Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    みりん(うちよそ)

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    一応完成させましたやつです
    レイナちゃんはほとんど出てきません
    博士の過去です

     蛍光灯の白い光が差し込んできて目を開ける。ぼんやりと辺りを眺めるとどうも見覚えのある場所であった。狭い教室に長机がひとつと椅子がふたつ。壁には大きな本棚にロボット工学の本がぎっしりと詰まっている。
     なるほどここは高校時代の部室ではないか。ロボット部、懐かしいな。働かない頭を何とか働かせそう考える。高校生だなんてもう十数年前のことだ、つまりこれは夢だな。幾分かハッキリとしてきた頭でそう考えると少しワクワクしてくる。ここは部室、ということは…そう思いキョロキョロと辺りを見渡すとやはり彼女がいた。
     いつもは左目を髪で隠して目をキラキラと眩しいほど輝かせ、100メートル離れていても分かるほど存在感を放っていた彼女だが、今目の前にいる彼女はどうだろうか。少しの風で吹き飛ばされてしまいそうな、両目で見つめなければ見失ってしまうような、そんな不安定さを感じる。
    「博士…」
     毎日聞いている、そのはずなのにどこか懐かしい声は弱々しく、助けを求める声に聞こえた。彼女が俺を置いて言ってしまうように聞こえた。どうして、お前は俺の横に…そう言いたかった。だが喉からはか細い息しか出ない。静寂が部室に響く。彼女は潤んだ瞳を隠すように俺に背を向け部室を出ようとした。体が動かない。どれだけ手を伸ばしても届かない。…行かないでくれ、俺は…!そう思ったところで視界が白み、意識が遠のいていった。
     
     バッと飛び起きるとまず汗で濡れた寝巻きに不快感を感じた。時計に目をやると深夜3時。嫌な時間に起きてしまったと寝起きの頭で考えていると部屋の外からバタバタと走ってくる音が聞こえた。
    「ハカセ〜大丈夫っすか」
    「…レイナ。悪いね、起こしちまったか」
    彼女はレイナ。ロボット開発に携わっている俺の元で助手として働いている少女である。助手、とは言ったものの、やってもらっていることは雑用や家事などである。如何せん彼女は不器用なのだ。ネジを1つ閉めさせただけでその機械を爆発させたこともある。それでも俺の役には立ちたいらしい。そのため雑用などを頼むと不服ながらもしっかりとこなしてくれる。真っ直ぐな子だ。
    「ハカセずっとうなされてたっすよ大丈夫っすかなんか怖い夢でも見たんすか」
    片方だけの不安げな目を向けながら、レイナはそう言った。深夜3時に起こされて、なおかつ俺の心配までしてくれる。どこまでいい子なんだと感激しながらつい頭を撫でてしまう。
    「…なんでもねえよ。ほら、今日休みだからまた寝てきな」
    「ほっ…良かったっすじゃ2度寝してくるっす〜」
    「ははっ、よく寝ろよ。おやすみ」
    「おやすみなさいっす〜」と元気よく去っていったレイナを見て、少し夢のことを考えた。なんか不吉な夢だな…と顔を顰めた。あんな夢を見てしまうと嫌でも過去のことを思い出してしまう。
     
