吸血鬼の坂田と、人間の高杉の高校生パロ(高銀)「坂田くん。三日も休んでるね」
「体調不良だっけ?風邪?」
「本当は、失恋したショックで寝込んでるらしいよ」
「えー、うそー」
「坂田ってそんな繊細な男だっけ?」
「でも休む前からちょっと体調悪そうだったよね」
「一週間前にモブ子が坂田に告白されたんだって」
「でもモブ子って、確か高杉くんのことが……」
「高杉くんはヤバいって」
「えー、でも顔かっこいいじゃん」
「こないだ見ちゃったんだよね、腕にさ、凄いたくさんの切り傷の跡があるの」
「それってもしかして、リストカットってこと?」
「分かんないけど……」
放課後。そんな口性のないクラスメイトたちの戯言を背に、高杉は帰り支度を調えるとひとりで教室を出た。
築30年以上の古いアパートの錆び付いた階段を上がる。
ポストからチラシがはみ出ている薄いドアに鍵を差し込み、ガチャリと回せば、そこはワンルームの小さな間取りだ。
窓一面にはダンボールが貼られており、カーテンは閉ざされている。そして窓辺から一番離れたところに置かれたベッドの上で、布団がこんもりと盛り上がっている。
高杉はため息をつくと、その山に近づき、腰を下ろす。
「銀時、飯だ」
「……いらね」
ひどく弱々しい声だった。
「そう言ってもう一週間も飯食ってねぇじゃねぇか」
「いらねぇ」
舌打ちをして、布団を強引にめくりあげれば、現れたのは、高杉と同じ年頃の少年の拗ねた顔だった 。
寝乱れた白い髪に包まれた顔はやけに青ざめており、肌も少し荒れ、唇は乾きかさついている。
体調が芳しくないのは一目瞭然だった。
だが、その理由を知っている高杉はうんざりとした顔で、もう一度大きなため息をついた。
「女に振られたからって拗ねてんじゃねェよ。ガキか」
「あ?チビにはデリカシーって言葉を知らねぇのか!てか、触んなよ」
伸びてきた手をピシャリと叩き落とし、その少年……銀時は目をつりあげた後、しおしおと落ち込む。
「うううモブ子ちゃん……。モブ子ちゃんにはなぁ、ほかに好きな人がいるんだってよぉ……だから、だから……」
「そーかい、そーかい、そいつは残念だったな」
「テメェだよ!この女たらし!」
「人聞き悪いこと言うんじゃねぇよ。そんな女たらした覚えもねーし、俺ァ顔も知らねぇよ」
「ムキーー!」
銀時は奇声を上げながら布団から飛び起きるが、直後に貧血を起こしたように、ふらりとベッドの上に倒れ込む。
「フラフラじゃねぇか」
「うるせぇ」
「とっとと飯を……俺の血を飲め」
「やだ」
「吸血鬼がハンスト起こしてんじゃねぇ」
「やだ」
ぷいっと銀時は顔を背ける。
「なんで恋敵の人間の血なんか飲まなくちゃいけねぇんだよ!」
「テメェが吸血鬼で、俺がその『ブラッドドール』だからだよ」
「うるせぇ、このまま枯れてやる。恋に散った儚く美しい吸血鬼としてな」
「テメェのどこが儚く美しいんだ。俺ァ、先生にテメェのこと頼まれてんだ。餓死なんかさせられるか」
「俺はもう二度と!金輪際!テメェの血なんか飲まねぇからな!松陽に頼んで誰か別のやつと契約する!!」
「あ?テメェ今なんて言った?」
低く唸ると、高杉は銀時の頭を掴み布団に押し当てた。ぐえっと銀時が潰れたカエルのような声を出す。
高杉はポケットからカッターを取り出すと、それで自分の腕を5センチほど切りつける。、
そして、傷口に口をつけジュルリと吸い込んで口に含むと、銀時の両頬をがしりと掴み、力づくで唇を重ねてその中に流し込んだ。
「んーーー!んー!」
銀時ははじめこそ抵抗するも、直接口内に注ぎ込まれてくる芳醇な香りと味わいに、飢えていた体が疼きだす。
高杉は銀時が嚥下するまで、しつこく舌で口の中をこねくり回すと、そっとその唇を離す。
「高杉……」
銀時の目は既に欲で濡れていた。青ざめていた頬は上気し、うっとりとした表情で、高杉の血に濡れた腕を抱き寄せ、舌を這わせる。
「ん……高杉……もっと……もっとほしい」
「そんなにガッツつくんじゃねぇよ。……今度は俺が貧血で倒れちまうだろ?」
失血の影響か、少し青ざめた顔をしながらも高杉は自分の腕にむしゃぶりつく銀髪を撫でながら、うっそりと笑う。
「ったく、こんなに俺の血が好きなくせに、今更ほかの誰の血が飲めるっていうんだ」