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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    ★男子高校生な赤安にイチャイチャしてほしくて時系列(主に赤井の年齢)を操作してます
    ★👻ちょっとだけでます
    ★いろんな赤安を楽しめる方向け!

    ##赤安
    ##降谷くんと赤井先輩

    うちのクラスの降谷は赤井先輩と同棲してるらしい④呪いのAV 胸の上に暖かなものが乗る気配がして僕は夢の中からゆっくりと浮上していった。
     すごく長い夢を見ていたような気がする。部活の後にバイトがあったから疲れていたのだろうか。
     うっすらと目を開けるとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。そうだ、僕は赤井の家の東向きの部屋を借りて住んでいるんだっけ。じゃあ今僕が感じている温もりはもしかして……赤井!?
     僕は一気に目が覚めて、昨日の夜の出来事がフラッシュバックした。赤井に付けられたキスマーク、僕にキスされて赤くなった赤井の顔。またしたい、そう思ったのが僕だけじゃなかったとしたら……。
    「だ、だめっ!朝からそんなっ……ん?」
     赤井の頭に触れるはずだった僕の手はスカッと宙を掻いた。何もない?いや、何かあるのは間違いない。僕が温もりの正体を確かめるために上半身を起こすと「アンッ」という子犬の鳴き声が聞こえて来た。
    「なんだ、ハロか……」
    「アン、アンッ」
     ハロは僕の上で小さな尻尾を振って僕を見つめていた。
     彼と出会ったのは一週間とちょっと前のこと。その時のことを思い出すと今でもぞっとしてしまうけど、簡単に説明するとハロは僕が迷い込んだ神社で祀られていた神様なのだ。
     その後、調べてみたところ、あの神社は再開発のため移転が決まっていることがわかった。古い社のまま放置されているように見えたのはそのせいだった。
     赤井は、古くなって綻びが生まれたところに良くないものが入り込もうとしていたのだろう、と言っていた。
     その良くないものは赤井が退治してくれたのだが、狙われている神様を放ってはおけないと僕は赤井に家で匿いたいと頼んだ。
     赤井に僕にある交換条件を提示して、僕がそれを受け入れたので、犬の神様・ハロはこうして僕のもとに現れるようになった。といってもハロは神社を守らないといけないので、あっちにいったりこっちに来たりしているようだ。
    ちなみに、ハロという名前は神社の波麻呂神社からとって僕が付けた。神様にあだ名をつけるなんて罰当たりかと思ったけど本人(犬?神?)は気に入ってくれているようで、僕の上で嬉しそうに尻尾振っている。
     問題なのはハロを匿うにあたって赤井から出された条件のほうなのだ。
    「おはようございます……」
     僕が恐る恐るリビングに行くと赤井の姿はまだなかった。
     赤井は宵っ張りのようで朝はいつも僕より遅い。僕はホッと胸を撫でおろして昼の弁当作りを開始した。といっても特大のおにぎりにウィンナーと鮭を入れるだけ。昨日の夜、僕が実は料理が得意ではないことが赤井にバレるまではちゃんとお弁当箱に詰めていたけれど、バイト先の女将さんやヒロの口から僕が料理が不得意だということが赤井にバレてしまったので料理ができるふりをするのはもうやめた。
    「おはよう、降谷くん……」
     眠たげなテノールが聞こえて、僕の背中に緊張が走った。昨夜赤井がつけたキスマークが声に反応したように甘くうずく。それを打ち消すように僕はテニスウェアーの上から胸をごしごし擦った。
     なぜ赤井が僕にキスマークを付けたのかと言うと、そもそもはハロを家で匿うための条件がそれだったのだ。一日十回のキスをすると約束をしてから十日近くなるが、今のところ一度も破られていない。
     だから、きっと今日も……。
    「おはようございます……」
     朝一のキスはどこにされるのだろう。昨日は手の甲だった。まるでおとぎ話の王子様のように赤井は僕の手を取って、ちゅっとキスを落としたのだ。
    「やあ、ハロ。おはよう」
    「アンっ」
     あ、あれ……?キスしてこない?
