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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    ★男子高校生な赤安にイチャイチャしてほしくて時系列(主に赤井の年齢)を操作してます
    ★👻でます
    ★いろんな赤安を楽しめる方向け!

    ##赤安
    ##降谷くんと赤井先輩

    うちの降谷さんは赤井さんと同棲したことがあるらしい 因縁の組織が壊滅して一ヶ月が経った。
     僕は潜入捜査の任を解かれ、今は警視庁で発足された『黒づくめの組織による諸事件』という何ともざっくりとした戒名の捜査本部に参加している。
     そこには警視庁の捜査一課の面々や公安部はもちろんのこと、FBIも参加している。
     そんな合同捜査本部で僕は陣頭指揮を執っている。最後まで組織に潜入していて内情に通じているという理由の他に、日本語が話せない捜査官たちとコミュニケーションがとれるというのがあるのだろう。
     最初はぎこちなかった日本警察とFBI陣営だったが、徐々に連携がとれるようになってきている。といっても、これは僕だけの力ではなく、双方が歩み寄ってくれたおかげだ。
    そう、たった一人をのぞいては……。
    「どうしてそうやって勝手な行動をとるんですか!?先週も言いましたよね!?動く前に報告連絡相談をしろと!!」
    「そんなことをしていたら機を逃してしまうだろ」
     赤井はさも当然と言った顔で僕にそう言った。
    「だーかーらー!常日頃から報告をあげろと言ってるんですよ!!」
     何度となく繰り返してきてやり取りに、日本警察とFBIの面々の顔に「またか」という表情が浮かんでいる。どうして僕がそんな視線を向けられなくちゃいけないんだ。
    「まあまあ、今回はシュウのおかげで五人も逮捕できたんだし」
     そう言って、僕と赤井の間に入ったのはジョディさんだった。
    「末端の構成員ですけどね!」
    「そいつらを血眼になって探していたのはどこの誰だったかな?」
    「真剣に捜査しているんだから当然でしょう!」
    「あ~~もう~!ほら、今日はみんなで飲みに行くんでしょう?その前に仕事終わらせましょう!ね?」
     ジョディさんが赤井と僕の顔を見比べる。赤井は彼女の視線からふいっと顔を逸らすと、捜査本部が置かれている警視庁の大会議室を出て行った。
    「ごめんなさいね、フルヤ。シュウに悪気はないのよ」
    「いえ……ジョディさんが謝ることではありませんよ。僕も大きな声を出してすみませんでした。でも……五人を相手にひとりで乗り込むなんて、いくら赤井でも危険すぎます」
     末端の構成員だったのは本当のことだが、あの組織に加わっていた以上、どんな武器を持っているかわかったもんじゃない。それに加えて、彼らにとって赤井と僕は裏切者だ。捨て身になった彼らに集団で攻撃されたら、赤井だって無傷では済まないだろう。
    現に今朝、僕の前に現れた赤井の頬には大きな絆創膏が貼られていた。それを見て僕は、ついカッとなってしまったのだった。
    「そうよね。あなたの心配はもっともよ」
    「べ、別に心配なんか……」
    「もう……あなたたちってどうしてそう素直じゃないのかしら」
     ジョディさんはそう言って盛大なため息を吐いた。
    「え?」
    「シュウはあなたに褒められたかったのよ」
     ジョディさんの華奢な手で胸をポンと叩かれて、僕はポカンとしてしまった。
    「赤井が僕に……?まさか」
    「そう思いなら今夜の飲み会でシュウとじっくり話してみたら?」
    「……わかりました」
    「今日のお店、あなたが選んでくれたんでしょう?楽しみにしてるわよ!」
     気遣いの上手い彼女の言葉に、こわばっていた頬が緩んでいくのを感じた。

    日米の懇親会のために僕が予約したのは、渋谷にあるスペイン料理の店だった。
    参加者たちの目は店員が運んできた大きなシュラスコの迫力に釘付けになっている。
    どちらの参加者にも新鮮に楽しんで貰えるようにと、アメリカンダイナーでも和食割烹でもない店を選んだのだ。期待通りの反応に安堵していると、肉を乗せた皿を持ってキャメルがやってきた。
    「いい店だな」
    「そうだろ?明日の仕事に響かない程度に楽しんでくれ」
    「フルヤもね」
    そう言って僕の前にタパスの盛り合わせを置いたのはジョディさん。その彼女の後ろから絆創膏男が歩いてくるのが見えて、なるほどと思った。
    二人はどうしても僕と赤井に和解して欲しいらしい。お膳立てして貰わなくたって自分から声を掛けるつもりだったのに。そんなことを思っていると風見が僕の退路を塞ぐように隣に立った。
    「見守ってもらわなくたって話しぐらいできますよ。子どもじゃあるまいし」
    「まぁ、そう言うな。ほら」
    キャメルが僕にビールを手渡す。今日は飲まないつもりだったんだけどな。まぁいいか、この程度で酔うわけでもない。僕はジョッキを受け取ると一息で半分まで飲み干した。
