クリスマス甘々デート?の話(高銀)恋人たちがときめく聖夜、クリスマス。
みんながキリギリスのごとくぬくぬくイチャイチャしているなか、働き者のアリさんこと俺はというと、せっせと汗水垂らしてバイト中。
ドライブスルーで注文受けて、せっせせとせっせとお客様に品物をご提供。
熱々のコーヒーを渡すためにカウンターに出れば、窓を開けて身を乗り出してきたのは、黒髪の若い男だった。
「……ご注文のコーヒー、お待たせ致しました」
「テメェは何時にテイクアウトできるんだ?」
「すみません、お客様。後ろの方がお待ちしておりますので」
にっこり営業スマイルでそう答えると、男はチッと舌打ちして「コーヒー」を受け取る。
「……そこの脇に車止めて待ってる。終わったらとっとと来い」
「お次のお客様どうぞ〜」
男が不機嫌そうな顔のまま車を出す。
その後ろを見送りながら、俺は心の中であっかんべーをした。
「元はと言えばお前が悪いんじゃん」
あれから一時間後。ようやくバイトが終わって、
さっきの車を見つけてその窓をコンコンと叩く。
すぐに助手席のドアが開いて、奥の運転席から男が睨んでくる。
「……乗れよ」
「……」
「銀時」
「なんでお前が怒ってるわけ?」
「あ?」
「俺……お前がクリスマスのこと何にも言わねぇから、てっきり興味無いのかと思ってバイト入れたんだぜ」
「言わなくても普通は予定空けとくだろうが」
「言われなきゃ空けるわけねぇたろうが」
しばしの睨み合い。
先に負けたのは、高杉のほうだった。
まあ、分が悪いのは最初から目に見えていた。
「……悪かった」
「ん、許す」
俺はズビッと寒さのせいで垂れてきた鼻水をすすって、助手席に乗り込む。
暖房が効いた車内は、たちまち俺のかじかんだ手指を溶かしていった。
「……冷てェ」
高杉が俺の頬に手の甲を当てる。
思わず擦り寄ったのは、ずっと暖かいところにいた高杉の手がポカポカしていたからであって、他意はない。断じてない。
くしゃり、と高杉が俺の髪を撫でる。そして、もう一度名残惜しそうに俺の頬を撫でてから、その指先が離れていく。
離れた指先はハンドルを握って、その足はアクセルを踏む。
「……シートベルト」
「ん」
ゆっくりと車が走り出して、道路に乗る。
運転している高杉は当然ながら正面を向いている。その横顔を眺めるのが、なんだかんだ好きだったりする。
「で、どこ行くわけ?俺、腹減ったんだけど」
「こんな時間だ。もうどこも閉まってんに決まってんだろ」
「えー、せっかくのクリスマスなのに?」
恨みがましく言えば、高杉もまたチラリと恨みがましい視線を返してくる。
「せっかく予約してた店もキャンセルしちまったしな」
「ふーん、デートプラン考えてくれてたんだ」
「パーになったけどな」
「今度連れてってくれれば、パーじゃねぇだろ?」
「……ふん」
高杉が拗ねたように鼻を鳴らす。怒ってるわけじゃない。バツが悪いだけだ。
というか、そもそも高杉が最初から俺にちゃんと言っておけばよかっただけなのだ。
恋人になったからって、自動的に俺の予定を抑えられてると思ってるところが、少しだけ腹立たしい。
口に出せばまた喧嘩になるので飲み込んでやる。ああ、俺ってなんてオトナでケナゲなんだろうか。
けれども、その亭主関白なところはこれから叩き直してやる。誰に誓おうか。お天気お姉さんか松陽に誓おう。
ラジオからは定番のクリスマスソングが流れてきて、俺もなんとなく口ずさむ。
「ご機嫌じゃねェか」
「んー?」
フレーズに合わせて「背の低いサンタクロース」と歌ってやる。
ちょっとした意趣返しに、ニヤニヤしながら高杉の顔を覗き見る。
けれども、高杉はなぜか愉快そうに口の端を歪ませている。
「恋人……か。存外、可愛いこと言うじゃねェか」
「ばっ……!ちが、今の無し!」
「無しじゃねぇよ」
高杉が喉奥で笑う。
さっきまでのちょっと険悪なムードなんかすっかり消えてしまっている。
ああ、そうだ。浮かれている。
俺も高杉も、柄にもなくクリスマスなんてものに、浮かれているんだ。
「なあ、高杉。ちょっとそこ車止めてよ」
「あ?」
「俺、いますげーキスしたい気分なんだよ」
そう言って、高杉の膝に手を乗せる。
高杉の喉がゴクリと鳴ると同時に、手を退ける。
「テメェ……」
「高杉も俺にキスしたくなった?」
「……覚えてろよ」
「ちゃんと前見て運転しろよ」
傍から見ても、高杉が駐車できるところを探しているのが分かって、少しソワソワする。
この車が停まったら、どんなキスをしてやろうか。
そんなことを考えながら、俺は高杉の横顔を見つめている。