     ハロは最初は警戒していたが、赤井にピンチを救われたことで心を開いたようで、今では本当の愛犬のように赤井の足元をチョロチョロとまとわりついている。
     それはいいとして。一体どうしたのだろう。赤井がこんな風に起き抜けにキスをしてこないのは約束してから初めてだ。体調でも悪いのかと思って顔を見ると、いつも通りクマはあるものの、昨日と変わったところはないように見えた。
    「どうした?」
    「あ、いえ、コーヒー淹れるけど飲みます?」
    「ああ」
     赤井はそう言うとダイニングにある椅子に腰を下ろした。手にはタブレットを持っている。きっと今日の予定を確認しているのだろう。
     赤井は心霊絡みのバイトをしている。僕もまだ詳しくは教えてもらっていないのだが、報酬はいいけれど不定期で、メールで依頼があると出掛けていくスタイルのようだ。
    「はい、どうぞ……」
     僕はわざとゆっくりと赤井のマグをテーブルに置いた。
     昨日はコーヒーを置く僕の手を掴んでキスをしたというのに、赤井はタブレットに目を落としたまま「ありがとう」と言った。
     その後、朝食を食べている間も、歯を磨いている間も、赤井は僕にキスをしてこなかった。
     飽きてしまったのだろうか。
     中途半端に火をつけておいてそれはないだろう、と思うけど、そんなことを言ったら僕がキスされたいと思われそうで言えなかった。
    「君は今日の予定は?」
    「今日はテニス部の練習が長い日なのでバイトはありません。あなたは?」
    「俺はバイトだ。遅くなると思うが」
    「わかってます。ちゃんと戸締りしておきます」
    「いや……ああ、頼むよ」
     今日の赤井はちょっと歯切れも悪い。何か思うところがあるのだろうか。昨夜のことをやりすぎたと思っているのかもしれないな。だって、恋人どうしでもないのにあんなこと……。
     考え出すとまた体が熱くなってしまいそうな気がしたので、僕は特大おにぎりを持って赤井の家を後にした。


    「失礼しました」
     放課後。テニス部の練習を終えた僕は、職員室に更衣室の鍵を戻しに来ていた。こういう後片付けは全て一年生の仕事なのだ。一緒に帰る同学年の部員たちの声が職員室の外から聞こえている。
    「ああ、降谷」
    「はい?」
     名前を呼ばれた僕が振り返ると副担任の先生が僕のほうへと歩いてきていた。
    「なんでしょうか?」
    「少し聞きたいことがあってな……西島先生のことなんだが……」
     西島先生というのは僕のクラスの担任で、僕が赤井の家で暮らすことになったきっかけは先生の紹介だった。その先生はここ数日、体調不良で学校を休んでしまっている。
    「先生に何か……?」
    「実は……生徒の君にこんなことを話すのもあれなんだが……おかしな噂が出回っていてな」
    「おかしな噂?西島先生に纏わる噂と言うことですか?」
     僕がそう言うと、副担任の先生は困り顔で頷いた。
    「そうなんだ。生徒の一部が『先生は呪われた』なんて言い出してるんだ……クラスで何かあったのか?」
    「ええ!?いえ、特には……」
    「そうか……。ただの噂だとは思うんだか、休み明けにそんなことを言われたら西島先生も驚くだろうと思ってな……それに」
    「それに?なんですか?」
     僕が尋ねると先生はあたりの様子を伺った。職員室の中はもう帰宅した先生のほうが多く閑散としていて、僕たちの様子を気にしている職員は誰もいなかった。
    「西島先生の様子が少し妙なんだよ……」
    「ええ?」
    「ここだけの話にしてほしいんだが……」
    「はい、もちろん」
    「どうも連絡が取れないらしいんだ」
    「えっ……?」
    「体調不良で数日休むと書かれたメールは届いてるんだが、電話をかけても繋がらないらしい。たまたま病院に行ってて電源を切っていた可能性もなくはないんだが……」
    「そうなんですか……」
    「それに加えて『呪われてる』なんて噂を耳にしたもんだから気になってな」