    「どうしてあんたみたいなのがうちの子なのこの出来損ない」
    バチンという音の後、続くように母の甲高い声が響き、頬に痛みが走る。涙は出ない。なぜなら、これが俺の日常だったからだ。俺の母親は所謂「教育ママ」と言うやつだ。正直、しょうがないとは思う。俺は、母は社長令嬢、父は界隈で名の知れた研究者、と期待をされるには十分すぎる環境で生まれてきてしまった凡人なのだ。重すぎる期待を背負わされるが、その期待には答えることは出来ない。ただただ苦しかった。
     しかし、そんな中でも父は俺の味方をしてくれた。父がいる時はいつも母をなだめてくれるし、父の研究室へ連れて行ってくれることもあった。研究室にいる時の父は俺に色々教えてくれた。冗談を混じえつつ、生き生きと話す父の姿は憧れであった。
     そんな小中時代を過ごし、県内でも有数の進学校に進学することが出来た。もちろん偏差値は県下1位。だが俺がそこを選んだ理由はもうひとつあった。単刀直入に言えば、ロボット部があったからだ。母に言えば全て否定されてしまうだろうと思い内緒にしていたが、俺は父のような研究者になるつもりだった。そのためにも、この高校を選ぶ他なかったのである。
     いざ入学し、ロボット部に入部してみると、なんと部員は俺たった1人であった。どうやら顧問の先生いわく
    「今年入部希望者がいなければ廃部だったよ」らしい。
    危ない危ない、俺の夢が潰えてしまうところだったと安堵し、俺の高校生活がスタートした。
     そこから1年、それなりに楽しくやってきた。ロボットについて学ぶのは面白い。部費を全て費やしてロボット工学の本を買い、読む。それだけの活動であったが、それなりに充実していたと思う。1年生の終わりには本棚の半分は埋まっていた。旧校舎の奥の教室が部室となっていたため、人が来ることも少なく、静かであったのも、活動の妨げにならず良かった。
     そんな部活動が一変したのは2年生の春、新入生が入学してきた時であった。入学式が終わると何があるか、そう、部活動勧誘だ。各部趣向を凝らして、新たな部員を引き入れようとする。部員数が少ない部活はここが新入部員GETのチャンスなのである。顧問の先生には、
    「今部員1人なんだから新しい子誘えよ〜」
    などと言われ、入部届をわたされたが、現状困ったことは無いし、引き入れるつもりは無い。それよりこの入部届どうしようか、そんなことを考え、部活動勧誘の声を左右に受け流し、部室に向かった。
     …まあ、こんな部活に入る変人なんか居ないだろ、とタカをくくって本を読んでいると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえた。おいおい、廊下は走るなよと思っていると、どんどんと音が大きくなってきた。そして部室の前でピタッと止まると、コンコンコンとノックの後、はいどうぞと言うまもなく扉がバンッと開かれた。
    「あなたが自分の博士っすか」
    「……は」
    あまりに唐突でつい固まってしまった。そんな様子に、片目を隠した少女は慌てた様子でこう続けた。
    「あぁ自己紹介が遅れたっす自分片篠 レイナっす誕生日は7月7日の15歳っすお噂はかねがねあなたの助手になりに来たっす」
    レイナと名乗った少女はピシッと敬礼のようなポーズを取ってそう言った。……いたな、変人。そう思いながら詳しく話を聞くことにした。
    「レイナちゃん…だっけどうしてうちに」
    「はいロボット部で頭のいい先輩がロボットの勉強してるって聞いたっすだからその助手になりたいっす」
    「私は全然いいけど…なんで助手研究はしなくていいの」
    「自分はそんなに頭が良くないっすからあと助手ってかっこいいっすし」
    ……どうやら彼女は相当単純らしい。続けて質問をする
    「それで…助手になるって言ってもロボットとか詳しいの」
    「いえ全然」
    清々しい程に元気な声で言われてしまった。どうしたものか、少し素直すぎないかと考えていると、彼女が不安そうに覗き込んできた。
    「あの…やっぱ知識がなかったら無理っすかね…なんだったら、その…サイボーグとかの実験体にしてもらってもいいんすけど…」
    唐突である。現実味のない発言に思わずふふっと笑ってしまった。すると、
    「笑ったっす合格ってことっすか」
    とパッと表情を明るくして目を輝かせている。
     そんな仕様では無いのだが…まあいいか。そんな風に考えて、彼女に入部届を手渡した。
     そこからの高校生活は今までのものとは180度変わった。部室に行くと、高確率で賑やかな後輩、いや助手がいる。俺がしていたのは本を読むことだけであったので、レイナにとっては退屈であっただろうが、彼女はいつも楽しそうにしていた。俺はそんなレイナに支えられていた。いつの間にか、レイナといることが当然になっていた。連絡先は交換して、母親に制限されている時間までは、ずっとレイナと連絡していたし、休日だって部室に呼び出して2人で過ごした。かけがけのない日々だった。こんな日々が続けばいいと思った。
     しかし、1つ問題が起こった。部活でレイナと過ごしている時間が長くなるほど、成績が下がっていってしまっていた。当然、母に問い詰められ、とうとう部活のことがバレてしまった。しかし、不思議なことに、母は俺を責めることはなかった。ただ冷ややかな目を俺に向け、頷いているだけだった。話が終わるとそそくさと向こうに行ってしまった母が振り返った時、ニヤリとしていたのは、目の錯覚だろうか。
     次の日から俺は、成績が元に戻るまで、家で勉強されられた。そういえばマシに聞こえるが、言わば軟禁状態である。家から出るどころか、机から動くことさえ許されず、ただ機械のようにワークを解かされた。だか、俺には部活がある。レイナに合わなければ。あいつも寂しがってるに違いない。そう思いひたすら勉強した。
