触れたその後は ぴくんと、目の前の耳が跳ねた。触れていいかとたずねてから、まるで林檎みたいに真っ赤になったスオ~の顔はめちゃくちゃ可愛い。絹みたいなサラサラの赤髪によく映える、白くて長めの耳が頭の上から生えているこの光景。どう見ても非日常的だけれど、これも音楽の女神様からの贈り物かもしれない。そう言ってこの突飛な状況に理由を付けようとしているだけかもしれないけど、まあ正直今はどうでもいい。
「……いい?」
「……はいっ……」
ぎゅっと目をつぶって、おれの手が触れるのを待ってるスオ~。一応ただ耳を触ると言っただけなのだから、やましいことなんて何もないはずなのに。それなのにそんな真っ赤になって、おれのお願いをきこうとしてくれて、おれにすべてを預けようとしてくれるその優しさに胸がじんわりあったかくなる。表に出さないだけで、ちょっとヨコシマな気持ちもあるけどさ。
ようやく意を決して、ぴんと立った耳へと触れた。あったかい。ちゃんと動いているんだから感覚もあるんだろうけど、温度も感じるということは血も通っているということだ。聞こえるのかな? 人間の耳が消えたわけではないので耳が四つもある状況なんだけど、聞こえすぎたりするんだろうか? おれみたいに耳が良くなるとか? それはちょっと大変かもしれない。
ふわふわの毛は真っ白で手にくっつくような感じもない。耳の奥っていうか、中っていうか、そこはほんのりピンク色だ。ここまで触ったらやっぱりくすぐったいのかな。外側だけ触れていたけれど、そっと指を耳の内側へと滑らせた。
「ひゃっ」
「あっ、くすぐったい?」
「なんか……ぞくぞくします」
ええ……なんだそれ。そんなえっちな答えある? なんかおれまで変な気持ちになりそうなんだけど。
うさぎさんの耳が突然生えたって焦ったスオ~がおれのいた弓道場に来て、耳を隠したいって言うからおれのパーカーを貸してやって、フードで隠れちゃった耳をちょっと触りたいって言ったのはおれで、今こうして触れているわけだけど。誰も来ない上に二人っきりで、真っ赤な顔でおれが触ることを受け入れてくれているスオ~が変な声を上げちゃったらさ。もうしょうがないって。
「じゃあさ、」
「え、っ」
手で触れていた箇所に顔を近付けてちゅっと唇を落とした。もちろん腰はがっちりホールドしてある。もう逃げられない。おれの可愛いうさぎさん。
「舐めたら、どうなるかな?」
耳に吹き込むようにそう言うと、髪みたいに真っ赤に染まった人間の方の耳が見えた。腕の中から逃げ出す様子はないし、このままでもいいってこと? それとも、おまえも期待してた?
「わかり、ません」
「そっか。なら、やってみよっか」
期待に濡れた菫色がおれを映した、それが合図。耳よりまずは、ほんのり染まった唇へとキスをした。