    「わかりました。もし、噂の出所がわかったら先生にお知らせします」
    「話が早くて助かるよ。頼んだぞ」
    「はい」
     僕はもう一度「失礼しました」と言って職員室を出た。
    「ああ、降谷!遅かったな」
     そう言ったのはテニス部の部員でクラスメイトでもある田中だった。
    「うん、ちょっと副担任の先生と話してたんだ。待たせてごめん」
    「それはいいけど。また何かあったのか?」
     また、というのは僕が盗難被害にあっていたことを指しているんだろう。僕は苦笑して「僕じゃないよ」と言った。
    「西島先生。ずっと休んでるからどうしたのかなと思って」
    「ああ、たしかになあ。質の悪風邪でも貰ったのかなあ」
     田中は『呪い』の噂を知らない様子だ。僕だけが情報に乗り遅れているというわけではなさそうだった。
    「西島先生といえばさあ」
     そう言ったのは別のクラスのテニス部員だった。
    「西島先生が呪われてるっていう噂、聞いたか?」
    「えっ?呪われてる??」
    「ああ。映研のやつから聞いたんだけどさあ」
    なるほど。話の出所は西島先生が顧問を務めてる映画研究部だったのか。先生はかなりの映画好きで、学生時代は自主製作映画を撮って賞をもらったこともあったのだと、何かの話の延長線で聞いたことがあった。
    「なんでも、知り合いから借りたDVDがやばいヤツだったらしくて、それで寝込んでるんだってさ」
    「そんな馬鹿な!」
     田中はまるっきり信じてないようで、それを話した友人も「だよな」と苦笑まじりの相槌を打っていた。
     僕だって赤井と出会ってなかったら、同じように笑い飛ばしていただろう。でも今の僕は実際に幽霊事件に二回も遭遇している。その両方で赤井が僕を助けてくれた。
     西島先生の呪いの件も副担任に話すよりも先に赤井に相談してみたほうがいいかもしれない。
    そんなことを考えていると、突然「赤井先輩ってさあ」と田中が言った。心の内を見透かされたのかと慌てて田中を見ると、そんな反応をした僕に彼は驚いていた。
    「な、なんだよ」
    「あ、ううん。赤井先輩がどうしたんだ?」
    「先輩ってもしかしてクリスチャン?」
    「……え?」
    「この前、うちの近くの教会で赤井先輩っぽい人を見かけたんだよ」
    「へえ……いつ?」
     田中が赤井を教会で見かけたのは赤井がバイトで帰りが遅くなった日だった。赤井に仕事を斡旋している人物が教会にいるのだろうか。教会から紹介されてお祓いってまるでエクソシストじゃないか。そうと決まったわけではないけど、彼が教会で神に祈りをささげている姿はどうにも想像できなかった。
    「降谷、仲いいんだろ?」
    「べ、別に……」
    「前に西島先生と三人で話してなかったか?」
    「あー……うん、まあ。盗難被害の時にちょっと助けてもらったんだ」
    「ああ、それで」
     田中は合点がいったという顔をしていた。きっと赤井が僕の教室まで僕を尋ねてきたのを見てからどういう関係か気になっていたのだろう。
    「赤井先輩が犯人捕まえてくれたの?」
    「う~ん、まあ、そんな感じ」
    「えっ、すごっ、探偵みたいじゃん」
    「あはは、どうかな、よくわかんない」
     僕は言葉を濁した。でもそれは本心でもあった。僕は赤井のことをまだよく知らない。今一緒に歩いている彼らが知っている情報を差し引けば、赤井が幽霊を祓えるらしいことと、キスが上手いことぐらいしか知らなかった。
    「西島先生のことも調べてくれないかなあ」
    「なんだよ、お前、本当に呪いだとか思ってんの?ただの体調不良だって」
    「いや、呪いは信じてないよ?でも、西島先生が学校に来なくなる前に、怪しい男と会っていたのは本当のことみたいなんだよ」
    「えっ、どういうこと?」
    「映研の部室に尋ねて来たんだって。その男から西島先生がDVDを受け取ったらしいんだ」