    「フルヤだって、なんだかんだ言って赤井さんのことを信頼してるんだろ?」
    「まあ……赤井の狙撃の腕前は僕には取得できなかったからな」
    「ブレイクダンスみたいにはいきませんか?」
    風見にそう尋ねられて僕は苦笑した。ブレイクダンスと狙撃じゃ共通点を見つけるほうが難しいだろ。
    「ああ。何度か近くで見る機会はあったんだがな……」
    組織に潜入していた時、チームを組まされたことが数回あった。赤井の、いや、ライの狙撃は間近で見てもなぜそこまで精密に狙えるのかどうしてもわからなかった。
    ジョディさんとキャメルの間に立つ赤井は黙って僕を見ている。僕から歩み寄ってやったんだから、そっちも何か言えよ。視線でそう訴えるとようやく赤井が口を開いた。
    「ちゃんと見てなかったんじゃないか?」
    「はあ?」
    「俺の顔ばかり見てたから」
    「そんなわけないでしょう……」
    一体どういうジョークだよ。
    むしろ、あんな組織であなたの顔なんか一番見たくなかったよ。
    「これだからモテる男は。自分の顔を誰も彼もが好きだと思わない方がいいですよ」
    「ご忠告どうも。モテるのは君もだろ」
    「それは嫌味ですか?」
    「まさか。君は少々俺のことを思い違いをしているぞ。出会った頃から君のことは評価していた」
    「さあ……もう十年以上昔のことなんて覚えてませんよ」
    忘れると言っただろうと暗に伝えると、赤井は持っていたウィスキーグラスを口に運んだ。
    「えっ、十年以上前?」
    そこに反応したのはキャメルだった。
    「あの……お二人が初めて会われたのは組織に潜入されていた時ですよね……?」
    風見も不安気に僕を見る。僕からの報告書は全て見てきた彼だ。計算が合わないことが気になるのも無理はない。
    「……言っていいのか?」
    「隠しても経歴を調べればすぐにわかることですから。実は、僕と赤井は同じ高校に通っていたことがあるんだ」
    「「ええーーーーーー!?」」
    風見とキャメルの大き過ぎるリアクションに、他の参加者たちの視線が集まり始める。僕はこれ以上注目を集めないようにこう付け足した。
    「といっても、赤井は三年の途中でアメリカに留学したから、僕と被っていたのは五カ月だけだ」
    「その間、俺たちは同棲してたんだ」
    「「「ええーーーーーー!?」」」
    同棲?赤井さんと降谷さんが?高校生で同棲?一体どうして……。そんなこと聞ける勇気があるなら聞いてこいよ。ねえ、フルヤと赤井ってその頃から仲が悪かったのかしら?いや、隠すために仲が悪い演技をしてたんだろ。あぁ、なるほど。
    僕たちの話が瞬く間に両国の参加者の唇に伝染していく。捜査のプロである彼らの推理を否定するために、僕は捜査本部で指示を出す時と同じ声量を出さなければならなかった。
    「ルームシェアです!!!」
    しかしそれは逆効果だったようで、僕が赤井と一緒に暮らしていたことが全ての参加者の耳に行き渡ってしまっただけだった。
    風見とキャメルは、畳み掛けられたセカンドインパクトにまだ少し呆然としているようだった。
    「高校生の赤井しゃんって想像できないです……」
    「確かに……どんな感じだったんですか?」
    「どんなって……」
    最初はちょっと近寄り難い先輩だった。親切にされて、騙されてるんじゃないかと思ったこともあったけど、赤井は最後まで僕に誠実だった。
    あの夜みたいな洋館、庭の小さなバラ、制服、ピアノのある書庫、金網越しの花火……どれもが特別すぎて、酒の席のちょっと面白い話に仕立て直すことはできなかった。
    「高校生の時からこんな感じだったぞ」
    「降谷くんは見た目からしてほぼこのままだ」
    「それはなんとなくわかる気がします」
    納得する風見に僕が肘鉄をくらわせたのは言うまでもない。

    合同捜査本部の初めての懇親会はいい雰囲気でお開きとなった。赤井と僕の高校が同じだったことが酒の肴にされた感は否めないけれど、コミュニケーションの一貫だと自分に言い聞かせる。
    これで向こうの捜査官たちが僕に報告をしやすくなってくれたらそれでいい。
    店の外に出ると涼しい風がアルコールで上がった体温に心地良かった。九月の東都は昼はまだ暑いが、夜だけは秋を先取りしている。そんなことを思いながらタクシーを拾うために大通りを目指す僕の横をさも当たり前といった顔で赤井が歩いていた。
    「……なんで着いてくるんですか」
    「送っていく」
    「送るって……あなたも運転出来ないでしょ。飲んだんだから」
    「タクシーを乗るまで見送る」
    「いや、必要ないですから」
    そう言うと赤井は黙ってしまった。
    彼なりに思うところがあるのだろうか。
    今朝のやり取りは僕も大人げなかったと思っている。でも僕から謝ってしまったら、赤井がまた危険なことをするような気がして、僕は大通りを走る車を眺めることしかできなかった。
    「俺は必要ないか」
    「えっ?」
     驚いて振り返ると、赤井の緑の瞳が僕を静かに見つめていた。
    「な、なんですか、急に……。あ、あなたがいないと困るに決まってるでしょう」
