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    いろいろ捏造

    兄上どんな人やろな、で捏造してる話(あ4〜エピ)◯愛のあいさつ 第四話

     家に再び静寂が戻ってきた後、兄が「ちょっと話さない?」と比較的軽い調子で弟を誘ってきたので、二人だけで部屋に留まっていた。まだ厳密には病気が治ったわけではないのに、兄は晴れやかな顔だ。弟をソファに座るよう促すと、自分も隣に座った。
    「お前のおかげで覚悟は決まったよ。まだまだ先行きは不安だか頑張るからね」
    「うん。兄上なら大丈夫に決まってるね」
    「それでさ、ちょっとお兄ちゃんの願いをもうひとつ聞いてくれないか?」
    「なんですか?」
    晴れやかそうだった兄は、ここで少し迷ったようだったがやがてはっきりと告げた。
    「この家のことは絶対に私がなんとかするから、お前はあまり家に囚われず生きてくれないか?」
    「えっなんで?」
    予想以上に弟はショックを受けたようだ。ひょっとしたら、家から出ていけというニュアンスに聞こえたのかもしれない。そういう意味ではなかったので、兄はもう少し適切な表現を探した。
    「ふう。じゃあちょっと変えよう。お前はお前の才能を活かせる場所を見つけてくれないか?」
    まだ腑に落ちないらしく、日和は目をパチパチした。
    「いつだったか教えてくれたね。芸事の神様に愛されたいなら、まずは愛してあげろって」
    これに対して、日和から「あったね。兄上よく覚えてますね」と感想がきて、そのまま同じ言葉を返したくなったが、話を脱線させないように、最初に言うつもりだったことを続けた。
    「あれを聞いた時お兄ちゃんは思ったんだ。この子こそ、そういう神様にも愛されて、お返しに自分の才能を使って多くの人に愛が振りまけるんだろうなってね」
    少し兄は言葉を切った。まだ伝えたいことはあるが、口に出し辛いことだった。
    「お兄ちゃんのことは愛しているね?」
    「はい」
    即答された。ここまでは、聞いている兄の方も予想していた通りだった。そして兄は、もう一つ質問をするつもりだった。おそらくこれも即答されるだろう。それが少し……聞く前から悔しい気がして、兄は聞き辛かった。
    「父上や母上も、愛しているよね。家族だから」
    「はい」
    やはり簡単に返事がきたので、兄は「ははは」とどこか乾いた笑い方をした。しばらくして、改めて弟へ向けた兄の顔は、とても優しいものだった。
    「それでいい。お前にはこれからも愛する人がたくさんできるし、その人たちを幸せにしてあげるんだろう。私も、お前がそうできることを願ってる」
    「…………」
    弟の表情が陰る。兄はやはり優しい口調で諭すかのように聞いた。
    「英智くんのことが気になるのかい?」
    「……ぼくは、友達になりたいなりたいって言い続けてくれたあの子の気持ちを踏み躙った。それをした原動力が家族への愛なんだとしたら……愛ってそう素晴らしい感情とばかりは言えない……。場合によってはとても尊くて綺麗なものだけど、また別の場合にはこんな結末をもたらすのだと、よく分かりました……。もっと早く、はっきり拒絶した方がむしろ英智くんを傷つけなかったのに……」
     確かに〈愛〉を基準に行動することはいいことばかりでないのは兄もよく分かった。要するに、決断する指針を良いか悪いかもしくは適切か適切でないかではなく、〈愛する者のためかどうか〉にしてしまうからだ。
     最もそこまで重い感情までいかなくとも、なんとなく可愛い、可哀想というだけで判断が甘くなったりするのは、どんな人間でも起こりえることだ。
    「……美しくて尊い愛だけを、大切な人に渡せるようにこれからは頑張りますね」
    弟は自分の決断をそう話して結んだ。兄もまたひそかにあることを決断をしながら言葉を返した。
    「ああ。そうしてあげなさい」

     弟に文字通り命を救われて、兄の心はずっと妙な心地になっていた。どこか冷静な思考のようなものが、こんな状況になったのだから勘違いしているのだろうという声を出す。実際その方が良いだろう。弟である以前に、相手は子どもなのだ。
     しかし、勘違いでもこの感情を一度味わってみるのはいいだろうという声も彼の心に湧き上がっていた。そうでもなければ、なんとなく自分は一生誰のことも愛さない気がするからだ。それはどことなく悲しく思えた。
     自分の心の真実がどこにあるにせよ、どうだったにせよ、弟に告げるつもりはほぼないのだから、結局は別になんでもいいのだった。
     ただ兄は、自分でもよく分からない心の、さらに奥のところで、弟に先程伝えたようなことを叶えて欲しいという願いが、強くあたたかく燃えているのが分かった。
     一方でくよくよもしていた。このままの状態で弟が成長し、当主の補佐をするために自分の側に寄り添ってくれるのならば、きっと自分は安心するだろうし、幸せだろうと思うからだ。
     自分の側にずっといて欲しいのも、家に縛られなくなってほしいのも、どちらも願うことだった。なのにどちらの未来に進む想像をしても苦しくて、よく分からない。
     そこまで苦しくても、確実に言えることはある。
    (助けてくれてありがとう。今まで何度も。ちょっとでもお前の何かが違っていたら私はお前を憎む可能性だってあったのに。日和は誰にとっても愛しがいのある人だね。一生において愛せる人に巡り会うことは決して当たり前のことでなく、奇跡の一つだと私は思う。私は、お前を愛せること自体が嬉しいよ)