    「映画好き仲間からDVDを貰っただけじゃないのか?」
    「映研のやつらもそう思って部室で見ようって先生に持ちかけたらしい。西島先生なら『そうだな』って言いそうだろう?」
     僕もその状況を考えると西島先生ならDVDを見せてくれるような気がした。友人がわざわざ学校まで手渡しで持ってきたことを考えると、郵送できないぐらい貴重なものの可能性が高い。もしそうだとしたら先生は生徒に見せたいと考えるだろう。西島先生は僕たちにとってそういう先生だった。
    「それなのに、DVDの中身を見た途端、顔色を変えて『絶対にダメだ』って大きな声で言ったんだって」
    「西島先生が?」
    「そう、西島先生が」
    「それはちょっと気になるな……」
     僕は先生のクラスの生徒になってまだ数か月だけど、先生が大きな声を出しているところなんて一度も見たことがない。いつもニコニコして生徒の話の聞きいているイメージだ。そんな先生がそこまでして見せたくないDVDって一体……。
    「心配だな~~~」
     田中はそう言って僕を見た。
    「え?なに」
    「赤井先輩に相談してみろよ、降谷」
    「ええっ」
    「ああ、そうだ。このまま先輩を見かけた教会に行ってみるか?この前見かけた時も部活の帰りだったから、今日もいるかもしれないぞ」
    「おお、いいな!善は急げだ。行こうぜ、降谷」
    「ちょ、ちょっと待てって!」
     わざわざ会いに行かなくても家に帰れば会える、とは言えなかった。僕は寮を出てから近所に下宿していることになっていて(嘘ではない)、赤井の家で暮らしていることを知っているのはヒロだけなのだ。
     僕は赤井に出くわさないことを祈りつつ、田中たちの後について行った。
     しかし。普段、祈ったりしない僕に神様は微笑むことはなかった。
     田中が案内してくれた教会から、ちょうど赤井が出て来たのだ。しかも絶世の美女とともに。
     赤井はなぜかスーツを着て髪をオールバックにしていた。まるでデートにでも行くみたいに気合が入っているように見える。
    隣の女性はOL風で、ヒールのある靴を履いている。間違いなく年上だ。それなのに、教会の石段を下りる途中で躓いた彼女に手を差し伸べる赤井は完全に彼氏に見えた。
    「すげえ……」
    「さすが赤井先輩……付き合ってる彼女のレベルが高すぎる……」
    「……行こう、邪魔しちゃ悪いよ」
     僕は踵を返した。心臓が痛い。どうして僕がこんな想いをしなきゃいけないんだ。ていうか、あんなに綺麗な彼女がいるのにどうして僕にキスなんかしたんだよ……。
    僕はどうして、腹が立っているのにこんなに泣きそうなんだろう……。
    「降谷くんっ」
     赤井の声に一緒に引き返していた田中たちが足を止めた。
    「おい、降谷、呼ばれてるぞ……?」
    「気のせいだろ」
     僕は二人の背中に手を回した。この場にあと三分でも留まったら僕はみっともなく泣き出して、この前みたいに赤井に手を出してしまいそうな気がする。
     それなのに。
    「降谷くん、おいっ」
     赤井は僕の手を掴むと強い力で僕を振り向かせた。僕を見る赤井の後ろでさっきの美女が不安そうにこちらを見ていた。
    「よく来てくれた」
    「……は?」
    「さあ、行こう。二人は気を付けて帰りなさい」
    「ちょ、ちょっと!?」
     僕は赤井に引きずられるようにして女性の方へと歩いていた。嫌だ、見たくない。そう思って俯くと、女性が「その制服、西島くんの学校の……?」と言った。
    「え?」
    「はい、彼のクラスの生徒です。降谷くんといいます。彼にも捜索を手伝ってもらうことになっているんです」
    「まあ!あなたが降谷くん?!西島くんからあなたのお話は聞いてます。私、滝川と申します」
     絶世の美女は僕に向かって丁寧に頭を下げた。
    「あ、はい、初めまして……?」
     どうして赤井の彼女の口から西島先生の名前が出てくるんだ?状況が飲み込めない僕に赤井がそっと耳打ちした。