    「なぜ?」
    「なぜって……今は日米合同で捜査していて……」
    「仕事の話じゃない。君の人生においてだ」
    「僕の人生……?」
     赤井が僕の人生に必要かどうかなんて考えたこともなかった。だって、赤井と僕の縁は高校一年の夏で終わったと思っていたから。だから、香港で再会した時は本当に驚いた。でも、その時の僕はすでに子どもの頃の約束が今でも有効だと思えるほどの純粋さはなかった。
     僕が黙ってしまうと、赤井がタクシーに向かって左手を上げた。すぐに黄色いライトを乗せた黒塗りのセダンが僕たちの前に停まった。
    「気を付けて」
    「は、はい」
     僕は小さく赤井に頭を下げてタクシーの後部座席に乗り込んだ。
     タクシーの運転手に行き先を告げていると、閉まろうとしたタクシーのドアを赤井の手が掴んだ。
    「降谷くん」
    「は、はい?」
    「君がもし本当にあの教会で話したことを忘れてしまったのだとしても、俺の気持ちは変わらない」
    「え」
    「おやすみ」
     そう言って微笑んだ顔は僕が恋をした赤井そのものだった。
     僕はタクシーが走り出すと同時に座席から半分ずり落ちた。行儀が悪いのは承知しているけど、今ばかりは許されたい。だって、僕の人生がまた大きく変わってしまいそうなんだ。
    その晩、僕はあれこれ考えてみたけれど、僕の人生に赤井が必要かどうかはわからなかった。わかったのは、事前報告なしで残党のアジトにたった一人で乗り込んだことを赤井が全く反省していないことだけだった。


     いつもの時間に目を覚ますと、白いふわふわが僕にぴったりくっついて眠っていた。寝息に合わせてお腹が上下する姿が愛おしい。間違いなく、僕の人生に必要な存在だ。
     僕は後ろ髪を引かれつつもベッドから起き上がった。その動きに気が付いたハロがパッと僕を振り返った。
    「おはよう、ハロ」
    「クウン……」
     ハロは僕を引き留めるように小さな体を摺り寄せた。君のお腹に顔を埋めて二度寝できたらどんなにいいか。それでもカーテンから差し込む朝日が僕の頭に今日の予定を呼び起こす。
    「さあ……朝ごはんの支度をするよ」
    「クウ……」
     ハロは小さく鼻を鳴らす。僕よりも名残惜しそうなハロに僕は体を撫でてやることしかできなかった。
     組織の壊滅作戦が最終局面を迎える前に安室透名義で契約していた部屋は解約した。半月ほどはセーフハウスを転々としていたが、二週間前に今の部屋に落ち着いた。
     潜入捜査の任を解かれたので警察庁の独身寮に入るという選択もあった。しかし、官舎はペット不可。職場から近くてハロと暮らせれば何でもいいという僕の希望に合わせて風見が見繕ってくれた物件の中の一つがこの部屋だった。
    これでようやく落ち着けると思ったのだが、引っ越してからハロの様子がちょっと変なのだ。
     棲み処がころころ変わっていた時より警戒心が強くなり、僕が家にいる時間は僕にべったりで、トイレに入っている時でさえ扉の前で待っている。こんなことは今までなかった。
     ペットカメラを設置して様子を見ているのだが、僕がいない昼間は割と元気で、ご飯もちゃんと食べているし、散歩に行けば楽しそうな走りを見せてくれる。
     僕が家に居る夜の時間にだけ甘えた様子を見せるのは、ハロが僕の生活時間が変わったことにまだ慣れないだけかもしれない。
    ただ……時折部屋の何もいないところに向かって睨みつけるような顔をするのが気に掛かっていた。
    「まさか……そんなわけないよな」
     昨夜帰宅してから一応調べてみたが心理的瑕疵物件ではなかった。そんなことを調べてしまったのは、赤井が昔の話を蒸し返したりしたせいだ。
     確かに、この世に僕の知識の及ばない存在はいる。でもそれは、やっぱり人生で出会うことは稀な存在だと、赤井と別れた十数年が僕に教えてくれた。
    「行ってくるね、ハロ」
    「アン……」
    玄関に立つ僕を見るハロが不安そうに僕を見上げる。このまま一緒に登庁してもいいんじゃないか。そんな囁きを振り切るように僕はハロを思いっきり撫でた。
    もっと一緒に居てあげれればいいんだけど。僕にはまだやらなくちゃいけないことがあるんだ。
    「今日は昨日よりも早く帰れる予定だし、明日は休みだ。たくさん遊ぼうな」
     そう話しかけると、ハロは嬉そうに舌をだした。その仕草が僕に心配かけまいと気丈に振舞っているようにも見えて、僕は定時に退庁すると心に決めた。

    そんな僕だが、登庁してしまえば仕事人間に早変わりする。昨日居残ってくれていたメンバーに差し入れを渡して状況を確認すると、幸いにも大きな変化はなかった。
    「こんなにたくさんいいんですか?」
    「あぁ。朝早かったから手製で悪いな。次は一緒に飲もう」
     そう声を掛けると、僕より年上の部下は眉を下げて笑った。
    「あら、フルヤ」
    「おはようございます。ジョディさん。昨夜はお疲れ様でした」
    「フルヤこそ。幹事ありがとう。あなたの選んでくれたお店、とてもよかったわ!帰国する前にもう一回行きたいってみんな言ってたわよ」
