだろう。けれど、どうしてもその言葉どおりに冬弥がどこかへ消えてしまうのが嫌だった。冬弥は相変わらず機嫌がいいようで、オレの存外真剣な声色にも微かに笑い声の混じった声色で返す。どうにも、自分が情けなくなってきて、話を逸らした。
    「……あのさ、冬弥。オレさ、ずっと冬弥のことは一面に新雪が積もった場所みたいだって思ってたところがあったんだ」
    「冬、だからか?」
    「はは、それもあるかも」
    出会ってまもない頃、冬弥の名前が冬だというのに、本人は冬生まれではないことに首を傾げたことがある。案外寒がりなところをからかったこともあった。けれどそうじゃない、それだけじゃなく、冬弥のことを新雪のようなやつだと思っていた。
    誰にも踏み荒らされていない、踏み入れることを許そうとしない、そんな一面の雪原。
    「でも、それはなんか違うなって思うようになって」
    「ふ、それなら今は何なんだ?」
    「……やっぱお前、絶対笑うから言いたくねえ」
    例えるならそれは、積もった雪が溶けだして川に注ぐような。根雪の下で待ちわびる蕾のような。そういうもの。

    そう、例えるなら。

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