    「彼女は西島先生の婚約者だ」
    「えっ……!」
    「これから西島さんのお宅に伺う。君にも同行してもらいたい」
     ええっ、と言いそうになるのをなんとか堪えて僕は「わかりました」と応えた。

     滝川さんが運転する車の中で、赤井の彼女の話を聞いていているうちにようやく話の経緯が見えて来た。
     西島先生はどうやら病院に入院しているらしい。滝川さんが先生の部屋を訪れた時にはすでに先生は意識を失っていて、今も意識が戻ったり失ったりを繰り返しているのだそうだ。
     精密検査をしても異常は見当たらず、医師も首を傾げるばかりだった。そんな中、わずかな時間だけ意識を取り戻した先生が滝川さんに『呪いのDVDを処分して欲しい』と言った。滝川さんはそう呼ばれるDVDに心当たりはなかったため知り合いに相談したところ、赤井に行きついたのだと言っていた。
    「どうぞ。上がってください」
    「失礼します……」
     西島先生の家は一人暮らしをするには広いファミリータイプの部屋だった。滝川さんと同棲するために引っ越したばかりだそうで、彼女の大阪赴任が終わる来月からは一緒に住むことになっているのだそうだ。
    「DVDがしまってあるとしたらシアタールームだと思うんですけど……」
     滝川さんはそう言って、リビングの隣にあるドアを開けた。部屋の中の壁には小さなスクリーンが掛けられていて、映画のDVDなどが入った棚が置かれていた。少なくとも百本はあるだろう。まさかこれら全てをチェックして呪いのDVDを探すんじゃないだろうな!?
    「ここにはありませんね」
    「えっ……もうわかるの?」
    「ああ」
     赤井は映画に興味がない様子で部屋を出た。僕は西島先生の持っているDVDのラインナップがちょっと気になったけど、本人がいない間にジロジロ見るのも失礼かと思い直して赤井のあとに続いた。
    「あの部屋じゃないとしたら……う~ん……」
    「先生はパソコンをお持ちですよね?」
    「あ、はい」
    「滝川さんはその中にディスクが入っていないか探してみてください。私たちは向こうを探しますから」
     赤井はそういうと僕の背中を押してリビングを出た。
    「……なんで僕まで」
    「教会の前にいた君が何か良からぬ勘違いをしている気がしたんでな」
    「はあ?別に僕は……!」
     僕は赤井に言い当てられたことが恥ずかしくて、近くにあった部屋のドアノブを掴んだ。
    「そこじゃない」
    「え?」
    「こっちだ」
     赤井はすでにどこに呪いのDVDがあるのかわかっているらしく、躊躇いもなく僕が開けようとした部屋の向かいのドアを開けた。
     そこは大きなベッドが置かれている寝室だった。
    「ちょ、ちょっと勝手に入っていいんですか?」
    「依頼を受けた時点で部屋の中を捜索することは了承を得ている」
     赤井はそう言うとベッドの中に手を突っ込んだ。しかしそこには目当てのものがなかったらしく、今度は床に膝を付いてベッドの下を覗き込んだ。
    「あった」
    「えっ……それは」
     立ち上がった赤井が手に持っていたのは透明のケースに入った真っ白なDVDだった。


     僕たちは再び滝川さんの車に乗って、赤井の家の近くでおろしてもらった。赤井は手にDVDを持ったまま。家に持ち帰ってから除霊をするのだそうだ。
    「それ、本当に呪いのDVDなんですか?」
     僕がそう尋ねると赤井が僕を振り返った。
    「ああ。これさえ始末すれば西島先生は目を覚ますはずだ。来週には学校に戻れるだろう」
    「よかった……って、そんな強力な呪いが掛かっているものを手で持って歩いていて、赤井は大丈夫なんですか!?」
    「問題ない。俺だからな」
     いやいや、どんなだよ……。僕は赤井が幽霊を祓える力を持っていることを知っている。でもだからと言って本当に呪いにかからないのだろうか。大人の西島先生の意識が混濁するほど強力な呪いが掛かっているんだぞ?