    「それはよかった」
    「面白い話も聞けたしね」
     ジョディさんはそう言うと僕の腕を肘でつついた。
    「ははは……朝のコーヒーは済みました?」
    「いえ、まだだけど?」
    「じゃあ、一緒にどうです」
    「え、ええ……」
     僕はなぜ?と躊躇うジョディさんを半ば無理矢理誘って自動販売機に向かった。
    「ジョディさんはご存知だったんですね」
    「え?」
    「僕と赤井が古い付き合いだってこと」
    「……ええ」
     ジョディさんの反応で僕はそのことを確信していた。わざわざ言葉にして尋ねたのは彼女にいらぬ気を遣わせたくなかったからだ。
    「そうですか……赤井からどう聞いているかわからないですけど、僕と彼は数か月しか在校期間が被らなかったので何かあったわけじゃないんですよ」
    「そう……」
    「だから、僕たちのことは気にしないでください」
     自動販売機から出て来たコーヒーの缶を渡すと、彼女はわずかに眉間に皺を寄せたものの、コーヒーを受け取ってくれた。
    「お気遣いいただいたことは有難く思ってます。捜査上必要な討論もあるので絶対に揉めないとは言えませんけど、これからはなるべく穏便に済ませられるようにします」
     では、と言って先に立ち去ろうとした僕の腕をジョディさんが掴んだ。
    「……ちょっと待ちなさいよ。自分の話したい事だけ話して立ち去ろうとするのはずるいんじゃない?」
    「え?」
    「私の話も聞きなさいってこと!」
     ジョディさんは僕が持っていた方の缶コーヒーを奪うと、プルトップを開けて僕に返した。
    「ひとつ訂正させてもらうけど、あなたのことをシュウから直接聞いたことはないわよ」
    「えっ!?そうなんですか!?」
     情報屋だった僕がここまで読みを間違えたことはなかった。赤井が関係するとどうしてこうもうまく行かなくなるのか。ジョディさんは慌てる僕を見て肩を竦めた。
    「シュウからね、ひどい失恋をした話を聞いたことがあったの」
    「えっ……」
    「お互い若かった時の話よ。強いお酒にチャレンジしてべろべろに酔っぱらって……」
     いくらジョディさんに気を許していたからといって、赤井が酒に酔って、しかも自分から恋愛の話をするなんて、まったく想像できなかった。二人はかつて交際していたのだから尚更だ。
    「シュウはもしかしたら酔ってなかったかもしてらないけど。ほら、あるでしょう?お酒に酔ったふりして誰かに話してしまいたい時って。私達その時はまだ恋人同士じゃなかったし」
    「そ、そうだったんですか?」
    「ええ。シュウは、その恋の相手と離れてしまったことを後悔してもしきれないって言ってたわ。離れてしまったってことは相手はアメリカにはいない、きっとイギリスか日本にいるんでしょうね」
    「……僕は聞いたことないですね、そんな話」
    「そうでしょうね」
     ジョディさんは強い視線で僕を見上げた。
    「まったく……どうして自分のことになるとそんなに鈍いのかしら?」
    「え?今の話に僕が関係してるんですか?」
    「はあ……まあいいわ。私があなたとシュウに何か別の縁があるんじゃないかと思ったのは組織が崩壊してからよ。ジェイムズに頼んであなたの経歴を見てもらったの」
     合同捜査をしている関係でジェイムズさんは日本側のある程度の情報にアクセスできるようになっている。僕の情報は潜入捜査が終了した関係で閲覧制限が解除されているから、彼にも調べることはできただろう。
    「お前……そんなことをしてたのか」
     後ろから機嫌の悪そうな声がして、僕が振り返ると、想像した通りの表情の赤井が立っていた。
    「あら、盗み聞き?」
    「ここはパブリックスペースだ」
    「そうだったわね」
     ジョディさんは小さい子どもの文句を聞き流す大人のような態度でそう言うと、赤井に僕が買ったコーヒーを渡した。
    「私、今朝はもう飲んだからシュウにあげる」
    「えっ、ジョディさん!?」
    「じゃあね。また恋バナしましょうね」
    「えっ、ちがっ、違いますからね!?」
     僕の言葉の矛先はジョディから赤井へと移っていった。赤井はそんな僕を見て、参ったなという顔でニット帽の上から頭を掻いた。
    「……とりあえず飲もう。せっかくのコーヒーが冷めてしまう」
    「もう大分冷めてると思いますけど」
    「構わんよ」
     赤井はそう言ってプルトップを開けると、缶に口を付けた。
    「……どこから聞いてたんですか?」
    「あいつが俺のトップシークレットを君に話したところあたりだ」
    「あはは……えっと、意外でした」
    「ん?」
    「あなたがそんな失恋をしたなんて」
     そこまで思われてる相手がちょっとうらやましい、という本音は未練がましく聞こえるかもしれないから口には出さなかった。
     高校生の僕は結局、赤井に告白さえさせて貰えなかった。教会で無理矢理にでも想いを伝えていたら、こんなに引き摺らなかったんじゃないかと考えたこともある。
