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    代々木 猫草

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    代々木 猫草

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    Twitter企画【天獄城塞の天使たち】様参加キャラ、カンパネラの過去

    ナイチンゲールの独白 天界の平和と平穏のため、彼女は造られた。
    歌い清め、皆の心に安らぎを与えるために造られた。
    この世から争いを無くすこと、それが神の啓示である。
    歌うことこそ神の望み、民の望み。望みを叶える役目を誇りに思っていた。

     彼女は歌った。小さな喧嘩であっても争いは争いであると、彼等の心を宥めた。
    ──互いに譲歩し、相手の意思を尊重するようになる。
    彼女は歌った。他者を傷付けること、他者に傷付けられることを不安に思う者達の安寧を願った。
    ──安心して眠ることができると彼等は喜び、また歌を求めるようになる。
    彼女は歌った。皆が競争や、それに伴う向上を止めても歌った。
    ──全てが停滞する。

     振り返れば、起き上がる気力もなく涎や排泄物を垂れ流し怠惰に横たわる生き物が折り重なっている。
    心が穏やかになりすぎた者達は一様に生に努めることなく、本能すら機能せず自堕落に死を待つだけの存在と成り果てた。
    例外は元から心が不安定な者達だけ。
    もう一度歌を! 安らぎを! こんなに不安な中では恐ろしくて死んでしまう!
    服の裾を引き、脚に縋り付き、歌うよう促してくる狂った中毒者達。
    どうすればいい、どうすれば彼等にとって最善だ。
    あ、と溢れた声、髪と服の擦れる音、ざりざりと足を引きずって後退ったところで、彼等は満足気に微笑み眠りに落ちる。
    気付いてしまった、力が強まっている。
    歌うという行為に限定されず『自分が奏でた音全て』が効果の範囲内へと。
    力を使い続けた結果強化されたか、はたまた暴走か定かではないがこれは非常にまずい。
    歩く毒、耳が聞こえる限り侵される毒の塊、それが今の自分。
    ああ、なんておぞましい! 悪臭と狂気を背に半狂乱で逃げ出した。
    神よ、これが貴方の望んだ平和なのですか。

     人混みから離れた小屋に閉じ籠り、部屋の隅で膝を抱えて蹲る。
    サラサラ流れ落ちる自慢だった銀糸の髪をまとめ上げ、発する音を減らした。
    それでも少しの身じろぎで起きる衣擦れが気になると、恥じらいを捨て服を脱ぎ下着一枚の裸同然の姿になる。
    そして息遣いにすら恐怖を覚え、首を絞めては咳き込む悪循環。
    何度目かの自殺未遂の後、横たわった目線の先に落ちていたラジオを拾い上げ適当な局に合わせた。
    今週のヒットチャート。けたたましいギターとドラム、激しい歌声が響き渡る。
    やはり音楽だけは味方でいてくれる、今もこうして自分の存在を掻き消してくれるから。
    けれど、それで罪の意識が消えるわけではない。
    彼等はどうなってしまうのだろう。食事も摂らず衛生を保つこともない、餓死か病死かの二択……実質一択だ。
    全て自分が悪いのか? ただ歌えと命じられたから歌っていただけなのに。
    もっと早く止めることもできたのではないか、従うことしか教えられていないのにどうやって?
    堂々巡りの責任転嫁、コンコンというノック音が邪魔をする。
    恐る恐るドアを開く、できるだけ静かに落ち着いて。
    現れた青年は耳が聞こえず、影響を受けないからとわざわざ派遣されたらしい。
    ほっと息をつくのも束の間、渡された被害状況を記した手紙を読み崩れ落ちる。
    定期的に歌を聴いていた164人。内、中毒者は37人。
    ……泣いてはならない、罪をしっかり見据えろ。
    手紙の裏に自分の処遇を書き尋ね、青年を帰す。
    次の日、与えられた返事は“待機”の二文字であった。

     あれから45年程が過ぎた。
    薄暗い小屋の中、食事と着替えを運んでくる青年と顔を合わせるだけの代わり映えのない日々。
    違うことといえば日替わりでラジオから流れる音楽と、伝えられる被害者達の現在のみ。
    どうやら時間経過で力の影響は薄れていくらしい。服を着替えて食事を摂り仕事をして眠る、そんな当たり前が帰ってきている。
    喜ばしい反面、皆が全快したらどう償うべきかと贖罪の気持ちが脳裏をよぎった。
    何もしない方が良いことは分かっている、造られた平和を彼等は求めていないことも。
    それでも、皆のために何かできることはないかと無限にある時間を思考に費やす。
    昔から、音楽以外のことは何をやってもダメだったくせに。その音楽すらも役に立たなくなってしまったくせに。
    結局できることは何もない、待機という指示に従うことしかしてはならない。それが皆の望みなのだから。

     ついに、全員が元の生活を送れるようになったと知らせが届いた。
    そして、その日を境に青年は二度と現れなかった。
    決まった時間に誰も訪れないのを不思議に思い、外を確かめる決心をする。
    明るさに目が眩む、何度も瞬きをして慣らしていくと飛び込んできた光景は。
    ──何もなかった。誰もいなかった。
    もぬけの殻の町、劣化した家は衝撃を与えれば今にも崩れそうだ。
    久しく歩いていないせいか脚が鉛のように重い。よろよろと立ち上がり踏み出そうとして、転んで、堕ちた。
    生まれ育った地が遠ざかっていく、風が雲が下へ下へと身体を殴るように押し込んでいく。
    「神よ、神よ、なぜお見捨てになられたのですか」
    そう問うたところで、神はこう答えるでしょう。
    『不用品をゴミ箱に捨てることと同じ』
    『救国の英雄を魔女と称し火あぶりにして処分することと同じ』
    平和を成せなかった失敗作に居場所はない。だから、神も天使も見捨てた。

     タダで転んでやるものか!
    堕ちて、救われ、地上を学ぶ。ようやくの自我の目覚めだ。
    他者の言いなりではなく、着る物も食べる物も奏でる音楽も、誰を愛するかも自由だと知った。
    天界での出来事が忘れられるわけではない、胸が痛まないわけでもない。
    けれど、自分のための幸せを覚えてしまったから。
    いつか運命が見つかって天に還る時が来たら、愛しく幸福な思い出の中で笑って朽ち果てたい。
    その生涯で温かな夢を見せてもらう代わりに、いくらでも愛して尽くしてみせよう。今度は、自分の意思で。
    愛しい街に、美しい夜に歌おう。蔓延る巨悪の上でダンスしながら。
    天上の光に焼き焦がされ、無惨に枯れるその時まで。




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