     僕は除霊が完了するまで赤井から目を離さないようにしようと心に決めた。
    「西島先生の彼女、すごい美人でしたね……」
    「意外だった?」
    「……ううん、先生なら納得です。先生、優しいし、物静かだから目立たないけど実はイケメンだし」
    「妬けるな」
    「え?」
    「君が他の男を褒めるのが面白くないと言ったんだ」
     赤井はそう言って玄関のドアを開けた。なにそれ。思わせぶりなこと言うなよ、ばか。
     僕は赤井の横を無言で通り過ぎた。自分の腕を自分の手でぎゅっと握る。もうこれ以上、踏み込まれちゃだめだ。今朝からずっと赤井に振り回されっぱなしじゃないか。赤井がキスに飽きてしまったことは地味にショックだったし、美女と歩いているのを見た時は心臓がねじれたみたいに苦しかった。
    「降谷くん」
    「な、なんですか……?」
    「あー……その、今日の分なんだが」
    「え?」
    「キス……してもいいか?」
    「えっ……ど、ど、どうしたんですか?!いつも僕の意見なんかおかまないなしにキスしてくるのに」
    「ひとでなしみたいに言わないでくれ……これでも反省してるんだ。俺はどうやら君を前にすると自制が効かないらしい……」
     悪かったと言って赤井は自分の後頭部に手を当てた。どうやら本当に反省しているらしい。
    「……赤井、見て」
    「ん?ふ、降谷くん!?」
     赤井は制服のシャツのボタンを外した僕を見てなぜか慌てていた。昨日は自分で捲し上げてキスマークまで付けたくせに。
    「もう消えちゃいましたから気にしなくていいですよ」
    「……そうか」
    「ええ。でも今日の分はまだダメです!その呪いを解いてからにしてくれないと安心できません!」
    「よし、任せてくれ」
     赤井はDVDを持ってリビングへと向かった。
    「え、ここでやるんですか……?」
    「ああ。テレビもDVDプレイヤーもここにしかないからな」
    「えっ、まさか見るんですか!?」
    「見ないでどう祓う」
    「や、やめましょうよ!そういうのって見た人が呪われるのがセオリーじゃないですか!」
    「俺は問題ない。この程度の呪力ならな。しかし、君になにがあるかわからないから少しの間、部屋に籠っていてくれ」
     赤井はそう言うとさっそくDVDをプレイヤーに飲み込ませた。
    「……そんなの嫌です」
    「どうした?」
    「だってもし赤井に何かあったら……どうしても見るっていうなら僕も一緒に見ます」
    「何があるかわからないんだぞ?」
    「……その時は赤井が助けてくれるでしょ?」
    「はは、わかったよ」
     赤井はソファの横にずれて僕の座るスペースを開けてくれた。そこに僕が腰を下ろすとさも自然な感じに肩を抱き寄せる。まったくこの男は……!
    「一応確認しますけど、先生の婚約者にこういうことしなかったでしょうね?」
    「するもんか。依頼人と関係を持たないようにしてる」
     その言葉は僕には含みがあるように聞こえた。まるで前に関係を持って懲りたみたいな。でもこれ以上虐めるのも可哀そうなので、優しい僕は突っ込まないでおいた。
    「再生するぞ……」
    「あ、ちょっとまって」
     僕はソファの背もたれにかかっているブランケットを自分の膝の上に広げた。
    「寒いか?」
    「いえ……怖くなった時に顔を覆えるようにです」
    「……くくっ」
    「備えあればって言うだろ!」
    「そうだな。さすが君だ」
     赤井の揶揄うようにそう言うとリモコンの再生ボタンを押した。
     てっきりホラー映画が始まるのかと思っていた僕は、テレビのディスプレイに映った映像を見て目を疑った。
    『こういう企画に出るのは初めて?』
    『はい……緊張してます……』
    『じゃあ、リラックスできるようにマッサージしてあげようね……』
    『……あんっ』
     セクシーな服を着た若い女性がおじさんに胸を揉まれている。
     えっ、胸を揉まれてる!?