     僕は、赤井には忘れろと言ったくせに、組織に潜入するまで赤井のことを忘れられなかった。そのせいで、気が付けば誰とも付き合ったことがないままこんな年齢になっていた。
     僕は赤井の横顔を見た。切長の緑の瞳に、高く整った鼻梁、薄い唇はあの頃よりもかさついているけれど、今でも悔しいぐらいにカッコいい。こんな男と思春期で出会ってしまった僕がついてなかったのだ。
    そんな僕の視線を感じたのだろう。赤井の、最初から渋かった表情はさらに渋くなっていた。
    「二十二のときだ」
    「えっ?」
    「なんだ、俺の恋バナは聞いてくれないのか?」
    「いえ……どうぞ続けてください」
     正直あまり聞きたくないけど。知りたくないかと聞かれるとやっぱり聞きたい気がする。それに今を逃したら赤井はもう絶対に話してくれない確信があった。
    「俺は日本で家族と会っていた。母親と揉めて不貞腐れて歩いていると、俺が恋焦がれていた相手が目の前を歩いていたんだ」
    「えっ、すごい偶然じゃないですか」
    「ああ、俺は自分の悪運の強さを感じたよ」
    「悪運?その相手に会いたくなかったんですか?」
    「会いたかったよ。家族との用事が済んだらどうにかして探し出して会いに行こうと思っていた」
    「それなら……」
    「相手は男と一緒に歩いていた」
    「……もしかして」
    「水着を着て体を密着させるようにしてね」
    「うわあ……」
     僕がご愁傷様です、と言うと、赤井は「はあ」と大きなため息を吐いた。高校時代と組織潜入時代を遡っても、こんな表情をしているところを見たのは初めてだ。
    「あ、もうこんな時間だ。僕はちょっと資料室に行ってから会議室に向かうので先に戻っていてください」
    「了解。ところで、降谷くん」
    「はい?」
    「君、熱海に行ったことはあるか?」
    「え?ええ、ありますけど……何か情報が上がって来てるんですか?」
     そうなると静岡県警に応援を頼まなければならない、そこまで考えたけれど、赤井はただ「いい海だよな」とだけ言って、会議室のほうへと歩いて行ってしまった。
     僕が赤井の言葉の本当の意味に気が付いたのは、その日の昼。警視庁の食堂で金目鯛の煮つけ定食を食べている時だった。
    「ああ!!」
    「どうしました、降谷さん!?まさか骨が喉に!?」
     僕を心配する風見に「そんなことで声を上げるのは子どもくらいだろ」と言い返したかったけど、僕はそれどころではなかった。
     ざっと食堂内を見回してFBIの姿を探すと、キャメルが他の捜査官と一緒に昼食を取っていた。
    「キャメル!」
    「な、なんだ!?」
     大股で近づく僕にキャメルがのけ反る。そんなことをしたらカレーうどんの汁が跳ねるぞ。いや、今はキャメルのシャツよりも赤井だ。
    「赤井はどこにいる!?」
    「なんだ、また揉めてるのか?」
    「違う!どこにいるのかと聞いている!」
    「赤井さんはジェイムズさんと一緒に駐日大使館に行っているが……」
    「そうか……」
     なんてタイミングの悪さだ。僕はこれから外に出なければならず、今日はそのまま帰宅すると風見に伝えたばかりだ。赤井の誤解を解くために庁舎に残ろうかとも考えたが、今日はハロに早く帰ると約束している。
     僕は肩を落として自分のテーブルへと戻った。
    「降谷さん……?」
    所詮、こういう運命なのかもしれない。あの時だってそうだ。僕に別れを告げたのは赤井の父親が消息不明になったタイミングだった。父親の真実を追うためにアメリカに渡ったのだろう。
    今はこうして近くにいるけれとま、合同捜査本部だってあと一ヶ月もすれば人員は縮小されるだろう。
    僕たちの運命は交わりそうになるたびに、何らかの力が働いて僕たちは離れ離れになるようにできているんだ、きっと……。
    「降谷さん?赤井さんがどうかしたんですか?」
    「いや……気にしないでくれ……」


    「ただいま……」
    「アンっ」
     僕が色んな疲れを背負って玄関を開けるとハロが行儀よく座って僕を出迎えてくれた。
    「ハロ……っ!ただいま!いい子にしてて偉かったな!!!」
     いつもとは逆に僕のほうがハロに飛びつく勢いで玄関に座り込むと、ハロはくるっと体を反転させて僕にふわふわのお腹を差しだした。なんていい子なんだ。
     ハロは僕が赤井の家で匿っていた犬神にとても似ている。その人懐っこい性格も。初めて出会った時はかなり驚かされた。
    「よし、まずは散歩に行こうか」
    「アンっ」
     僕はトレーニングウェアに着替えるとリードを持ってハロと外に出た。
     いつものように一時間走ってマンションの前に戻ってくると、ハロの足がぴたりと止まった。
    「どうした?ハロ?」
    「クウン……」
    「はは、まだ走り足らないのか。それじゃあ、明日は今日よりたくさん散歩しような」
     そう言って抱き上げるとハロは観念したように大人しくなった。
     部屋に戻ってシャワーを済ませ、ハロと一緒に夕食を取っていると、僕の仕事用のスマホが鳴った。風見からだ。そのことに気が付いたハロも僕の方を振り返った。
