雑渡さんからの贈り物贈り物をしたことがある。
高価な口紅だったと思う。
彼女はそれを付けて他の男に口付けをした。
背が低く平凡な顔立ちの、育ちの良さそうな、地味な男だった。
あの時感じた憎悪、失望、嫌悪、そして妬みは、忘れることなど出来るわけもなく。
その日から、彼女に物を贈ることはない。
「浮気を許しているつもりは無いんだけどね。そう見える?」
🌸の着物を開けさせながら、雑渡は言う。
着物でかろうじて隠れるあたりの、🌸の胸元には、どこの誰かわからない男の残した口付けの跡が赤く残っていた。
それを隠そうともしない🌸に、苛立ちが募る。
「まさか。あなたが私を許さないと知っているから、こうやって他の殿方にも足を開くのよ。あなた、物凄く嫌がるでしょう?」
「当たり前だ」
🌸はくつくつと笑うと、はしたなく足を広げ、雑渡の膝に座り込んだ。
すると自らの、紅く塗られたふっくらとした唇を、指でゆっくりと撫でる。
そして、艶やかな笑みを浮かべながら、雑渡の唇をゆっくりと指でなぞった。
なぞられた唇は🌸の口紅で色づき、それを🌸はうっとりと眺める。
下品で挑発的なその仕草に、雑渡は眉を顰め嫌悪を示す。
こんなことを🌸に教えたことはない。
🌸はそんな雑渡の顔を見て、満足そうに目を閉じた。そして雑渡とそっと額を合わせる。
「沢山私のことを考えてくださいね。たまには私のことで頭をいっぱいにしてくれなくちゃ嫌よ。」
愛らしくも憎らしいお願いに、雑渡もゆっくりと目を閉じる。
額に巻いた包帯越しに感じる彼女の体温に思いを馳せる。
「そうだね。わたしは大抵、お前でいっぱいだよ。」
「嘘つきね。愛しているけど、大嫌いよ。」
「お前ほどじゃ無いよ。」
憎くて憎くて、恋しくて。
だから言わない。
誰かに抱かれるその時は、あなたのくれた、あの口紅をする。いつもそう。
少しずつ、大切に。あなただけを想うために。
あなたへの恋心も、こうしてすり減れば良いのに。
終