    「ちょ、ちょっと待って!!これって……」
    「AVだな」
    「うそ……」
     僕は色んな意味でショックを受けていた。まずは、まだ高校一年生なのにAVを見てしまったと言う罪悪感。それからあの西島先生がこういうDVDを持っていたというショックだ。そして隣にいる赤井がまったく顔色を変えていないことにもショックを受けていた。
    「職場で、しかも生徒たちの前で、こんなDVDを渡されたんだから西島先生も相当驚いただろう」
     あっ……。そうだった。先生は人からこれを受け取ったんだ。その人が呪いの存在を知っていたかどうかはわからないが、行為自体に強い悪意を感じる。
    「何落ち着いてるんですか!僕たちがこういうのを見てはまずいでしょう!!」
    「え?」
    「え、じゃないですよ!赤井のすけべ!」
    「仕方ないだろ。これも仕事だ」
    「そんなこと言って……本当はこういうの好きなんでしょ……」
    「興味ないとは言わないが趣味じゃないな」
    「何を冷静に……!もう知りません!勝手に呪われてろ!」
     僕はソファから立ち上がり、ブランケットを赤井に向かって投げつけた。
    「いいのか?俺ひとりで見て」
    「嫌だけど……仕事なんでしょ」
    「君が嫌なら見ないよ」
    「えっ」
    「その代わり、俺が画面を見ないようにキスしていてくれないか?」
    「えっ……」
    「音だけでもどこのシーンが問題なのかはわかる」
     赤井が女の人のえっちなところを見ているのは正直言って耐えられなかった。もうこの際だから認めてしまうけど、僕は赤井に僕だけを見ていて欲しいと思ってる。キスもハグも僕だけにして欲しい。これが恋なのか、それとも思春期特有の独占欲なのか、それとも好奇心なのかはわからないけれど。
    「僕を画面の中の女の人の代わりにしない……?」
    「するもんか。俺は君とキスがしたいんだ」
    「……それならいいですよ」
     それから僕たちは女の人の喘ぎ声と男の人の荒い息を聞きながらお互いの唇を貪った。もう回数なんてわからないし、下半身は完全に反応してる。いつもだったら止めるはずの理性は今夜はどこかにいってしまっていた。
    「出た」
    「えっ」
     赤井の声に僕は思わず自分のを見下ろした。え……出てないよな?
     赤井がテレビに向けて手をかざすとパンという乾いた音がした。驚いた僕がそちらを見た時には、ディスプレイは真っ黒になっていてリビングにいる僕らを映していた。
    「呪いは解けたの……?」
    「ああ。撮影をしていたホテルに問題があったようだ。たまたまAVに映りこんでしまっていたんだろう」
    「写り込むって何が……?」
    「知りたいか?」
     赤井が僕を見る。無表情なその顔に僕は少しだけぞくっとしてしまった。
    「結構です!」
    「よし。これで仕事は終わりだ。君との続きを……」
    「も、もうおしまいです!」
    「は?」
    「もう十回キスしたし……あ、僕、先お風呂入りますね!」
     僕はソファから立ち上がるとバスルームに駆け込んだ。その理由はどうぞお察しください……。


     赤井が言った通り、西島先生は翌週の月曜日には学校に顔を出した。僕に「迷惑をかけたね」とは言っていたけど、赤井が関わっていることは知らない様子だった。
    赤井に尋ねると、滝川さんも赤井が先生の学校の生徒だとは知らないのだそうだ。先生の家に行った夜、赤井が高校生らしくない恰好をしていたのは、滝川さんに赤井が先生の学校の生徒だとバレないためだったらしい。バイトの内容が内容だからそれが賢明なのだろう。
     赤井が滝川さんから聞いた話だと、先生にあのDVDを渡したのは大学時代の映画研究会の仲間だったそうだ。滝川さんに片思いをしていたその人は、彼女と婚約した西島先生に嫌がらせをするためにDVDを手に入れてわざわざ学校で手渡したらしい。
     大人同士の話し合いで和解できたらしいけど、僕は恋って怖いと思わずにはいられなかった。
     人と人との関係をそんな風に変えてしまう恋もまた呪いみたいだ。
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    かとうあんこ