    「はい、降谷」
    「やあ、降谷くん」
     スマホから聞こえたのは風見ではなく赤井の声だった。
    「えっ、あ、赤井?」
    「君が俺に用があったようだとキャメルから聞いたもんでね。風見くんの端末を借りて連絡させてもらったよ」
    「あー……いえ、用事というほどでは……」
    「ホオ……?」
    「あ、あの、お話ししたいことはあるんですが、部下の前ではちょっと……」
     赤井の隣に立っているであろう風見を意識して小さな声でそう言うとハロが不思議そうに首を傾げた。
    「……君、今どこにいるんだ?」
    「えっ?自宅ですけど?」
    「誰かと一緒なのか?」
    「誰かって……?犬なら一緒にいますけど」
    「すぐに行く」
    「えっ!?……って、もう切れてるしっ」
     僕はスマホをベッドの上に置くと急いで夕飯を口に運んだ。仕事が立て込んでいて買い物に行けなかったにしても、缶詰と納豆だけのこの夕飯は見せられたものじゃない。
     それにしても急に家に来るなんて。人前で話せない話だと言ったけど、なにも今日じゃなくてよかったのに。
     そんなことを考えながら食べたものを片付けていると、呼び鈴が鳴った。この家に客が来るのは初めてのことだ。僕の足元にいたはずのハロは、僕よりも早く玄関前に待機していた。
    「ちょっと怖い顔のひとが来るけど、吠えちゃだめだぞ?」
    「アン?」
     ハロはそんなことはしないとわかってる。それでもドアの向こうにいる相手にあてつけるようにそう言ってから僕は玄関を開けた。
    「ど、どうも……」
    「邪魔するぞ」
    「えっ!?ちょっ、ちょっと!」
     赤井は、僕がどうぞとも言ってないのに、玄関で靴を脱ぐとズカズカと僕の部屋に上がり込んだ。一体何だって言うんだ。そう声を掛けようとしたとき、お風呂場からガタンという大きな音がした。
    「えっ……?」
     不思議に思って立ち止った僕を赤井が不思議そうに振り返った。
    「君って子は……どうしてこうもおかしなのに好かれるんだ?」
    「は?なんのことですか……?」
    「変態をこんなに部屋に溜め込んで」
     へ、変態!?溜め込むって一体何のことだ、と聞きたかったけど、残念ながら僕は赤井が言いたいことがなんとなくわかってしまった。
    「えっ、それってまさか……」
    「君も霊道という言葉は知っているだろう?」
    「は、はい……霊の通り道のことですよね?」
    「まあ、概ねあっている。この部屋はその上に立っているんだ」
    「ええ!?」
    「そこを通過している霊の一部が、君に異常な執着を見せてる。ところで、君の下着の色は?」
    「はあ!?」
    「と、君の耳元に囁きかけているのを含めて五体いる」
    「ぎゃーーーーっ」
     僕は足元にいたハロを抱き上げると、慌てて赤井の横に立った。
    「それを電話越しに気が付いて来てくれたんですか?」
    「ああ。ちなみに君の幽霊たちはそのショートパンツしか履いてない姿がお気に入りのようだ」
    「ひぃっ!あ、赤井、やっつけてくれますよね!?」
    「自分でやればいいだろ?」
     赤井はそう言うと僕の顎を指で掬いあげた。
     その途端に、赤井の背後に男の姿が現れたる。パンツ泥棒と同様に体が透き通っていて、赤井を睨みつけている。
    「ぎゃあっ」
    「思い出せ、降谷くん。変態幽霊の消し方は教えただろう? 」
    「お前……人の不幸を楽しんでるだろっ!?」
    「俺はそんなことのためにわざわざ人の家を尋ねたりしない」
     赤井の緑の瞳が僕を見つめる。睨み返すの、赤井の視線がふっと下に逸れた。僕もつられて下をみると、僕に抱かれてもなお不安そうなハロが僕を見上げていた。
    「……本当にあの方法で消えるんでしょうね?」
    「そうだ。ここにいるのは間違いなく君に執着してる変態だけだからな」
    「ああ、もう!!」
     僕はそう言うと赤井の唇に自分の唇を重ねた。高校の時とは違ってカサカサしてて煙草の匂いがしたけど、色々切羽詰まっていた僕はぎゅっと閉じた目尻に涙が浮かんでいた。
    「「「「「ぴえ~~~~~ん」」」」」
     謎の鳴き声が聞こえて目を開けると、半透明の変態はもうどこにも居なかった。部屋の中は目を閉じる前より明るくなって、空気も軽くなったような気がする。。
     僕は糸が切れたマリオネットのようにその場にへたり込み、ハロを抱きしめた。
    「ハロ~~~、ごめんなぁぁぁ!!!」
    「アンっ」
     こんな部屋にハロを一人で留守番させていたなんて。知らなかったとはいえ、申し訳なさすぎた。
    「まあ、ひどいことはされなかったと思うぞ。君の幽霊たちは変態だが愛犬には友好的だった」
    「どんな慰めですか!!それに君の幽霊って言うのやめてください!!」
    「それではもっと現実的な話をしようか。さっきも言ったように、この家は霊道に立っている。一度払ったぐらいでは似たようなのがすぐにまた集まってくるぞ」