    ◯エピローグ

     過去のことを思い返していた英智は、現在の友達の前に目線を戻した。星奏館、談話室にあるテレビの前だ。思い出しはしたもののそれを語るつもりは全くなかったので、とりあえずひとつだけ愚痴っぽく口にしてみた。
    「日和くんは小さい頃から訳知り顔で、何かと言えば『愛だ愛だ』とうるさい子だったね」
     今でも縁が続く友達の一人、千秋がふと呟いた。
    「小さい頃か。そう言えば天祥院、えっとその……俺たちは小学生くらいの時に知り合ったよな、病院で」
    「ふふ、懐かしいよね」
    「2回目に脱走しようとした時……」
    「おっと千秋。敬人に問い詰められたくないからバラさないで」
    英智が人差し指を口に当てたので、千秋も素直に口をつぐんでしまった。
     英智と知り合ったばかりの時期に起きた出来事で思い出したことがある。千秋はある日茂みの中で大泣きしている子を見つけ、その子がどこかへ走り去ってしまったあと、病院の中に戻って英智と最初に出会った廊下を見に行ってみた。するとはたして英智がまた倒れていた。なんとなく予感があったのかもしれない。それでも驚きはしつつ助け起こした時、英智が「……くん」ともらしていたのを、聞いた気がする。
    「脱走とはなんだ英智。仏に誓って今すぐ弁明してみろ。時効とは言わせないぞ」
    「仏に誓って? どちらかというと懺悔しろって言われてるみたいだ」
    眉を顰めて説教スイッチの入った敬人をなんとか宥める横で、テレビに映る番組の進行は澱みなく流れていく。
     この場にいた英智の友達のうち、月永レオだけは全く言葉を発さず机に向かっていた。彼は霊感が湧くと他の全てをそっちのけで作曲をする癖があり、ノートと、そこからはみ出しても大丈夫なように敬人が敷いたさらに大きな紙の上に夢中で音符を走らせていた。にも関わらず、ある曲がテレビから一音響いたら急にガバッと顔をあげ、
    「なあテンシ。テレビ」
    と言いながらニパッと笑うと、また作曲に戻った。言われるままに英智はテレビを見た。
    「おや、驚いた。やっと出てきたよ。『Eden』だ」

     歌う出番を終え、それぞれ一人ひとりに割り当てられた楽屋に日和は戻って来ていた。後は番組の最後に今日の出演者全員が勢揃いして終わりだ。その時間までそれほど猶予があるわけでもないのでスマホだけ確認してみようかと手に取った。着信履歴が残っている。
    「もしもし。ぼく生放送に出てるんだけど。なんでかけてきたの?」
    「その放送をたまたま見て、何だか電話したくなっちゃって。今日はちょうど子どもの頃の君を思い出していたから」
    「うげげ。気持ちの悪いこと言うね。英智くん」
    「本当、日和くんは昔と変わらず僕への当たりが強いなあ」
    「きみは、昔ぼくが想像してたより長生きしたよね」
    電話の向こうで英智が笑っている気配がした。
    「おかげさまで」
    「何がおかげさまなの。きみが長生きしたせいで変な縁がいまだに続いちゃったね」
    「嬉しいよね」
    「ちっとも。前も言ったけど、英智くんなんか毛虫より嫌い」
    「うん前も聞いた。それで日和くんって変わっているなあと思ってたんだ」
    「ふぅん」
    「君って意外と毛虫に対する好感度高いんだね」
    「あれー? 英智くんの病気って頭の病気だったの?」
    しばらくこんなやりとりをしてから電話を終えた。本当に不思議なものである。日和も英智も、人生で様々なことがあって、全く別の経緯でアイドルを目指すようになった。アイドルになる過程でも何度も諍いになり、それでもまだ、こんな電話をたまにはする関係におさまっている。
    「まあ、生きてて良かった、アイドル続けてくれてて良かったと思わなくはないけど。ぼくとの腐れ縁は終わってくれて全然構わないのにね……うん?」
     手にしたままのスマホが震え始めた。一応まだ仕事は残っているというのに、今度は誰が電話をしてきたのだろうか。相手によっては仕事の後でかけ直そうかと思いながら名前を確認し、その相手はすぐ出なければと思う人だったので液晶内のボタンを押した。

    「もしもし、兄上? 今日の生放送見てくださったんですね?」

    「もう! たまたま楽屋に戻ってこられる番組だったから良かったですけど、そうじゃなかったら出られなかったね!」

    「はは、ふふ。いえもう少しお話ししましょう」

    「ぼく、『Eden』の中では一番お兄ちゃんだからね。それっぽく振る舞うには兄上から『お兄ちゃんパワー』を充填しないと!」

    「兄上も今日のぼくの歌で力がもらえましたか? それなら良い日和!」

    ここで電話の向こうの兄が言った言葉に、一瞬日和の言葉は止まったが、すぐに笑顔に戻りこう締め括った。

    「うんうんもちろん! 今日も愛しています兄上!」

    (終わり)

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