    DOODLE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする話、第三話。
    「その日のことはよく覚えてます。パパと姉貴とわたしの三人でママの誕生日プレゼントを買うために出掛けていたんです。姉貴は小学生、私は保育園に通っている頃で、パパが贔屓にしているアンティークショップに……え?名前?なんだったかなあ。随分前に倒産しちゃったから、もうありませんよ。……いえ、ママはドールハウスには全然興味なくて。アンティークショップのガラスの戸棚に飾られていたワイングラスをプレゼントすることにしたんです。それをお店のひとがラッピングしている間に、オーナーさんが『お嬢様たちにこちらはいかがですか?』と言って見せてくれたのが、そのドールハウスでした。本物の西洋のお屋敷を小さくしたみたいですごく素敵だったから、私も姉貴もすぐに気に入りました。ふたりでパパにおねだりして、買ってもらえることになったんですけど……パパがお会計している間、奥さんが、あ、オーナーの奥さんです、がこんなことを言ってたんです。『このドールハウスに人形は絶対に入れないで』って。私たちは不思議に思いましたが、奥さんがあまりに真剣な表情だったから「うん」と答えました。でも家に帰ってドールハウスを広げて、別に梱包してもらった家具を並べているうちに……人形を入れて遊びたくなったんです。ほら、子どもってダメって言われるとやりたくなるところあるじゃないですか。それに……人形がないほうが変な感じがしたんです。とても精巧にできていたから……ううん、そうじゃないな……人がいる気配がするのに誰もいない……そんな感じでした。でも、うちにあるのは着せ替え人形ばかりで、そのドールハウスのサイズにちょうどいい人形がなかったんです。そしたら姉貴が「紙のお人形を作ってドールハウスに入れよう」と言ったんです。「紙の人形なら約束を破ったことにはならないだろうから」って。私はすぐに部屋にあった画用紙に黒いマジックで女の子の絵を描いてソファに座らせました。その隣に姉貴が書いた猫の絵を置いたところで夕飯の時間になって、私たちはドールハウスをそのままにして部屋を出たんです。……あはは、大丈夫よ、真さん。子どもの頃の話だから。それに、もし何かあっても真さんが守ってくれるでしょう?……はい。そうなんです。夕飯を終えてドールハウスがある部屋に戻ってきたら、紙の人形が切られていたんです。バラバラに……。「やっぱり人形を入れたのがいけなかったのかし
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    かとうあんこ

    DONE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする第二話
    烏丸怪談②友人の話「え?僕には怪談はないのかって?う~ん、そうだなあ……僕の友人の話でもよければ。はは、そういうことが多いね。まあ、どちらでもいいじゃないか。これは友人が保育園に通っていた頃の話だ。彼はいつもお迎えが一番最後でね。母親の仕事が忙しかったんだ。彼は保育園では周りの子どもたちとうまくいってなかったから、園児が少なくない遅い時間のほうが遊びやすかった。だから、母親の迎えが遅くても気にならなかった。嬉々として居残っている彼を見て羨ましかったのか、園児のひとりが意地悪を言ったんだ。『あいつはいらない子だからお迎えが遅いんだ』って。気丈な友人もこれにはショックを受けた。いつもは独り占めできて嬉しい積み木も全然楽しくない。今すぐに母親に抱っこしてほしかった……。そんなことを考えてると、友人の前に見知らぬ男の子が現れた。『キミ、いらない子なの?』友人は当然ムッとして無視をした。ちょっとだけ泣いてたかもしれない。その寂しさを見抜いたように男の子は『じゃあ、一緒に遊ぼうよ』と言った。友人は少し悩んでから『ウン』と言った。それから二時間、彼は行方不明になった。保育園の先生はもちろん彼を探したし、お迎えに来た母親も一緒に探した。家に帰ったんじゃないか、散歩で行った公園にいるんじゃないか。いろんな場所を探したが、見つからない。いよいよ警察に連絡しようとなった時、子ども用トイレから友人が現れた。『やっと帰ってこれた』と言いながらね。二時間だけの神隠しだ。……どう?名探偵の君には物足りなかったかな」
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