    「そ、そんなっ」
    「引っ越しを勧めるよ」
    「……そうですか」
    ハロのことを考えると今すぐにでも引っ越したい。でも仕事の状況を考えると引っ越しのために休める状況ではない。部屋を見つけるだけでも何日かかるか……。
    「ちなみに今俺が住んでいるマンションはペット可だ」
    「えっ……」
    「次の家が見つかるまで一緒に暮らすか?昔みたいに」
    「……い、いいんですか?」
    「ただし条件がある」
    「まさか……」
    「毎日君にキスがしたい」
    「はあ!?」
    よ、よく考えなきゃだめだ。キスぐらいいかと安請け合いして大変なことになったのを覚えているだろう。でも現状を考えると赤井の部屋に居候させてもらう以上の案はすぐには見つからない。考えろ、考えろ、僕。相手に主導権を握らせないように、自分に有意な交渉をしなくては……。
    「……わかりました。でも僕からも条件があります。今後一切、単独行動はしないこと。それを約束してくれるなら、キスさせてあげてもいいですよ……その、昔みたいに……」
    「本当か!」
    「た、ただし!痕を残すのはなしですよ!?あなた前科があるから……」
    「いいだろう」
    赤井は僕の手をとるとチュッとリップ音をたててキスをした。
     それからバタバタと僕は引っ越しの準備をした。冷蔵庫が空に近かったこともあり、僕は必要最低限のものを愛車に詰め込むと赤井の派手な車の後に続いた。家電やベッドを運ぶにやはりトラックが必要か、と思っていたのだが。
    「えっ、あなた誰かと同棲してるんですか!?」
    「そんなわけないだろう」
    「で、でもこのベッドは……」
     赤井のマンションは広い1LDKだった。同じ仮住まいだというのに僕が暮らしていた部屋よりも家具が揃っている。おそらく家具が備え付けのマンスリーマンションなのだろう。
     その広いリビングにはクイーンサイズのマットレスベッドがデンと待ち構えていた。
    「君が来るかもしれないと期待してこのサイズを買ったと言ったら信じるか?」
    「……信じない」
    「だろうな。正直に白状するとオンラインショップでサイズを間違えて購入したんだ」
    「ええ?あはは、本当に?」
    「君の笑顔が見られて嬉しいよ」
     赤井はちっとも嬉しくなさそうな顔でそう言った。その様子からして本当に間違えて買ったんだろう。赤井でもそういう失敗するのかと僕はベッドを見下ろした。
    「降谷くん」
    「なんですか?」
    「君は自分に好意を抱いている男の部屋でベッドを見つめたらいけないと高校で習わなかったのか?」
     真後ろから聞こえた声に項がカッと熱くなった。
    「そ、そんなこと知らない……」
    「そうか。次から気を付けなさい」
     食べられてしまうよ、そう囁くと赤井の足音が離れていった。
    「紅茶を淹れるよ」
    「お、お構いなく……」
     僕は赤井がキッチンでお湯を沸かす音を聞きながら、ハロのために持ってきたものを部屋の中に配置した。ハロは物珍しそうに部屋の中をウロウロしていたけれど、ほどなくして自分のベッドで寝てしまった。今日は色々なことがあったから疲れたんだろう。
    「君のハロくんは賢いな」
    「そうなんです……僕はそれに甘えてしまって……」
     赤井に勧められるままにダイニングにあった椅子の一つに腰を下ろした。テーブルの上にはカップが二つ置かれていて、あの頃みたいだった。
    「君のせいじゃないさ」
    「そうでしょうか」
     赤井が淹れてくれた紅茶を口元に近づける。いつか淹れてもらったハーブティーの香りに似ていた。
    「……僕を眠らせてどうするつもりです?」
    「バレたか。どうもしないよ。君はハロくんよりも警戒心が強いから。安眠の手伝いをしたいだけだ」
     赤井はそう言うと僕よりも先にハーブティーを飲んで見せた。
    「別に警戒なんかしてないです。あなたと一緒なんだから……ああ、美味しい」
     赤井のハーブティーのさわやかな香りとわずかな酸味が心を穏やかにしてくれる。体が疲れていたことを思い出したようで腕を上げるのもおっくうになぬてしまった。ハーブティーを飲み干すと僕は椅子の背もたれに体を預けた。
    「このお茶、一体何が入ってるんですか……」
    「ただのハーブティーだよ」
    「嘘吐け……」
    「そう思うなら飲むな」
    「……いいじゃないですが。赤井と一緒なんだから……ふぁ……眠い」
    「はあ……今日は見逃してあげよう」
     僕は赤井に椅子を引いてもらって立ち上がると、数メートル先にあるベッドにダイブした。
    「赤井……あの時……」
    「ん?」
     僕の隣で横になった赤井が僕を見つめる。その瞳は切なくなるぐらい昔と変わらない色をしていた。
    「本当に熱海にいたの……?」
    「……ああ」
     当時僕は大学生だった。高校の仲間と久しぶりに旅行を計画して、熱海の海水浴場に行った。そう、一緒にいたのは温泉旅行の時と同じメンバー、僕とヒロと飯田と田中だった。