     寝る間も惜しみ勉強し、およそ1週間でワークを解ききり、母から学校に行くことを許された。登校していの一番に部室を覗く。誰もいない。いつもならいるのにななどと思いつつ、まあ遅刻かなとレイナを待つため、本を読むことにした。10分、20分と待つが、レイナは来ない。ついにHR5分前となってしまい、諦めて教室に行くことにした。
     授業を受け、昼休み、放課後と部室に行くが、やはりレイナは居ない。体調不良だろうか、心配だ、と連絡を取ることにしたが返事がない。5分に1回電話をしたのだが、出ないのは何かがおかしい。そう考えながらも、今日のところは帰宅することにした。
     そんな日が何日も続いた。しかしある時からレイナがまた来始めたのだ。不思議なことに、部室から出られないようだが、まあそんなことは些細なことである。
     ある日、いつものように部室に向けて歩いていると、コソコソと内緒話をしているのが耳に入った。
    「ねえ、聞いた?1年のあの子、海岸で見つかったんだって」
    「しかも首には締められた跡があったって話もあるよねうわ〜、怖〜」
    「あの子ロボット部とか入ってたよな」
    「2年のあいつの親金持ちだし、なんか関係してそ〜
     w」
    全く、根も葉もない噂である。第1、レイナは生きている。今も部室にいて、俺を待っているのだ。
     部室に着き、ガラッと扉を開ける。
    「あ博士遅かったっすね」
     人懐こい笑みを浮かべ、レイナがそういう。そうだ。やはりレイナはここにいる。レイナは生きている。
     そうして、残りの高校生活も過ぎていった。しかしある時を境に、レイナがパッタリと学校に来なくなってしまったのである。受験にも身が入らず、第1志望校には落ちてしまった。その時の母の様子と言ったら、形容しがたいほどのものであった。あの時父がいてくれなければ、俺は死んでいたかもしれない。
     結局そのままレイナとは会うことがなく、俺は高校を卒業してしまった。大学は、父が通っていた大学に行くことにした。レイナはロボットが好きだったから、ロボットを学んでいればいつか会えると思った。
     大学は楽しいところであった。しかし、レイナに会うことは出来なかった。そういえば、レイナがどこの大学に行くつもりか、聞いていなかったことを思い出した。
     大学を卒業した俺は、父の研究室で働くことにした。母とは離れ、悠々自適な生活を送っていた。ある時、町を歩いていると、レイナそっくりの人を見かけた。まるで双子のようだ。考えるよりも先に体が動いていた。声をかけ、違うと言われたが、信じることが出来ない。名前はレイカというらしい。
     そうして気がついた。そうだ、レイナは赤ん坊になって、俺の元に来ようとしているのだ。レイカを孕ませ、産ませた子がレイナなのか、と。そうなってからは早かった。有り余っている金を使い、レイカと結婚した。そうして4ヶ月後、ついにレイカの妊娠が発覚した。
     やっとだ、ついにレイナに会えるんだ。心が踊った。その事をレイカに伝える度に、彼女は顔を顰めた。どうしてだろうか。
     そしてある時、いつものようにレイカの腹に耳を当て、レイナの名前を呼び続けていると、耳をつんざくような声が降り掛かってきた。
    「いい加減にしてください私、調べましたあなたの言っているレイナさんはあなたが高校生の時に亡くなっているはずです」
    「…何を言っているレイナは今、お前の腹の中にいるだろ」
    「馬鹿なことを言わないでくださいこの子は男の子ですレイナさんではありませんあなたの子です」
     …プツンと頭の中で何かが切れる音がした。そこからしばらくの記憶が無い。はっと意識を取り戻した時には、そこには真っ赤な両手とぐちゃぐちゃになった肉の塊があっただけであった。どうやら俺はレイカを殺してしまったらしい、とどこか他人事のように感じていた。
     かくして俺は人殺しになったわけだが、警察に厄介になった訳では無い。まあ息子が人殺しとなると両親の面目は丸潰れであるため、金の力でもみくちゃにされたわけだ。まあ、勘当はされたが、生きていくには十分な金は手に入った。さて、冷静になって考えてみると、生きているレイナが赤ん坊になってやってくるわけが無い。ではどうすれば良いか。そうか、レイナは今の俺に会いたくないだけなんだ、そう考えた。つまり、レイナに会うためには、俺が変わらないといけないのだ。
     まず、レイナは左目を隠していた。理由は詳しくは話してくれなかったが、どうやら失明しているかららしい。失明している人のつらさは、失明している人にしか分からない。レイナはその辛さを共有したいのではないか。だから俺は、左目を潰した。痛かったが、これで辛さを共有できると思えば安いものだ
     次に、父のようになることにした。以前父の話を出した時に、「ダンディな人ってかっこいいっすよね〜」と言っていたことを思い出す。俺の中でのダンディな人とはやはり父のことだ。父はいつも飄々としていてジョークを織り交ぜたトークをする。そしてよくタバコを吸っていた。そんな父のことは俺もかっこいいと思っていた。だから、真似することにした。
     他にも色々なことをしたが、レイナには会えなかった。何故だろうか。突如、ひとつの事を閃いた。せっかくロボット開発の知識を持っているのだ。作ればいい。そうか、そうだな。1人で納得して、俺はレイナを作ることにした。
     レイナはいつも元気だった。だからいつも元気であるようにプログラムした。
     レイナは手先が不器用だった。だから手先の可動パーツを1つ減らした。
     レイナは可愛いものが好きだった。だから頭にはリボンのモチーフをつけてあげた。
     レイナは髪型をコロコロと変えていた。だから外付けの髪型パーツをいくつも作ってあげた。
     レイナは……
     ある年の七夕の日、ついに最終確認を終え、起動することにした。首に電源装置を取り付ける。フォン、と音がしたあと、首元のランプが光り出す。そうしてぱっちりと右目を開けた彼女は俺を見るなり目をキラリとさせて言った。
    「あなたが自分のハカセっすか」
    ……ああ、やっと会えた。久しぶり、レイナ。