     なぜかその日、僕はやたらと人に声を掛けられてしまって、危なっかしいから絶対に一人になるなと言われていた。飯島にふざけて腰を抱かれたことも覚えてるけど、飯田とそういう関係だったわけじゃない。声を掛けずらいだろうからとカップルのフリをしていただけ。
    「信じてくれないかもしれないけど……」
    「嘘だとしても嬉しいよ。俺の失恋を癒そうとしてくれてるんだろ?」
    「だから……ちがうんだって……飯田とは何もなかったし……僕はずっと……」
     好きだった。赤井が。ライって呼ばなくちゃいけなかった時も。
     僕は眠くて、どこまでを声にしたのかよくわからなかった。
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    かとうあんこ

    DOODLE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする話、第三話。
    「その日のことはよく覚えてます。パパと姉貴とわたしの三人でママの誕生日プレゼントを買うために出掛けていたんです。姉貴は小学生、私は保育園に通っている頃で、パパが贔屓にしているアンティークショップに……え?名前?なんだったかなあ。随分前に倒産しちゃったから、もうありませんよ。……いえ、ママはドールハウスには全然興味なくて。アンティークショップのガラスの戸棚に飾られていたワイングラスをプレゼントすることにしたんです。それをお店のひとがラッピングしている間に、オーナーさんが『お嬢様たちにこちらはいかがですか?』と言って見せてくれたのが、そのドールハウスでした。本物の西洋のお屋敷を小さくしたみたいですごく素敵だったから、私も姉貴もすぐに気に入りました。ふたりでパパにおねだりして、買ってもらえることになったんですけど……パパがお会計している間、奥さんが、あ、オーナーの奥さんです、がこんなことを言ってたんです。『このドールハウスに人形は絶対に入れないで』って。私たちは不思議に思いましたが、奥さんがあまりに真剣な表情だったから「うん」と答えました。でも家に帰ってドールハウスを広げて、別に梱包してもらった家具を並べているうちに……人形を入れて遊びたくなったんです。ほら、子どもってダメって言われるとやりたくなるところあるじゃないですか。それに……人形がないほうが変な感じがしたんです。とても精巧にできていたから……ううん、そうじゃないな……人がいる気配がするのに誰もいない……そんな感じでした。でも、うちにあるのは着せ替え人形ばかりで、そのドールハウスのサイズにちょうどいい人形がなかったんです。そしたら姉貴が「紙のお人形を作ってドールハウスに入れよう」と言ったんです。「紙の人形なら約束を破ったことにはならないだろうから」って。私はすぐに部屋にあった画用紙に黒いマジックで女の子の絵を描いてソファに座らせました。その隣に姉貴が書いた猫の絵を置いたところで夕飯の時間になって、私たちはドールハウスをそのままにして部屋を出たんです。……あはは、大丈夫よ、真さん。子どもの頃の話だから。それに、もし何かあっても真さんが守ってくれるでしょう?……はい。そうなんです。夕飯を終えてドールハウスがある部屋に戻ってきたら、紙の人形が切られていたんです。バラバラに……。「やっぱり人形を入れたのがいけなかったのかし
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    かとうあんこ

    DONE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする第二話
    烏丸怪談②友人の話「え?僕には怪談はないのかって?う~ん、そうだなあ……僕の友人の話でもよければ。はは、そういうことが多いね。まあ、どちらでもいいじゃないか。これは友人が保育園に通っていた頃の話だ。彼はいつもお迎えが一番最後でね。母親の仕事が忙しかったんだ。彼は保育園では周りの子どもたちとうまくいってなかったから、園児が少なくない遅い時間のほうが遊びやすかった。だから、母親の迎えが遅くても気にならなかった。嬉々として居残っている彼を見て羨ましかったのか、園児のひとりが意地悪を言ったんだ。『あいつはいらない子だからお迎えが遅いんだ』って。気丈な友人もこれにはショックを受けた。いつもは独り占めできて嬉しい積み木も全然楽しくない。今すぐに母親に抱っこしてほしかった……。そんなことを考えてると、友人の前に見知らぬ男の子が現れた。『キミ、いらない子なの?』友人は当然ムッとして無視をした。ちょっとだけ泣いてたかもしれない。その寂しさを見抜いたように男の子は『じゃあ、一緒に遊ぼうよ』と言った。友人は少し悩んでから『ウン』と言った。それから二時間、彼は行方不明になった。保育園の先生はもちろん彼を探したし、お迎えに来た母親も一緒に探した。家に帰ったんじゃないか、散歩で行った公園にいるんじゃないか。いろんな場所を探したが、見つからない。いよいよ警察に連絡しようとなった時、子ども用トイレから友人が現れた。『やっと帰ってこれた』と言いながらね。二時間だけの神隠しだ。……どう?名探偵の君には物足りなかったかな」
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