    「ハカセ〜起きてくださいっすもう10時っすよいくら休みだからってねぼすけすぎるっす」
    耳元で大きな声がする。重い瞼を開け、首を傾けるとぷんぷんと可愛らしく怒っているレイナがいる。
    「ん〜…あと5分…」
    「だ〜めっすよご飯作ったんすからさ、食べに行きましょ」
    「分かったから…あんまおじさん引っ張らないで…」
    ズルズルとレイナの怪力でベッドから引っ張り出される。レイナの元気さには振り回されているが、今、俺は最高に幸せだ。

     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    みりん(うちよそ)

    DOODLEレイナちゃんの博士の過去のお話です
    とりあえず書いて見た感じなので色々雑です
    色々指摘ください
    博士 過去私は恵まれた方だ、と思うことはよくあった。
    実際、私の母、海崎 ミツキは大企業の令嬢、父、海崎ユウは界隈で名の知れた研究者であり、お金に困ることはなかった。人々はそんな私を羨ましいと言うが、私に言わせてみればそちらの方が羨ましいと思う。
     私の中のいちばん古い記憶と言えば2歳の頃、母からアルファベットを教わっている時の記憶だろう。母が左に文字を描き、私がそれを真似する、それだけの事で母が喜んでくれ、嬉しかったことを覚えている。しかし、人間の記憶とは曖昧なものだ。その時父が撮っていたビデオには、「流石私の子」「この子はT大に行かせなくちゃ」などといった甲高い母の声が残されていた。今聞くとそこには「都合のいい存在が出来た」などといったような、黒い感情が混ざっているようにしか感じられなかった。ご察しの通り、私の母は所謂「教育ママ」というものであり、私は厳しい指導を受けていた。朝は5時から勉強、学校から帰ると直ぐに塾に行って勉強、塾から帰ると11時まで勉強、といった勉強漬けの日々であり、幼い頃の私はよく涙を流していたものだ。問題を間違えると暴力を振るわれるのは日常茶飯事であったし、帰宅が1秒でも遅れると夕食は取らせてもらえない。しかもそれをするのは父が家に居ない時のみであったためとてもタチが悪い。放課後、遊ぶ時間もなく帰る私を、クラスメイトは変わっているといい、いじめられる、とまではいかなかったが小中は孤独に過ごしていた。勉強以外にも、一人称は私にしなさいだの両親のことは名前にさん付けで呼びなさいだの色々面倒なことがあった。
    3758

    recommended works